表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼の夢想い  作者: 藤咲 彩
後章
30/33

手遅れ






 忘れていたけれど、俺は、人と関わるのが苦手で。


 連れてきたはいいが、何を話せばいいのかわからずにいた。





 縁側にぼんやりと座りながら、庭を眺めていたり。

 その横で、和葉はごろりと横になる。



 退屈だろうと思うのに、毎日、本当に幸せそうに笑ってくれるから。



 このまま、のんびりとした時間が過ぎていくんだと、思ってた。






 和葉が高校に入学してすぐ。


 少しの変化が訪れた。



 和葉が少し、挙動不審で。

 それを隠そうとしているのが見え見えなのに。



「何か、あったんでしょ。」



 俺の問いかけに、ぽかんと口を開ける。



「ななな、何もない! です!」



 下手くそな嘘は、なんとなく面白くなかった。

 




 和葉を毎日、送り迎えをすることにしたのは、年頃になって友達と遊ぶようになれば、話す時間がなくなるだろうと考えたからで。



 別に帰りに遊んで帰って来るならそう連絡するように伝えていた。



 でも、思いのほか、和葉は友達と遊ぼうとしなかった。

 遠慮しているのかと、遊んでおいでと言ってみても、あまり気が乗らなかったようで、すぐに帰ってきた。



『そう言えば、和葉、杉原に告白されてたでしょー。』

『えっ! なんで知っ…っ!』


 そんな会話が聞こえてきたのは、いつも車を停めていた場所が別の車でいっぱいで、少し遠い所にとめたからと、校門まで和葉を迎えに行ったときだった。


 ちり、と。


 胸の奥がきしんだ。



 高校生にもなれば、そういうことも増えるか。


 俺も、人のことは言えないから。


 保護者、なんだから。

 あまり首をつっこむもんじゃない。



 何度繰り返しても、心のどこかで納得できない自分に、戸惑った。



「あっシュウさん!」


 俺を見つけて。

 駆け寄って来る和葉。


 俺の勝手な独占欲で、このこを縛ることだけは、したくなかった。





 母の、戒めが聞こえる。

『絶対手、出すんじゃないわよ。』


 あの時は、なんの冗談かと思っていたけど。



 まだ大丈夫。

 懐いてた雛が、巣立つのが寂しいだけだ。



 まだ、引き返せる。

 まだ大丈夫。




 ———でもさ、そうやって言聞かせている時点で。もう手遅れなんだって。







 和葉は、告白は断ったみたいだった。

 休日になっても、俺のアトリエの中で飽きもせずに俺の作業を見たりしていた。


 二人の穏やかな暮らしは、また何事もなく過ぎて行く。



 そう思っていた、和葉が十七になった年の秋。

 


「シュウさん。」

「ん?」

「シュウ、さん。」

「はいはい、何ですか。」



 和葉は、俺の名前を呼ぶ。

 何度も、何度も。


 毎日飽きもせずに、俺の横顔を見つめている。

 その顔を、俺もこっそりと見ていること。


 何度も呼ぶその声が、俺を幸せにしていることも。


 彼女はわかっていないだろうけど。



「シュウさん。」

「聞こえてるって。」


 今日はあまりに呼ぶから、俺は吹き出した。

 くすくすと笑っている俺を、それでも見つめている。



「…ねぇ、シュウさん?」

「何ですか。」



 時々、からかうために使う敬語。

 一緒に暮らして三年目にもなるのに、和葉が敬語をやめようとしないから。


 くすくすと。

 完全に油断している俺に。


 彼女は唐突に。




「シュウさん、好きです。」



 どくりと、心臓が変に脈打った。

 でも、会話をするように紡がれたその言葉は、放った本人が一番動揺して見えた。



 真っ赤に染まった顔。

 泳ぐ瞳。



 本人の動揺を見ていると、なんだかおかしくなって来た。

 そんなに真っ赤になって、大丈夫かよ。


 少し迷って。


「何を、今更。」


 俺は、できるだけ平気なふりしてそう言った。


 ちり。と。

 胸を焼く痛みと。


 嬉しさに緩む口元に、気づかれないように。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ