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蒼の夢想い  作者: 藤咲 彩
三章
20/33

バス






 最近、シュウさんは忙しい。

 海外のコンクールに出展する、学生の絵の審査をするだとかで、ひっきりなしに池田さんその他、この間の展示会で見かけた人たちがシュウさんの屋敷へと訪れる。





「……。」


 私は、鞄にいつものようにゆっくりと教科書やノートを詰め込み、下校ラッシュを過ぎ人通りの無くなった階段を下り、学校の玄関に出た。

 いつもなら、迷わず裏口へ足早に向かう所なのだけれど。


 今日は、シュウさんの迎えがない。



「……これ、だよね…。」


 私は学校の近くのバス亭に立ち、自分の乗るべきバスの時刻表をこれでもかと見つめていた。

 このバスは本当に着くのか。家に。

 学校からバスで帰るのが初めてな私は、不安な気持ちでバスを待っていた。


「あれ? 倉本。」


 そわそわとバス亭に立つ私の後ろから、近頃ではお馴染みになった佐藤君が現れた。

 誰かにこの落ち着きの無い不安な私を見られるのを避けるために、わざと下校時間をずらしているのに。

 佐藤君は、何故この時間に下校しているのだろう。


「あ、…お疲れ。」


 にっこりと微笑む彼は、私の隣で自分の乗るバスを確認する。



「あ、倉本さぁ、あれ、考えてくれた?」


「…あ! 今、出すね。」



 私は以前渡された小さな紙を、財布の中から取り出した。

 欠席を丸で囲み、自分の名前を書いた紙を、佐藤君に差し出す。



「……。?」


 差し出した紙を見た彼は、なかなか受け取ろうとしなかった。



「…佐藤君?」


 じっと紙を見ていた佐藤君に声をかけると、佐藤君はばっと私を見て、それから小さな紙を持っている私の手ごと、その手で包み込んだ。



「え。」



 驚いて見上げると、真剣な瞳が私を見下ろしている。

 何、と言おうとした私よりも先に、彼の唇が動く。



「何か、用事?」


「え、…。」

「あのさ。」



 用事がある、と。言ってしまえば良かったんだろうか。

 言いよどむ私に、佐藤君は手を少し引き、距離が近くなる。



「俺、倉本が好きなんだ。」




 握られた手に、熱がこもる。

 まっすぐに見つめられた瞳から、私は目を反らすことができなくなってしまった。



「……え?」


 思わず聞き返した私に、佐藤君はにっこりと笑って。


「気づいてなかった?」


「……。」



 そう言えば、そんなことを前に恵理と優香に言われた気がする。

 私自身も、そう感じることが無かったわけではないけれど。


 でも。



「あの、佐藤君…。私、」



 

 好きな人がいる、そう続くはずだった言葉は、バスの到着の音にかき消された。

 佐藤君の待っていたバスだったらしく、彼は私の手をもう少しだけ引き寄せて。



「もう一回だけ、考えて。」


「――っ!」


 耳元で囁く声は、いつもの元気な彼の声ではなくて。

 男の子なんだ、と。


 もし、そう私に意識させる為に彼が故意にしたことなら、かなり上手な策士だ。



「じゃ、また明日!」


 にこりと、いつものように微笑んで颯爽とバスに乗り込んでいく。

 私は佐藤君の乗ったバスを見送りながら、火照った頬に受ける風の涼しさを感じていた。






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