第七話 訪問と誤解
翌日車に揺られ、純はぴっとり寄り添ったスイの髪の感触で目を覚ました。柔らかくて優しい触り心地の髪だった。大上が運転していて、助手席には髭の男、実元が座っている。
この男は一見すれば、少しおしゃれなヤクザに見える。カタギにはまったく見えない。
「安西さん怒ってるかもしれないですね。」
大上が気の毒そうに言うと、実元が笑った。
「でもないさ。マナちゃんは昔から皐月が好きだし、キナコちゃんのことも可愛がってる。あれはツンデレってやつだな。」
純は、この端正な中年の口からツンデレという単語が出たことに驚いた。
「でも何故か俺にはツンだけでデレがないんだよ。」
「俺にはクールな部分だけでデレはないですね。」
なんだこの会話。純の目がミラーごしに実元とあった。
「酔ってないか? 」
「大丈夫です。」
純の声でスイが目を覚ました。目をこすってから純を見て、それからまた安心したように眠る。
「純君彼女いないのか? こんな可愛い女の子連れて帰ったら大変だろ。」
「運転席の男に寝取られました。」
どこが受けたのか、実元が笑う。嫌なおっさんだ。
「敦相変わらずひっどいやつだな。」
「それについてはごめんね。」
「もういい。」
相変わらずこの件に関しての大上の謝り方はゆるい。
大上の電話が鳴った。実元が代わりにとる。相手はキナコだった。
「おいちゃん。おなかすいた。」
「もうそんな時間か。高速だからだるいうどんくらいしかないぞ。」
「だるいうどんでもいい。キナコはおなかがすきました。」
電話の向こうで安西が我慢しなさいと怒鳴っている。もうツンとかデレとかよりも、お母さんだ。
「マナちゃんがいいって言ったらいいぞ。」
実元が電話を切る直前、キナコのおなかすいたコールがした。大上が気の毒そうな顔をしていた。この場合気の毒なのは安西だ。
「皐月がいるとキナコちゃんの腹時計正確だな。」
実元が笑った。純は、この雰囲気なら聞けそうだと思って言った。
「赤須さんって何歳なんですか? 」
赤須の外見は大上より年下に見える。キナコぐらいの子供がいるようには見えない。
「見たままにけっこう近いぞ。」
答えになってはいないが、若いというのは間違いないらしい。
「タバコ吸っていいか? 」
「どうぞ。」
純が言うと実元は葉巻を取り出した。それを咥えるとマッチで火をつける。
「皐月が珍しく君らに優しいのはキナコちゃんの境遇に似てるからだろうな。」
実元が言った。純はスイを見た。大上と同じことを言っている。
「俺たちに、優しいんですかね。あの人。」
純はそうでもないと思っているが、長い付き合いらしい実元には感じるものがあるらしい。
「キナコちゃんの母親はな、神降ろしの巫女だったんだ。」
少し窓を開けて煙を吐く。
「イタコって知ってるか? 」
「ああ、なんか山奥に住んでて、死んだ人の通訳する。」
純のうろ覚えの知識を言うと、実元が笑った。
「キナコちゃんの母親はそれの神様版でな、だがその一族が特殊だったのは巫女は神を身ごもるんだ。ただ一時憑依させるんじゃなく、神を現世に降ろさせる。神を産み落とす女性だったんだがな、本人たちはたまったもんじゃない。監禁されて一生外を見ることはないし、ほとんどの娘は出産に耐え切れず死んだ。」
キナコの明るい表情からは信じられない話だ。
「キナコちゃんの母親は、皐月がそこから連れてきた。追っ手は来たけどあの調子で殴って追い返した。」
本来なら素敵なラブロマンス小説のワンシーンなんだろうが、赤須がバッドを振りかざしている姿はどう想像しても絶滅危惧主な暴走族だ。
「それで産まれてきたキナコちゃんのことでかなりもめた。皐月の娘には間違いなかったが、神かもしれない。結論はなかなかでなくてな、短気なあいつが会議を血まみれにしないか俺は毎日肝を冷やしたもんだ。」
あははと笑っているので緊張感がそげる。純はその光景を想像して自分は絶対混じりたくないと思った。
「あの子、何か唱えてましたけどやっぱり皆さんそういう呪文とかお経みたいなの使うんですか? 」
好奇心から純は聞いてしまった。
「重要なのは集中力だ。キナコちゃんのは昔から寝る前に聞かされてた詩集とか古文でな、落ち着くらしい。実際は詠唱なんかしてたら死ぬしな。」
「実元さんの場合は攻撃しすぎですけどね。」
大上が苦笑いをした。
携帯電話がまた鳴り、実元が出る。相槌を打って電話を切った。
「マナちゃんが折れた。」
スカイラインがサービスエリアに入っていく。純は、安西はさぞかし恐ろしい顔をしているだろうと思った。
案の定、海鮮丼を食べる間も安西の顔は穏やかとは言いがたかった。キナコはうきうきで赤須から海老天を一口もらっていた。スイがうらやましそうな目で見るのでやめてほしい。
「純ちゃん、お土産はいいの? 」
キナコが大上からもらったコロッケをもりもり食べて言った。そういえば美加に言われていた。忘れていたらどんな目にあうか。純は肉うどんをかっこむと土産物屋に行った。スイがすかさず服をつかんでついてきて、キナコもついてきた。
平日なので人はそれほど多くないが、割とにぎわっていた。名物のクッキーと親には漬物を買い、キナコはご当地スナック菓子を見ている。スイはきょろきょろしていたが、それでも純の服を離さなかった。
「スイもなにか欲しいか? 」
純が尋ねたが、スイはじーっと何かを見た。幼い女の子が母親からソフトクリームをもらっている。さっき食べたばかりなので、親子を見ていたのだろう。髪を二つ結びにした、可愛らしいワンピースの女の子が、右手にソフトクリーム左手に母親の手をつかんで、よちよち歩く。母親は女の子を見守るように、話しかけながら歩いていた。
純はみやげ物を買うと、右手に荷物を全部持って、左手をスイに差し出した。スイが嬉しそうに笑ってその手を握る。周りには自分たちと同じように、よりそったカップルがいくらでもいる。気にすることはない。
そう思ったとき、視線を感じた。みやげ物を売っている売店の影に、七恵がいた。じっとこっちを睨んでいる。
「純ちゃん、これすごいよ。いまどきカセットテープだよ。」
キナコが怪談のテープを持ってきた。もう一度振り返ると七恵はいなかった。気のせいだろうが、今さら七恵に睨まれるような罪悪感はない。七恵みたいに、茶髪で髪の毛を巻いた女性はあちこちにいる。見間違いだろうとさして気にしなかった。
高速道路を降りて、大上はマンションの前で実元を下ろした。純は荷物をまとめるためにアパートに帰った。大上が車で送り、純が降りるとスイも降りてきた。純は部屋に行こうとして、立ち止まった。
部屋の前に女子高生がいた。チェックのスカートに白いブラウス、赤いリボンを結んだ女の子がこっちを見た。髪の毛は肩のところまでの長さで、化粧っ気のない歳相応の可愛い顔立ちをしていた。
純があっと立ち止まる。女子高生は立ち上がって純を睨んだ。
「なんでケータイでないの? 」
純は、携帯電話を見た。充電が切れていた。女子高生はじっとスイを睨む。
「誰? 彼女? 」
「なんで、お前がいるんだよ。」
女子高生は純を睨んで言った。
「純が出ないからでしょ。もうすぐ私の誕生日なのに、無視するなんてどういうつもり? 」
怒鳴るような口調に、純は周りの目をうかがった。大上が何事かと出てくる。
「純、俺けっこう罪悪感感じてたんだけど、そうでもなかったか? 」
「違う、こいつは妹だ。」
純は思わず叫んだ。
「妹の律だよ。」
大上が妹と純を見比べた。
「律、俺忙しいから、ちょっとあそこにあるミスドで待ってろよ。」
「私が何時間ここで我慢してたと思うの。」
叫ばれた。大上が落ち着かせるように言った。
「俺がお茶買ってくるから部屋で話しろよ。」
大上が気をきかせてて言ったが、スイは純の服を離す様子はなかった。律が睨んでいるが、純は長いドライブの疲れもあって、部屋に入った。
「俺ちゃんと帰るって言っただろ。母さんから聞いてないのか? 」
「あさってだよ。なのに、純連絡ぜんぜんとれないじゃない。」
純はケータイを充電器にさして、座った。スイもぺたりと座る。律は純とスイを見下ろした。
「あのさぁ、他の人のいないところで話したいんだけど。」
律の言い分はもっともだと思ったが、スイが頭をぺたりと純にくっつける。
「お前の言いたいこともわかるけど、多分電話で話したほうがいいと思う。」
スイは自分たちの話を他人に漏らさないし、なんのことかも理解できないだろう。けれど律には納得できない。
「最悪、そういうべったりくっついたカップルって嫌いなんだよね。まさかそういう馬鹿に純がなるとは思わなかった。」
さすがに純はかちんと来た。
「用が済んだら帰れよ。」
「帰るわよ馬鹿。」
そう怒鳴って律は出て行った。大上がしまったばかりの扉から入ってきたときには、ペットボトルを見て純は少し申し訳ない気持ちになった。
「いいのか? 妹ちゃん帰っていくぞ。」
純の実家はここから電車でも一時間以上かかる。さすがに悪い気がしてきた。
「オオカミさんこれだけくれ。」
純は妹が嫌いじゃなかった、紅茶のペットボトルをつかんで走った。スイも一緒に走ってくる。
「待てよ、律。」
律が振り返った。けれどすぐにまた前を向いた。
「ついてくるな。」
「待てよ。これ持っていけ。」
純はペットボトルを差し出す。律が振り返って、目に涙をためて言った。
「一人暮らし初めて彼女できるのはいいけどさ、大事な時なんだからもっと真面目に考えてよ。」
律の目には、純は彼女をべったりひっつけて歩いている馬鹿男に見えるのだろう。けれど、どう説明していいかわからなくて、迷っていると、スイが律に手を伸ばした。白い手で頭をなでる。律が一瞬固まる。
「スイ。」
純はスイをひっぱった。スイがきょとんとする。
「律、あのな、スイは彼女じゃない。ちょっと、なんていうか、俺が面倒見なきゃいけない子なんだ。」
律は冷静さを取り戻してきたらしく、スイを見てから純を見た。
「お前の誕生日には必ず帰る。ちゃんと話してやれなくて、ごめん。」
律は純の手の紅茶をひったくった。
「お母さんにばらしてやる。」
スタスタ律は帰っていく。
「だから、彼女じゃない。」
純は叫んだ。けれど、誤解されても仕方ないと思った。実際今日からしばらく何か起きたときのために、スイと一緒に大上の部屋ですごすことになった。律に知られたらいいかげんにしろと怒られるだろうし、母親はそんなふしだらなことをさせるために一人暮らしをさせたわけじゃないと泣くだろう。純は、夏休みの間にこの事態を片付けなくてはいけないと思った。
大上の部屋は思ったよりも広く、いくつか部屋がある。荷物を置きながら純は自分の荷物を置いた。
「こんな広かったんだ。」
荷物をそろえながら純がしみじみ言った。自分の部屋の二つ分はある。
「もともと家族とか中小企業の事務所として売られていたからな。ほとんどの部屋は客が来たときに使うくらいで俺はもてあましてる。」
大上がてきぱきと簡易ベッドを出した。
荷物を整理して実元に夕食に誘われているので部屋を出た。実元の部屋に行くと、一升瓶とバットを抱えた赤須と荷物のつまった袋を抱えたキナコが部屋に入るところだった。これを飲むのだろうか。部屋に入ると安西がエプロン姿でみそ汁を作っていた。こんなにエプロンが似合わない女性は初めてだった。
「マナちゃんのお味噌汁だ。」
キナコが嬉しそうに言った。よほどおいしいのだろう。味見コールをしているが安西は振り返って一升瓶を見る。
「皐月さん、前のがあるでしょう。」
とことことマナの声を無視してソファーで皿を並べる実元に見せる。話を聞いていない。怒鳴る安西はやはりお母さんだった。
食事のときに純は実家に帰らなければいけなくて、そこで家族だけの会議があることを相談した。
「実は俺の叔父が去年亡くなって、遺産の話をするんです。」
煮物をとりながら純が言った。食卓が一瞬静まり返った。
「原田、いいところのお坊ちゃんだったんだ。」
安西が味噌汁をすすって言った。
「いや、ぜんぜんふつーの家ですよ。叔父は結婚していなくて、俺と妹をすごく可愛がってたんです。で、俺の妹が十八になったら、妹に遺産の一部をついでほしいって遺言状残してたんです。癌でなくなったんですけどね。オオカミさんは知ってたんでしょうけど。」
「お前が倒れてから叔父さんが心配そうに見てた。」
「マジで? 」
純は思わず噴いた。
「物陰からこそっと、ふらふら歩くお前のこと見てた。」
キナコがししゃもをもぐもぐ食べながら言った。
「純ちゃんには? 遺産ないの? 」
「俺のことは書かれてなかった。でも、叔父さんの貯金は治療費でほとんどとんだし。家も賃貸だし。趣味も映画観たり、ジョギングしたりするくらいだし。親戚の間ではもっぱら宝くじのことなんじゃないかって。叔父さん好きでよく買ってたし。」
純はなんでもないことのように言った。
「お前ふつうに言ってるけど、そこは兄として嫉妬しないのか? 」
赤須が素朴な疑問を言った。
「俺宝くじじゃないと思うんですよ。叔父さんクジ運ないし。多分妹が欲しがってたDVDじゃないかなって。」
「それをわざわざ十八歳になったときに? 」
大上も純の落ち着きぶりに驚きながら言った。
「いや、年齢制限のあるようなやつとか。」
「それ、ものしだいじゃ最低な大人だな。最悪の冗談じゃないか。むしろ純君にこそ残すべきだろ。」
実元がしみじみ言った。安西が睨む。
「実元もマナコに残して置けよ。遺言状。あんた他に子供いないだろ。」
赤須が箸で安西をさした。
「いらない。」
安西がきっぱり言った。
「もらっても二束三文で売る。」
実元にはツンしかないらしい。
「安西さん結婚してるんですか? 」
実元と苗字が違うことを疑問に思い純が言うと、安西に睨まれた。純が固まると、スイがかばうように安西と純の間に入り込む。
「俺嫁さんに娘連れて出て行かれたんだ。それが約十年前。」
純は複雑な大人の事情を知ってぎゅっと下唇をかんだ。
「お父ちゃんもお母ちゃんにさんざん怒られてたけど、離婚はしなかったよね。お酒ばっかり飲んで、このロクデナシってお母ちゃん涙目で言ってた。お父ちゃんを丸めた新聞で殴ってたよね。」
キナコがサトイモの煮物をどうしてつまめるのか、というほど独特な箸使いでつまんで口に入れた。大上と純は、キナコの家庭の複雑な事情を察して、口の中のものが飲み込めなくなった。
「そういう俺が好きだったんだよ。」
赤須が悪びれない顔で言う。
「皐月さんもロクデナシだったでしょうけど、家に女の生霊連れて帰ることもなかったでしょう。」
ロクデナシだということは否定しないらしい。安西が綺麗な箸使いでマグロの刺身を食べた。
「純のご両親は仲いいか? 」
大上が耐え切れなくなって言った。純は無理やりのどの奥ににんじんを押し込んだ。
「俺の両親は普通。親父は無口で母さんは心配性で、妹は俺より出来がよすぎて時々いらっとするけど。」
純は、純と同じ手つきで一生懸命鶏肉をつかもうとしているスイを見た。
「スイの両親はどんな人だった? 」
スイが純を見る。もぐもぐかんでから飲み込んだ。
「わかんない。たくさんいて。」
純は一瞬固まった。
「産まれてからすぐさよならした両親もいるし、優しかった両親もいるし、スイのこと嫌いだった両親もいるよ。」
純が言葉を失っていると、キナコが言った。
「今は純ちゃんがスイちゃんの親だしね。」
スイが嬉しそうに笑ってうなづいた。
「スイ、純が良かった。たくさんいろんな人が来たけど、純が一番あったかくて優しくて、好き。」
ご飯粒をほっぺたにつけて、満面の笑みで純を見る。
「あたしもお父ちゃんが好き。小さい頃お父ちゃんが連れて行ってくれた、馬しかいない動物園で食べるコロッケおいしかった。」
キナコが何かわかっていただろうに、あえて伏せて言った。安西が睨む。
「ちゃんと船とか自転車も見せてやったよな。」
「船のところは野菜炒めがおいしかった。自転車のところはきつねうどん。」
キナコの思い出が胃袋と直結だ。安西が皐月の教育方針について説教を始めたので、重苦しい雰囲気から解放された。
食事が終わるとキナコとスイがふくわらいをはじめた。二人とも目隠しをして、何かを並べていた。
「知恵がついてきただけじゃなくて記憶も出てきたな。」
赤須が焼酎を実元のコップに入れながら言った。
「あの、両親がたくさんって。」
スイがこっちを見ていないか、確認しながら純は言った。
「ハコに入ってた子供たちのだろ。あの大きさならかなり殺してるからな。」
赤須がなんでもないことのように言った。
「彼女が純を選んだということなんですか? 」
大上が言うと、実元が葉巻を咥えて火をつける。
「あれだけの怨念の塊にもわかるほど、純君は明るかったんだろう。元は人間だ、救いは欲しい。」
実元が純の視線を察して笑った。
「今は大して考えるな。とりあえずそのままのほほんと生きてくれてればいい。そばにいるだけであの子のよりどころとなる。」
馬鹿にされたような、ほめられたような、変な気分だ。純はキナコとスイをちらりと見る。二人してまだ目隠しをしてせっせと並べている。ふくわらいにしては長い。
「スイはそんなに危険なんですか? 」
純は今まで考えなかったが、尋ねた。
「お前にとって一番危険だと思うことって何だ? 」
赤須が言った。
「え? 地震とか、台風とか? 」
安西が空っぽになった赤須のコップに焼酎を入れる。
「お前が言えば、するかもしれないぞ。」
赤須がコップを握った手で純をさした。
「でも俺、地震おきればとか思わないし。」
純は自分が的外れなことを言ってしまったと気づいたが、黙った。
「フサ姫にはそれがありがたかっただろうよ。お前はどこからどう見ても小市民で、腹が立っても翌朝には忘れてそうなやつだからな。」
純は馬鹿にされてるんじゃないかと思った。
「できた。」
キナコが目隠しをしたまま叫んだ。赤須が立ち上がって見に行く。純も見に行った。
「よくできたな。」
赤須がキナコをほめる。
純は見てから一瞬何も言えなかった。それはふくわらいではなく、パズルだった。ピースは千以上ある。複雑で、見てもこの短時間で完成できるものではない。
目隠しをはずしたスイが純を見つめる、純は頭をなでた。
「わかるのか? 目隠しして。」
「わかる。触っていると見えてくるんだよ。ばらばらなのがたくさん集まると一枚の完璧なのになるんだね。」
スイがパズルをなでながら言った。最初からどこをどうはめればいいかわかっているとおもしろくないのかと思ったが、完成する楽しさがあるらしい。スイにも娯楽ができたようで純も嬉しかった。その程度しか思わないのが、おばあさんも安心する所以なのかもしれない。




