極彩色
秋祭りから一月、庭の紅葉もまばらになり、冬の訪れを感じさせる平日の昼下がり。
俺は、久しぶりに実家に足を踏み入れた。
「どうしたの? 珍しい。あんたが一人で帰って来るなんて。和葉ちゃん元気?」
帰るなり、質問の嵐を浴びせてくる母に、俺はただはは、と苦笑いをする。
なかなか言い出せない俺に、母はテーブルの向かい側に座り、いぶかし気に見ている。
「なんかあった?」
俺を見る母の目が、いよいよ怪しくなってくる。
俺は意を決して、口を開いた。
「俺さ、和葉のこと、好き…に、なっちゃったんだよね…。」
説得して、絶対に手をださないと約束して。
結局これだよ。
我ながら、甘い考えでした。反省してます。
でも、後悔は、してない。
母は、きょとんと俺の顔を見て、そして吹き出した。
「あはははっ何を改まっているのかと思えば!」
母は、ひとしきり笑った後、涙をぬぐって、予想外の反応に放心している俺の背中をばんばんと叩いた。
「そんなの知ってるわよー。あ、ただし、十八までは駄目よ。預かってるこなんだから。和葉ちゃん。」
「……。」
「あんたが気づいてたんだか知らないけど〜和葉ちゃんも、あんたのこと大好きなオーラだだもれだったしね。和葉ちゃんが大人になって、あんたのことそれでも好きだって言うんだったら、何にも文句はないわよ。」
「……。あ、……。そう。」
俺は脱力したまま移動し、ソファにごろりと横になった。
半端ない手汗をズボンで拭いて、身体から力を抜くと、安心したというよりも、遣る瀬なさが沸いて来る。
「凪ちゃんのことは、もう、大丈夫そうね。」
母は、ソファの裏側から俺を覗き込んで微笑んだ。
「良かったわね。」
——凪がいなくなってから、母は俺を見て、微妙な笑顔をすることが多かった。
俺はそれが不思議だったけど。
きっと、無気力になっていた俺は、自分で考えていた以上に危なっかしく映っていたんだろう。
あの時、手を引いて和葉を連れて帰った時。
救われたのは、俺のほうだったんだ。
がちゃりと、車のドアが開く。
「ただいまっシュウさん。」
和葉の笑顔を、いつからこんなに眩しいと感じるようになったんだろう。
飽きもせずに見つめて来るその瞳が、気恥ずかしく感じるようになったのはいつだったんだろう。
「シュウさん? どしたんですか?」
いつまでも発進しない俺を不思議に思った和葉が、覗き込んでいる。
俺は、その頬を抑えて触れるだけのキスをした。
「好きだよ。」
「———っ!?」
勢いよく身を引いたために、ドアにがんとぶつかった和葉は、顔を真っ赤にして俺を睨んだ。
そうやって睨む姿も、かわいくて笑ってしまう。
「〜〜っもう! 誰かに見られちゃいますよ…っ。」
「くす、はいはい。 ごめんね。」
本当は嬉しいくせに。
俺は車を発進させた。
上機嫌で鼻歌まじりな俺に、和葉はふくれっつらを諦めて。
「……私も、好き、です。」
「え? ごめん、もう一回言って?」
あんまり小さな声で言うから、つい意地悪をしたくなる。
再び真っ赤になった和葉に俺は笑っていたけれど、その俺をみた和葉は、ふわりと微笑んだ。
きっと、彼女も気づいてしまった。
俺が、どんなに彼女のことを好きなのか。
冬がもうすぐやってくるというのに、春が来たかのような温かい気持ち。
和葉が俺の家に来て一年、少女という題で絵を描いた。
今度また、和葉の一年を描こうかな。
今度は、恋人という題で。
あの小さな扉を抜けて。大好きな、海と、彼女を。
このきらきらの世界は、とても絵に現しきれないけれど。
だって、あの日、俺の視界にかけられた灰色のフィルターを外してくれた少女と見る世界は。
パレットなんかじゃ作れないほど沢山の、色に溢れているんだ。
読了ありがとうございました。
ご感想お待ちしてます。
需要がありそうなら、二人のショートショートなど書きたいなと思っています。




