微熱
息を切らすように、車内に乗り込んだ私を、シュウさんはハンドルにもたれかかった体勢のまま、斜めに見る。
「そんなに慌てて。」
す、と。シュウさんの手が伸び、私の顔の横をすり抜け、髪を梳いた。風に絡まってしまっていたらしい横髪を直してくれる指先がこそばゆく、私は少しだけ、首をすくませた。
「…ありがとう、ございます…。」
「いえいえ。」
運転席でシートベルトを掛けるシュウさんを見ると、先ほどの会話を思い出してしまった。
急いで正面に向き直り、熱く火照る顔を窓の方へと、あくまでさりげなく、さりげなく、…。
出来るはずもなかった。
「…? 和葉。」
いつも飽きること無くシュウさんを見つめている私が、そんな風に不自然に顔を背けることに、当然彼は疑問を持つ。
覗き込もうとするシュウさんだったけれど、私の頑ながんばりに、ついには見逃してくれた。
「はぁ……。」
夕食を済ませ、私は居間でお気に入りのふかふかブランケットにくるまり、ごろりと横になる。
シュウさんは私の寝転がるすぐ横で、窓の外に見える庭を眺めているらしかった。
何をするでもない、このまったりとした時間。
シュウさんがいるだけで、この時間が特別なものになる。
『具体的にはキスしたいか、…。』
私は、今日の恵理の台詞を半分思い出し、すぐに自己規制をした。あんな言葉、頭に浮かべただけで沸騰してしまいそうだ。
「……ふっ。」
頭の上から降る笑い声に振り向けば、いつの間にかシュウさんが私を見ている。
ドクリ。
心臓の鳴る音が響き、血管が圧を上げる。
私の中のめまぐるしい変化が分っているように、シュウさんはにやりと口を緩めた。
「さっきから、一人百面相でもやっているの。」
「え…。」
「顔が赤くなったり青くなったりしてる。」
私は恥ずかしくて、ばふ、と顔を持っていたブランケットの中に埋めた。それを見て、シュウさんはまた、くすくすと笑う。
「何か、あったんでしょ。」
私がこんな風になる理由など、わかっているくせに。
何があったとしても、こんなにも心をかき乱すことは、私の世界にたった一つしかないことを、この人は知っているくせに。
この綺麗な顔をした意地悪な男は、さも楽しそうに、私に問いかけるのだ。
「…何にも、ありません。」
「……そ?」
くすり、と。静かな笑いを残して、シュウさんはまた先ほどのように、窓の外に見える、燈籠の淡い光に照らされた庭を眺める。
そして、その左手で、私の髪の毛を弄び始めた。
悪戯に。
気まぐれに。
この人はそうやって、私で遊んで楽しむのだ。
そんな風にシュウさんが遊ぶから、頬に残った微かな熱が、未だ引く気配もない私は、顔をブランケットに埋めたままそれが収まるのを待っていた。




