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蒼の夢想い  作者: 藤咲 彩
三章
23/33

嫉妬






 放課後、私は佐藤君と、裏庭のベンチに腰掛けていた。

 佐藤君は、ずっと前を向いている。


 私はと言うと、居心地の悪さに、俯いてはちらりと彼を伺うという、落ち着かない視線をさまよわせていた。



「…そっか。やっぱ、駄目かぁ。」


 佐藤君が、そこでようやく口を開いた。


 顔をあげると、隣に座る彼が私の方に笑いかけていた。


「好きな人って、…あの一緒に住んでいる人?」



 好きな人がいる、と。正直に告げた。

 他の人が入り込む余裕は、今の私には一ミリもないから。


 佐藤君はとてもまっすぐに、私を見つめてくれる。

 だから、私もそれに応えるようにまっすぐ、彼を見て頷いた。


「…そっか。」


「……うん。」



 佐藤君は一瞬、舞い落ちる葉に視線をやった後、また私の方を見て、にっこりと、あの愛嬌たっぷりの笑顔で笑う。


「振られたら言ってね?」

「…え。」



 あはは、と笑いながら、佐藤君は立ち上がった。

 そのまま歩き出す彼が、少し振り返り、私を促すように首を傾げる。

 私も立ち上がり、佐藤君の後に続いた。



 私は多少気まずさを感じていたけれど、佐藤君はまるで何も無かったかのような振る舞いだ。

 何気ない会話をしながら歩いていると、いつもは裏門まで行かなければ居ないはずの、シュウさんの姿を見つけた。




 佐藤君も気づいたようで、ぺこりとシュウさんにお辞儀をする。



「じゃ、倉本、また明日な!」


 元気いっぱいの、いつもの佐藤君の声。

 手を振って歩いていく彼に、私も手を振り返す。


「なに、まだ返事してないの?」


 佐藤君がちょうど校門の向こうへ見えなくなると、シュウさんが私を覗き込んだ。


「…え?」


「キープすることにしたの?」


 何を言われているのか、一瞬考えているすきに、シュウさんはくるりときびすを返して歩きだしてしまった。


「え、あの、シュウさん?」


 私はシュウさんを追いかけ、呼びかけるけれど、シュウさんは私を振り返ろうとしない。

 裏門の駐車場に、無断で停めていたスカイラインに乗り込んで、エンジンをかけてしまう。

 私も慌てて助手席に乗り込み、シートベルトをしめた。



「あの、何か、怒ってるんですか。」



 私がシュウさんを覗き込もうとすると。

 一瞬で、目の前に影ができた。


 かぷり。と。


 鼻に、少しの痛みを感じた。


 放心する私に構わず、シュウさんはギアを入れ、車を走らせてしまう。


「……、っ!? え、今、え?」


 私は、鼻を押さえてシュウさんに抗議した。彼は、私の鼻を噛んだのだ。


「……今、鼻噛みました?」


 混乱したあげく、事実を確認するにとどめてしまった。


「噛んだよ。ムカつくから。」


「むか…?」


「この前言ってたの、彼なんでしょ。」



 この前言っていたの、とは。告白されたヒト、ってことで間違いないだろうか。

 シュウさんの機嫌が悪いのは、私が佐藤君と一緒にいたからなのだろうか。


 だとしたら。

 それって。


「……シュウさん。」


「……ん。」


「それって、嫉妬ですか?」


「……。」


 いつも見ている、シュウさんの横顔を、私は真剣に見つめる。

 イエスかノー。そんなことはありえないと思いながらも、私はイエスを期待してしまう。



 シュウさんは赤信号で止まると、一心に見つめる私をちらりと見て、そしてくすりと笑った。


「……そう、かな。……あのさ、恰好悪いから、あんま見つめないで。」


「――っ!」


 私の心臓はその言葉を聞いた途端、狂ったように鼓動を始めた。

 頬が上気し、全身が脈うつ。


 いつも見つめる私を、私の好きなようにさせていたシュウさんが、それを止めろと言っている。

 しかも、嫉妬した自分を見られたくないという理由で。



「…シュウさん、私、ちゃんとお断りしましたよ。」



 信号が青になり、アクセルを踏むシュウさんに私がそう告げると、少しだけ息を吐きだした。



「私、シュウさんが好きなんですよ。」



 もう、この熱くなる身体にも慣れてしまったかもしれない。

 どきどきと鳴る胸の痛みが、どこかここちよくなってくる。


 脈が教えてくれる。

 私が、誰を好きか、まっすぐに。



「……知ってる。」


 シュウさんの、少しすねたような声に、私は笑った。

 そんな私に、シュウさんの手がこつりと頭を小突くけれど、そんなことすら嬉しいと感じてしまう。



 シュウさんと私の距離は、少しずつ、私の望むように。


 近づいているのだと思っていいのかもしれない 。






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