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蒼の夢想い  作者: 藤咲 彩
一章
5/33

誘い






「倉本さん」



 名前を呼ばれ、私は声の方を振り向いた。そこに立っていたのは、佐藤浩太さとうこうた君というこだった。



 クラス委員の佐藤君は、一枚の小さな紙を差し出して言う。



「今度、秋祭りあるじゃん。」


「…うん…。」




 秋祭りと言うのは、私の通う高校の近くにある大きな自然公園で、毎年行われているお祭りのことだ。


 露店が並び、夜には花火大会も開催される、この辺りでは一番大きなイベント。



 私は、行ったことがないけれど。



「クラスの皆でさ、行こうって話してたんだ。倉本も、是非来てよ。」



 佐藤君は、にっこりと笑ってその小さな紙をずい、と私の前に差し出した。


「……。」



 真ん前に出されたら、手に取らないわけにはいかなくなった。おずおずと私がそれを取る間に、一緒に話していた友達から野次が飛ぶ。



「ちょっとー。浩太君、私にはー?」

「な~んで和葉だけ渡すの~?」

「ちゃんと渡すって! お前らはちょっと待ってろよ。」



 私が受け取ったのを確認して、佐藤君は野次を飛ばす恵理と、優香にも紙を渡した。


 そして、去る時にもう一度、私の方を振り返り、にっこりと笑い、走って行ってしまった。





「わっかりやっす~。」


 にやにやと、恵理が私の顔と自分の紙を交互に見ながら言う。


 私も視線を落とし、佐藤君から渡された小さな紙を見た。


 その紙には、クラスで行くと言っていた計画の概要が書かれていて、最後に、参加するかしないかを書くスペースが用意されていた。そこに名前を書き、参加か不参加に丸を付けて佐藤君に渡せばいいということらしい。



「ほんと、隠してないんじゃない?」



 優香も、にやにやと私を見ている。


「? なに?」



 私が二人の異様な笑いに気づき、首を傾げると、二人はより一層、にやけ顔を深める。



「絶対、好きだね。」

「うん。絶対ね。」




 何を、と眉を寄せる私に、二人はビッと、人差し指で私を差す。



「……まさか。」



 私が呟くと、恵理は「は~…。」とため息をつき、優香はあきれ顔で笑う。



「あのね、どっからどう見ても、あれはあんたに気があるから。 それで、どうすんの?」




 恵理は、肩にかからないくらいの短い髪を耳にかけながら、私を覗き込む。私の手にあるものと同じ、小さな紙をひらひらとさせて。



「あ…。」



 私は、と、口を開きかけた所で、優香が手の平を私の前にかざした。


「ちょっとは考えてみたら?」



 私の答えをわかっていて、優香はそう言っているのだ。私が口を閉じ、手元の紙を見ると、優香のため息が聞こえた。



「和葉はさ~、もうちょっと、周りの男の子のこと見た方がいいよ。良いヤツだし、浩太は。」



 顔をあげると、恵理もうんうんと頷いている。二人は、中学校から同じで、いつも一緒にいたらしい。佐藤君もそう言えば、二人と同じ中学校だったと思い出した。



「…。…うん…。」



 良いヤツ、というのは、わかっているのだけれど。

 私の気のない返事に、二人はまた呆れた顔で笑った。






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