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空高く

作者: 多田野一兵

子供の頃、よく鳥になることに憧れていた。


鳥のように飛んでどこまでも行ってみたい。


だからよく空を見上げながらぼーっとしている事があった。


ある日は綺麗なスカイブルーの空に、真っ白な入道雲があって


ある日は雲ひとつない空に、飛行機雲が一直線に伸びていて


ある日は雲で青空が見えなくって…。


一度も同じ姿をした空を見たことはない。



今僕は、福岡発−名古屋小牧行き JAL4404便に搭乗しようとしている。

CRJ−200の機体は50人が乗れる程度の小さな機体で、

ボンバルディア社製のリージョナルジェット機と言うタイプの飛行機らしい。


窓越しに見えるボーイング747は凄まじく大きい。

「よくあんなものが空を飛ぶな…」

僕は飛行機に乗るたびにこんな事を考える。


でも、実際は自転車に乗っているよりも、車に乗っているよりも

非常に安全な乗り物だという…。


ある熟練パイロットは

「飛行機に乗ってから、飛行機を降りるまでの時間が一番安心できる」

と言ったことがあるほどだ。


僕はそんな事を思いながら、座席についた。



やがて滑走路へ移動し、飛行機は急加速を始める。



飛行機が離陸すると、僕の胸は高鳴る。

雲を掻き分け、安定飛行に移る頃には、僕は雲の上に居る。


いつも下から見上げていた雲が、今は太陽の光を燦燦と上から浴びて

真っ白に輝いて見える。

真っ青な青空に真っ白な雲のコントラストは、ここにまで来ないと見ることはできない。

至福のひと時だ。


「今は鳥よりも、もっと早く、もっと上を飛んでいるんだな…」

僕はふと思った。



この飛行機に乗っているのは、スーツを着たビジネスマンが多く

僕のようなラフな私服を着ている人はほとんどいない。


それぞれが子供の頃に見上げた空のように、同じ姿は1つもなく

それぞれがまったく違う人間として存在している。


ある人は、眠っていたり

ある人は、音楽を聞いていたり

ある人は、雑誌を読んでいたり


そう、まったく同じものはない。


大空にの中にいると、つい気持ちが大きくなりがちで

この人々それぞれに、たくさんのドラマがあるんだろう…

などと思ってしまう。


そしてそれは、この狭い機内だけの世界で、

この飛行機の外にはもっと壮大で数えきれないほどの人々に

数えきれないほどのドラマがあるんだろう…


僕は今、その数えきれない人々の中の

たった一人のためだけにここに座っている。



やがて飛行機は伊勢湾上空を旋回し着陸態勢に入る。



着陸の時の飛行機はよく揺れる。

恐らくは翼を大きく広げ、減速して翼の揚力を最大限に利用するため、

空気の状態や風の状態に左右されやすいからだろう。


でも僕は、それがまもなく到着の合図だと思うと、機体の揺れよりも

もっと大きな喜び、嬉しさで溢れ、恐怖心など忘れてしまっている。




「もうすぐ会える・・・」


ここまで来ると、それしか考えられない。




到着ロビーへ着くと、1人の女性が駆け寄ってきて僕に抱きついた。


空港でたまに見られるひとつのドラマ。


僕がこの飛行機の中で感じた胸の高鳴り、喜び、嬉しさは全て

この世界中でたった1人しかいない彼女だけのため。


遠く離れていても、同じ青空の下、星空の下、ずっと心は繋がっている。

どこに行っても、どこに居ても、ずっとずっと繋がっている。


僕は、そんな二人を繋げてくれる、そして世界中で起きているたくさんの

ドラマを見守ってくれている空が大好きだ。


子供の頃と変わらず、そんな大きくて広い空が大好きだ。

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[一言] 青い空ンギモッヂイイ!イグッ!
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