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プロローグ
薬品の匂いが立ち込め、まだまだ夏の足跡の残る日差しが入ってくる部屋に、2人の少年はいた。
片方の少年はベッドに体を預け、上半身を起こし窓の外を静かに眺めている。そんな彼に、少し離れたドアの近くに立つもう1人の少年が悲しげな眼差しを送っていた。
ふと、ベッドの上の少年が口を開き、こんなことを言い出した。
自分が、もう1人いればいいのにな…。
それは、あまりにもか細く、弱々しい声であった。
そんなことは、誰もが一度は考え、願うことだろう。そして、すぐに叶わない夢だと思い直し、その考えを捨てるものだ。
立ちながらその呟きを聞いたもう1人の少年は、そんなことあり得ないと言いかけたが、その口を慌てて閉じた。夢で終わらせない、たった一つの方法を見つけたのだ。
ただ少年は、目の前の人物の力に、希望に、夢に、なりたかっただけなのである。
「兄貴。俺が兄貴の、もう1人のあんたをやってやるよ」
それは、顔がそっくりな、彼らにしかできないことであった。
少年はその時の、息を吹き返したような顔をする兄の姿を、とても喜ばしく思った。