色々
凪のいなくなった生活は、コンクリートの壁に囲まれた、牢獄の中にいるようなものだった。
灰色のフィルターがかかった世界で。
毎日、絵を描いてたけど、その他のことは覚えていない。
大学もやめて、画家として仕事だけをしていた。
―――海の絵は、描けなかった。
お世話になっている画家の先生が開く個展が、児童擁護施設で開かれるから行ってみないかと誘われたのは、凪を失って二回目の秋だった。
孤児は、今の日本ではあまりいなくて、殆どが何らかの理由で親と暮らせない子供達だと説明された。
ホールのようなことろの窓から、一人の女の子がこっちを見ていた。
まだ小さくて、背の高いこたちに埋もれていた。
けど、不思議そうにこちらを見つめる目が、昔の凪に、少しだけ似てると思った。
窓に近付くと、女の子は少し驚いたように俺を見上げた。
「こんにちわ」
ガラス越しでは、聞こえないのかもしれない。
女の子は俺を目を丸くして見つめている。
何か伝えたいのかと、首を傾げた。
すると、女の子も一緒の方向にコテン、と首を傾げた。
―――その瞬間、俺の世界に色が戻った。
嘘みたいに、鮮やかな世界が広がって行った。
小さな女のこは、俺を見つめていて。
色を失った世界で、俺を、見つけてくれたんだ。
「最近、先生よくあの施設に行っているみたいですね。」
池田さんは、俺に仕事をくれたり、コンクールの案内をしてくれたりしてくれる、仕事のマネージャーのような人。
今日も打ち合わせで、こんなど田舎の俺の家まで来てもらっている。
「あぁ…恩人がいるんです。」
「恩人?」
色を失った俺の世界に、また色を戻してくれた。
フィルター越しに描いていた絵を今見たら、本当にでたらめに、色を使っていて笑えた。
笑えるくらいに、なれていた。
あれから、俺は月に一回くらいのペースで、施設の中高生に絵を教えに行っている。
その、ついでに。
いや、あくまでついでにね?
あの女の子の顔を見てから帰る。
女の子は和葉といって、交通遺児だった。
施設の中での彼女は周りに気をつかって、とても素直。
先生方からの評判もよく、年上のこたちにも気に入られて、年下の面倒もよくみるような、絵に描いた様によくできたこだった。
でも、ずっと見てると気づく。
時々、泣きそうな顔で笑っている。
たった、十二歳の女の子が、必死に強がっているその姿は。
胸の奥を、きゅ、と締め付けた。




