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蒼の夢想い  作者: 藤咲 彩
後章
33/33

極彩色






 秋祭りから一月、庭の紅葉もまばらになり、冬の訪れを感じさせる平日の昼下がり。

 俺は、久しぶりに実家に足を踏み入れた。


「どうしたの? 珍しい。あんたが一人で帰って来るなんて。和葉ちゃん元気?」


 帰るなり、質問の嵐を浴びせてくる母に、俺はただはは、と苦笑いをする。

 なかなか言い出せない俺に、母はテーブルの向かい側に座り、いぶかし気に見ている。


「なんかあった?」


 俺を見る母の目が、いよいよ怪しくなってくる。

 俺は意を決して、口を開いた。


「俺さ、和葉のこと、好き…に、なっちゃったんだよね…。」


 説得して、絶対に手をださないと約束して。

 結局これだよ。


 我ながら、甘い考えでした。反省してます。

 でも、後悔は、してない。


 母は、きょとんと俺の顔を見て、そして吹き出した。


「あはははっ何を改まっているのかと思えば!」


 母は、ひとしきり笑った後、涙をぬぐって、予想外の反応に放心している俺の背中をばんばんと叩いた。


「そんなの知ってるわよー。あ、ただし、十八までは駄目よ。預かってるこなんだから。和葉ちゃん。」

「……。」

「あんたが気づいてたんだか知らないけど〜和葉ちゃんも、あんたのこと大好きなオーラだだもれだったしね。和葉ちゃんが大人になって、あんたのことそれでも好きだって言うんだったら、何にも文句はないわよ。」

「……。あ、……。そう。」


 俺は脱力したまま移動し、ソファにごろりと横になった。

 半端ない手汗をズボンで拭いて、身体から力を抜くと、安心したというよりも、遣る瀬なさが沸いて来る。


「凪ちゃんのことは、もう、大丈夫そうね。」


 母は、ソファの裏側から俺を覗き込んで微笑んだ。

 

「良かったわね。」


 ——凪がいなくなってから、母は俺を見て、微妙な笑顔をすることが多かった。


 俺はそれが不思議だったけど。

 きっと、無気力になっていた俺は、自分で考えていた以上に危なっかしく映っていたんだろう。


 あの時、手を引いて和葉を連れて帰った時。


 救われたのは、俺のほうだったんだ。







 がちゃりと、車のドアが開く。


「ただいまっシュウさん。」


 和葉の笑顔を、いつからこんなに眩しいと感じるようになったんだろう。

 飽きもせずに見つめて来るその瞳が、気恥ずかしく感じるようになったのはいつだったんだろう。


「シュウさん? どしたんですか?」


 いつまでも発進しない俺を不思議に思った和葉が、覗き込んでいる。

 俺は、その頬を抑えて触れるだけのキスをした。


「好きだよ。」

「———っ!?」


 勢いよく身を引いたために、ドアにがんとぶつかった和葉は、顔を真っ赤にして俺を睨んだ。

 そうやって睨む姿も、かわいくて笑ってしまう。


「〜〜っもう! 誰かに見られちゃいますよ…っ。」

「くす、はいはい。 ごめんね。」


 本当は嬉しいくせに。

 俺は車を発進させた。

 上機嫌で鼻歌まじりな俺に、和葉はふくれっつらを諦めて。


「……私も、好き、です。」

「え? ごめん、もう一回言って?」


 あんまり小さな声で言うから、つい意地悪をしたくなる。

 再び真っ赤になった和葉に俺は笑っていたけれど、その俺をみた和葉は、ふわりと微笑んだ。


 きっと、彼女も気づいてしまった。

 俺が、どんなに彼女のことを好きなのか。



 冬がもうすぐやってくるというのに、春が来たかのような温かい気持ち。


 和葉が俺の家に来て一年、少女という題で絵を描いた。


 今度また、和葉の一年を描こうかな。

 今度は、恋人という題で。


 あの小さな扉を抜けて。大好きな、海と、彼女を。




 このきらきらの世界は、とても絵に現しきれないけれど。

 だって、あの日、俺の視界にかけられた灰色のフィルターを外してくれた少女と見る世界は。

 パレットなんかじゃ作れないほど沢山の、色に溢れているんだ。




 



 読了ありがとうございました。

 ご感想お待ちしてます。


 需要がありそうなら、二人のショートショートなど書きたいなと思っています。

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