誘い
「倉本さん」
名前を呼ばれ、私は声の方を振り向いた。そこに立っていたのは、佐藤浩太君というこだった。
クラス委員の佐藤君は、一枚の小さな紙を差し出して言う。
「今度、秋祭りあるじゃん。」
「…うん…。」
秋祭りと言うのは、私の通う高校の近くにある大きな自然公園で、毎年行われているお祭りのことだ。
露店が並び、夜には花火大会も開催される、この辺りでは一番大きなイベント。
私は、行ったことがないけれど。
「クラスの皆でさ、行こうって話してたんだ。倉本も、是非来てよ。」
佐藤君は、にっこりと笑ってその小さな紙をずい、と私の前に差し出した。
「……。」
真ん前に出されたら、手に取らないわけにはいかなくなった。おずおずと私がそれを取る間に、一緒に話していた友達から野次が飛ぶ。
「ちょっとー。浩太君、私にはー?」
「な~んで和葉だけ渡すの~?」
「ちゃんと渡すって! お前らはちょっと待ってろよ。」
私が受け取ったのを確認して、佐藤君は野次を飛ばす恵理と、優香にも紙を渡した。
そして、去る時にもう一度、私の方を振り返り、にっこりと笑い、走って行ってしまった。
「わっかりやっす~。」
にやにやと、恵理が私の顔と自分の紙を交互に見ながら言う。
私も視線を落とし、佐藤君から渡された小さな紙を見た。
その紙には、クラスで行くと言っていた計画の概要が書かれていて、最後に、参加するかしないかを書くスペースが用意されていた。そこに名前を書き、参加か不参加に丸を付けて佐藤君に渡せばいいということらしい。
「ほんと、隠してないんじゃない?」
優香も、にやにやと私を見ている。
「? なに?」
私が二人の異様な笑いに気づき、首を傾げると、二人はより一層、にやけ顔を深める。
「絶対、好きだね。」
「うん。絶対ね。」
何を、と眉を寄せる私に、二人はビッと、人差し指で私を差す。
「……まさか。」
私が呟くと、恵理は「は~…。」とため息をつき、優香はあきれ顔で笑う。
「あのね、どっからどう見ても、あれはあんたに気があるから。 それで、どうすんの?」
恵理は、肩にかからないくらいの短い髪を耳にかけながら、私を覗き込む。私の手にあるものと同じ、小さな紙をひらひらとさせて。
「あ…。」
私は、と、口を開きかけた所で、優香が手の平を私の前にかざした。
「ちょっとは考えてみたら?」
私の答えをわかっていて、優香はそう言っているのだ。私が口を閉じ、手元の紙を見ると、優香のため息が聞こえた。
「和葉はさ~、もうちょっと、周りの男の子のこと見た方がいいよ。良いヤツだし、浩太は。」
顔をあげると、恵理もうんうんと頷いている。二人は、中学校から同じで、いつも一緒にいたらしい。佐藤君もそう言えば、二人と同じ中学校だったと思い出した。
「…。…うん…。」
良いヤツ、というのは、わかっているのだけれど。
私の気のない返事に、二人はまた呆れた顔で笑った。