もみじ
シュウさんの好きな、梅こぶ茶。肌寒い秋に、今宵もまったりとした夜が来る。
「……。」
今日は忙しそうに朝から遠くに出ていたシュウさんが、ついさっき帰ってきた。
私が作った夕飯を食べ、シュウさんと過ごす、大好きな時間が始まる。
居間の、畳の上にころりと。
シュウさんが梅こぶ茶を飲むすぐ側で丸くなった私は、下校の時、バス停での出来事を考えていた。手に、あの小さな紙を握り締めて。
『俺、倉本が好きなんだ。』
まっすぐ向けられた言葉に、私はどきりとした。
告白を、受ける方もこんなに気持ちが落ち着かないものなんだろうか。
私の告白を、いともあっさり流してしまったシュウさんを見上げ、その変わらない綺麗な横顔に小さく息を吐き出す。
「くす。何?」
「え…。」
「人の顔見たと思ったら、ため息なんか吐いて。」
気づかれてた…!
私は瞬間的に上がる体温に気づかれまいと、シュウさんと反対向きにころりと転がった。
「…。何、構ってほしいの?」
「……!?」
シュウさんは、そういうと、後ろ向きの私の身体を両手でころりと元のようにシュウさん向きに直してしまった。
胡座に頬杖をついて、シュウさんの方を見上げる私の髪の毛で遊び始める。
「……シュウさん。」
「はい。」
「……シュウ、さん…。」
「何ですか。」
呼べば、応えてくれる奇跡。
この前も、それを感じて。
何度も呼ぶうちに言ってしまった。
「……あの、私、今日…。」
「うん。」
「…告白、されたんです…。」
シュウさんは、一瞬、動きを止めた。
流れるように髪を梳いていたその手が、ぴくりと、本当に一瞬だけだったけれど。
でも、それさえも、私の予想を大きく裏切る反応だった。完璧に無反応なことを予想していたから。
「……そうなんだ?」
シュウさんの声は落ち着いていて、その指先もさっきのように、私の髪の毛をいじることを再開している。
「…。」
「……。」
私もシュウさんも、何も言わない。いつもそんなに話をする方ではないけれど、今の沈黙は少しだけ気まずい。
「前にも、あったよね。」
「え?」
シュウさんは私の髪で遊びながら、窓の外の庭に目をやる。
「高校入って、すぐの時とか。」
「…あ。」
そう言えば、そんなこともあったかもしれない。
全く知らない人だったから、その場で断った。
でも。
「……それ、私シュウさんに言いましたっけ…。」
私の中に、そんな記憶はない。
シュウさんは庭を眺めていた視線を、ちらと私に向けた。そしてふっと微笑むと、また庭へと戻してしまう。
「…わかるの。和葉、分りやすいから。」
再び、熱が頬をくすぐる。
「す、透けてますか、私…。」
私の問いに、シュウさんは横顔のまま、にやりと口元を緩めた。
「……シュウさん。」
「何?」
「……シュウさん?」
「くす。はいはい。」
佐藤君への返事は、考えるまでもない。
私の心がいつだって、この人にだけ過剰に反応を示すから。
「透けてる、なら…。」
どうして、何も言ってくれないんですか。
そう続こうと開いた唇は、シュウさんの視線に捕まって音を発することはできなかった。
「ごめんね。もうちょっと…待ってくれる。」
シュウさんは、私を見ていた。
窓の外、燈籠の淡い光に照らされた赤い紅葉を背負うように。
シュウさんは私を見ていた。
けれど、その瞳に、何が映っているのかは、私にはわからない。
向けられた瞳に、私がそのまま映っているなら。
――この人はどうして、そんなに切ない顔をするのだろうか。
先日の、池田さんの言葉を思い出した。
もうちょっとで海が描ける。
池田さんはそう言って。
それから彼はもう一つ。
私のことを。
”紫の上”と言ったのだ。




