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蒼の夢想い  作者: 藤咲 彩
一章
3/33

蜻蛉






 ひらひら。それは、私の手の甲に舞い降り、そしてひととき羽を休める。



「(そぉっと…。)」



 縁側に座る、あの人に見せるため、そっと、後ろを振り向いた。


「あっ…。」



 パタタ、と。私は飛び立つトンボを視線で追いながら、そんな声を出した。



「ん?」


 見慣れた白いシャツを着て、今日も穏やかに涼んでいる。秋めく木々の紅葉を眺め、彼は目を細めた。



「シュウさんに、見せようと思っていたのに。」



 何を、とは言わなかったけれど、シュウさんは少し私に視線を移して、そして笑う。

 くすりと、いつもの、少し意地悪な笑顔で。



「こっち、おいで。」



 シュウさんは、手でぽんぽんと、自分の隣を叩いている。



 おいで、と。


 その言葉に、私が決して逆らえないことをわかっている微笑みを浮かべて。



「いいこだね。」



 大人しく隣に腰を降ろすと、頭をぽんぽんと撫でられた。もう、今年で十七歳になるというのに、いつまでたっても、この扱いは変わらない。





「もう…。」



 嬉しい気持ちを隠して、私はいじけてみせる。



 ちらり、とシュウさんを盗み見る私は、やはりさっきと変わらず庭の景色を眺めるシュウさんの横顔に、落胆もあらわにため息をついた。



 

 私のことなど、もう見えていないように、シュウさんはただ座っていた。


 シュウさんの隣にいると、いつも、こうしてまったりと時が過ぎて行く。




 風が、香る。



 隣にいる、シュウさんからはいつも、洗い立ての洗濯物の匂いに紛れるように、かすかに、絵の具の匂いが混ざっている。




「くすくす。良く、飽きないね。」


「え?」



 気がつけば、シュウさんはこちらを振り返り、私の目を覗き込んでいた。




「いつまでも、俺を見つめる。」



 そう言われた瞬間に、私の体温は上昇する。

 火照る頬に、多分、いや、絶対。耳まで真っ赤になっているのだと確信していた。




「(――飽きる、わけない。)」



 こうして、ただ見つめられるだけで、こんな風になってしまうのに。




 永遠にも思える数秒ののち、シュウさんは私からふ、と視線を外す。




「冷えてきたね。」



 ゆったりと季節が移り変わる。




 秋を彩る、色の一つ。

 赤いトンボがまた、私の手の甲へと舞い降りる。





 私がここに来て、もう、三度目の秋だった。






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