第二話 見える人と見えない人
元恋人の浮気相手の部屋で目覚めた純。逃げるように部屋を出たが、数日後風を引いて倒れる。そこに何故か大上が駆けつけ、純を介抱する。彼はある事実を純に伝えにきたのだが、純はまったく取り合わなかった。
翌朝目が覚めた時、自分の目の前に見慣れない枕があった。ぼんやりした頭で純は考えた。三ヶ月前にできた彼女は胸が大きくて、唇がぽてんと厚くて、十人の男に聞けば十人が可愛いと答える顔立ちをしていた。純自身、時々自分にこんな可愛い彼女ができたのが信じられないと思うこともあった。
けれどその彼女、七恵とは別れたばかり。
まさかと思って振り返ると、男の背中があった。純はゆっくり前を見る。知らない部屋、知らない家具、自分のアパートからはあまり聞こえない車の音が、窓の向こうから聞こえる。もう一度振り返った。男と雑魚寝するのは初めてじゃない。高校時代からずっとやっていた。だけど、自分の彼女の浮気相手だった男と同じベッドにいるのは初めてだった。
純は音と振動をたてないようにすり抜け、自分のカバンを取ろうとしたが、シャツをつかまれた。
「おはよう。」
背後から野太い声がした。
「今日は二時限目からだっけ。」
起き上がって大上はバスルームに向かう。顔を洗ってこっちを向くまで、純は生きた心地がせず、ただそのたくましい背中を見つめていた。その表情で何かを察して、大上が笑った。
「昨日のこと忘れたか? 」
純は頭を押さえた。
「オオカミさんだよな? 」
「なんで自信なさげなんだよ。 」
裸足で純のそばに歩いて来ながら言った。純は昨日のことをやっと思い出した。
「忘れん坊さん。」
笑われた。さわやかに笑われた。可愛い女の子ならまだしも、男に言われると腹が立つ。
昨日のアルコール。それがこの現状を生み出した原因なのだろうか。純は顔を洗ってからスーツを着ている大上を見た。大上のスーツ姿はさまになる。入学式のときスーツを着せられて、美加に七五三のようだと笑われたのを思い出した。憂鬱になった。
「今日上司に会ってお前のこと言ってくる。」
純は、そのことについて言おうとしたが、大上が押し出すように出て行くのでついていった。
「何すればいいんだよ。」
「また言う。これはずすなよ。」
純のカバンに大上はキーホルダーのようなものをつけた。プラスチックみたいに真っ黒な玉が朱色の紐で結ばれている。
「なんだよ、これ。」
「お守りみたいなもんだ。」
大上に子供のように頭をなでられ、純は眉間にしわを寄せた。結局何一つちゃんと話しができず、大学に行く羽目になった。
マンションだと思っていたのは駅前の雑居ビルで、一階には喫茶店があった。駅に向くとき、錆び付いたレトロな時計がついているので、目印によくされていた。いろんな看板が出ていて、怪しげな職業や名前が並んでいる。純が何気なく振り返ると、大上の部屋がある付近の窓がわずかに開いていた。そしてじっと純を見下ろしているようで気持ち悪かった。
するっと窓が閉まる。純が見ていることに気づいたように静かに閉じた。純は大学に行くためのバスに乗った。
大学に着くと、昨日と同じ服装できたことを友人につつかれた。純は酔って眠って寝坊して駆け込んできたと言い張った。純が七恵と別れたことを知らない友人たちは、野次を飛ばす。純は別れたと言おうとして、美加がこっちを凝視しているのに気づいた。女友達に囲まれている間は特別何も言わなかったが、講義で離れた瞬間、走ってこっちにきた。周りの男友達をはねのけ、美加は純の腕をしっかりつかんで休憩室にひっぱっていった。ちょうど中間休みのせいか人もまばらで、奥の席で弁当を食べている学生が数人いるだけだった。
普段ならずけずけ言ってくる美加が、言いたいけれどのどから出てこない、というような顔をした。
「な、なにか変なことされた? 」
強気な美加が珍しくどもっている。
「確信犯だろ、お前。言っただろ、俺の好物。」
純はコーヒーを買って、美加を休憩室の破れたソファーに座らせた。
「責任とってバイト紹介してくれるって。」
純が言うと美加はきょとんとした。
「え、どんな仕事? っていうかそんなに仲良くなったの? どうしてそうなったの? 」
「知らん。名前と住所しか。」
美加はコーヒーを飲んでうなった。
「何があったかよく分からないけど、純には、世話焼いてくれる人がいたほうが良いと思う。年上の人。純けっこう自分に無頓着だから。まぁオオカミさん? が適任かは私もよくわからないけど。」
美加の顔はからかっているような表情ではなかった。
「なんだよ、それ。」
ソファーに腰かけ、純もコーヒーを飲んだ。
「それか、純が世話したくなるような人がいたほうが良いと思う。自分がそばにいなきゃって、思えるような人。」
女の勘か、友人としての忠告か、空っぽの冷蔵庫を振り返ると美加の言うことは正しい気がした。
「年上なら、セクシーで胸でケータイはさめるような人がいい。」
純が言うと、美加がぺしりと頭を叩いた。
「あんたね、乳ばっかり見てないでちゃんと中身も見なさいよ。あんな天然ぶったぽやーっとした女に引っかかって。あんたとの間とりついでくれってまだ言ってるのよ。断ったけど。」
胸で選ぶなら美加に真っ先に告白すると口答えしたかったが、美加が本当に心配してくれているので黙っていた。美加にはそれからいろいろ怒られたが、全部話半分に聞き流した。
学校から帰る途中、美加の忠告を思い出してか、百円もしなかったレタスと牛乳を買ってみた。ドレッシングもマヨネーズもなかったので、塩だけ振って食べていた。親にはとても見せられないと思っていると、携帯電話が鳴った。美加の恋人、敏郎からだった。
「美加が余計なことしたか? 」
心配げに尋ねられ、純は笑った。
「したけどいつものことだから、それほど問題じゃない。」
「昨日は、お前のことだから、怒らずなぁなぁですませるだろうってキレてた。今日は余計なことしたかもって凹んでた。怒ったならふざけんなってきっぱり言ってやってくれ。」
敏郎も美加と同じように要点だけすぱっと言う。
「俺の問題だ。美加は大して悪くないんだよ。原因だけど。」
純はフォークを回した。
「大丈夫か? 声に元気なくないか? 」
「テスト中だからな。それに疲れた。」
純が言うと、敏郎が笑った。
「今度何か差し入れもって行く。」
敏郎はケーキ屋だが、料理もうまい。嬉しくなって純はお礼を言った。
それから数日後、試験が続き純は毎晩夜更かしをして勉強をした。最終日にふらふらになり、体中にだるさを感じた。風邪でも引いたかもしれないと思いながら家へ急いでいた。大学のロビーで携帯電話が鳴っていた。時間割りを見ている純は、それが自分の携帯電話だと気づかなかった。
電池不足を告げる高い音が鳴っている、耳鳴りがする。純は電源が切れた携帯電話を眺めて、カバンにしまった。家に向かって歩く。身体がとても重い。家の中には何があったか、水を買っていた気がするし、風邪薬も古いのがあった気がする。階段を登るのもつらい。
「純。」
声をかけられて純はこけた。振り返らなくても大上の声だった。
鼻を打った。血が滴っている。気に入っていたシャツが汚れてしまった。大上に抱えられ、純は自分はここで死ぬのかと思った。大上が何か言っている。純はその腕にしがみついて、言った。
「冷蔵庫にある牛乳、捨ててくれ。」
そう言った瞬間、意識が消えた。
点滴を打たれながら目が覚めれば、そばに大上がいた。鼻は痛いが、意識ははっきりしている。大上がほっとしてこっちを見た。
「風邪だとさ。ろくなもの食べてないだろ。」
立ち上がって大上が純の頭に触った。なんでこの男がここにいるんだ。純が驚いていると看護士がやってきた。熱を測り、点滴が終わったら帰っていいと説明を受けた。大上を兄だと勘違いしているらしく、薬の説明をしている。大上が会計を済ませて、看護士にも笑顔で挨拶と礼を言ったときには、この男がなにを考えているのかわからずただぼーっと見てしまった。
大上がベッドのそばの椅子に座った。
「俺のアパートなんで知ってたんだ? 」
「影ながら見守ってたんだよ。」
「勝手に見守るなよ。」
ストーカーじゃあるまいし、どうせ美加に聞いたのだろう。純は大上の顔を眺めた。
「オオカミさん、なんで俺にそんなかまってくれるわけ? 」
大上が笑った。
「これ。」
純の目の前に何かを出した。純のカバンにつけていたキーホルダーと同じものだった。違うのは、玉が透明なビー球になっていることくらいだ。
「お前のカバンにつけていたやつだ。」
「は? 俺のは真っ黒だったじゃん。」
「真っ黒だったんだ。」
大上が紫色の小さな布製の袋に大事そうにしまった。
「お前、幽霊とか見たことあるか? 」
純は、顔を思いっきりしかめた。
「病院でする話じゃないだろ。あんた不謹慎にもほどがある。」
純が言うと大上が笑った。
「悪かった。後で説明する。」
点滴が終わって大上の車に乗せられた。悪いと思うような元気も無い。
「荷物そろえたら俺の家に行くぞ。ほっといたら死にそうだ。」
「いいよ。俺一人でも大丈夫だから。もうだいぶよくなったし。」
それほど親しいわけでもない、そこまでしてもらうのも悪い。純は後部座席から言ったが、かまわず大上は車を発進した。
「お前が倒れたのは多分俺のせいだろうから。」
またわけのわからないことを言う。
「あの水晶は餓死したある婆さんの形見なんだ。」
いきなりグロいことを言い出した。
「家族が介護を放棄してな、部屋から出れずトイレにも行けず、飯もロクに与えられなかった。家族は婆さんが死んだらすぐに二束三文で婆さんの持ち物を売ろうとした。けれどこの水晶はドス黒く変色していてごみとして捨てたんだ。」
聞くのが嫌になる話だ。昼間のワイドショーや週刊誌を賑わせるのに充分で、愉快になる話しじゃない。
「水晶って変色するのかよ。知らなかったな。」
純が鼻で笑った。大上は笑わずに言った。
「するんだよ。この水晶は天然ものだからな、婆さんの怨念をたっぷり吸い込んでドス黒く変色した。」
純にはなんでもないただのキーホルダーにしか見えなかった。
「水晶は何度捨てても家族のところに戻ってきた。目の前で砕いて捨てても翌日には台所のテーブルにあったり、引き出しから飛び出したり、カバンの中から出てきたり。残った家族全員の夢枕に婆さんは立って恨みごとを言いつけて、挙句嫁が事故にあってありえない死に方をした。戦々恐々した家族が俺の上司に持ち込んだんだ。」
よくもまぁそんな作り話を恥ずかしくもなくできるもんだと、純は呆れた。
「あんたの職場って寺かなにかなわけ? 」
「いいや。派遣会社だ。」
純は脱力した。
「上司の親父さんが拝み屋だ。」
純はうさんくさそうな顔で大上を見る。
「信じてないな。」
「信じれるかよ。あんたが予想したように、俺は今まで幽霊だの妖怪だの人面犬だの見たことないんだよ。」
大上がにやりと笑った。
「そりゃお前がはじいてるからだ。」
純はいっそう胡散臭そうに大上を見る。
「屁理屈こねるなよ。」
「屁理屈じゃない。お前の元カノの部屋に三人いたけど、お前が来る前から弱いのは消えていたし、お前が部屋の扉開けたとたん、生霊なんか弾き飛ばされてどっか消えた。」
「はいはい。わかったからもうおろしてくんない? 」
こんな怪しげな男にこれ以上関わりたくない。純はそう思いながら、ちょうどさしかかった自分の家のアパートを見た。大上はやれやれというような顔をしていた。
「純、去年叔父さんが亡くなっただろ。」
大上が突然言った。
「まだ若いな。事故死じゃなくて、病気。」
純は運転席を蹴った。
「最悪だ。本当不謹慎だなあんた。美加かよ? まさか俺みたいなのに興信所雇うほど、金が余ってんのか? 」
「美加ちゃんじゃない。」
純は車から降りた。
「俺に二度と近づくな。ストーカーで訴えるぞ。」
後ろを振り向かずに純は言った。叩きつけるように扉を閉める。だるさよりも怒りが勝っていた。
部屋に入ると携帯電話に充電器をさし、美加に電話をかけた。すぐつながり、純は怒鳴るように言った。
「美加、お前人の個人情報流すのやめろ。」
一瞬間があり、純の声の二倍の声で美加が叫んだ。
「は? なにいきなり言ってんのよ。たしかに、オオカミさんに純の好物聞かれて、モモールのザッハトルテが好きだって教えたけれど、その一回だけ。後はぜんぜん連絡ないし、私からもしてない。」
美加の声は嘘をついているようには聞こえなかった。
「私じゃなくて、元カノじゃないの? 」
「俺あいつに叔父さんが死んだこと言ってねぇよ。」
純が言うと、美加はまた叫んだ。
「私がなんであんたの叔父さんが死んだことを、会ったばかりの人に言うのよ。おかしいじゃない。」
純は耳を押さえる。
「どういうことか説明しなさいよ。すぐ行くから。」
ぶつんっと電話は切れた。
美加は敏郎と一緒にやってきた。敏郎はぼーっとした背の高い男で、美加の外見から比べると地味な男だ。けれど美加は敏郎にべた惚れで、敏郎とのコイバナを話すときは別人じゃないのかというくらい甘い声と顔をする。
「名誉毀損で訴えるわよ。」
敏郎の持つ買い物袋には野菜がたくさん入っていた。
「台所借りるぞ。」
敏郎がのそのそと台所に行く。
「オオカミさんに言われたのよ。あんたとケータイで話した後だけどね、どういうことかって。」
やることが気の強い美加らしい。
「そしたらあんたが熱が出て倒れたから、手が空いたときに覗いてやってほしいって。なんで私や敏郎じゃなくて、オオカミさんの方があんたのこと詳しいのよ」
美加はビタミンCのたくさん入った飲み物を、怒りながら突き出した。
「私たち、そんなに薄情じゃない。つらいときはちゃんと頼れ。」
本気で怒っている顔で、美加が言った。美加の本気の怒り顔は怖かったが、優しさがありがたかった。
純はお礼と謝罪を言ってから、美加に事情を説明した。美加は黙って口をはさまずに聞いていた。てっきり、どこかで切れて何か言い出すかと思ったのに、静かだった。敏郎がおかゆを作って純と美加にも出した。美加は敏郎がプライベートで作るものは、必ず味見をしないと気がすまないらしい。
「あのさ、私ずっと純に言わなかったんだけど、見える人なんだ。」
美加がふーっと冷ましてからおかゆを食べた。味わって噛んでから、親指を敏郎に笑顔で突き出す。純も冷ましてから食べる。出汁が効いていておいしい。
「だって、純ぜんぜん見えない人だし。つーか、修学旅行もさ、私ずっと見てたんだ。」
美加はもぐもぐしながら、言った。
「あの木の下ね、最初それほどはっきりしてなかったのに、クラスの馬鹿がいるって言い出したわけ。そしたらどんどん形ができていっちゃってさ、私やばいなーって思いながら目をそらしたらさ、先生が怒鳴ったじゃん。その時ぽんって消えたの。」
敏郎がお茶を出す。美加は額に汗を流しながらお茶を飲んだ。
「先生かと思ったけど、あんたがその後ろにいた。で、それ以来なんかあんた気になってね。ずっと見てたんだけど、あんたがいると消えるわけ。」
美加も大上に付き合って嘘をついているのか。いや、美加はこんなくだらない嘘をつかない。なにより、生真面目な敏郎がいるのに、こんなことは言わない。
純は敏郎が黙っているのをちらっと見た。敏郎が純を見ながらお茶を注いだ。
「俺はどっちかって言うと見えないほうなんだけど、美加がそれで苦労してたのは知ってる。」
美加はおかゆを食べ終わると続けた。
「決定的だったのがさ、私が降りた駅で人身事故が起きちゃって、その本人がついてきたの。いつも通り過ぎるだけだったのに、その日はかち合ったみたい。」
純はまだ食べ終わっていないのに、美加は話を続ける。
「あちこち痛いし、重いし。でも本人はなんでここにいるのか分かってないらしくてさ。で、教室に入ったらあんたがいて、その子の周りにあった黒いもやーっとしたのが一瞬でなくなったわけ。私も急に身体が軽くなって、その子と目があったけど、フツーの女の子に戻ってた。で、ここどこですか? って言うから、どこそこ高校だよって教えてあげて、その子もはっとして、保健室行くふりしてちょっと話した。事故で死んじゃったこと受け入れてくれて、今までずっと暗いところにいたけど、急に涼しい風みたいなのが吹いてきたんだってさ。家一回帰ります。って最後はぺこって頭下げて行ったよ。」
美加はふーっとため息をついた。
「あんなにシュールなの初めてだった。あんた、何者なの? って思ったけどとうの本人は幽霊とか、ありえんし。みたいな感じでさ。」
敏郎が空いた皿を片付ける。
純はどう受け入れていいのか分からない顔をする。
「純と一緒に心霊スポット行くと、ぜんぜん怖くないよな。結局天体観測で終わったり。花火してフツーに帰ったり。全部和やかだった。」
敏郎がぽつりと言った。
「純と一緒だとどんなに出るってうわさの場所でも、心霊写真ぜんぜんとれないよね。」
美加はお茶をまたごくごく飲んだ。
「オオカミさんに謝ったら? 」
美加が諭すように言った。
「なんで謝らなきゃいけないんだよ。」
美加と敏郎が顔を見合わせていった。
「車で送迎してもらってお礼言ってないのに? 」
「倒れたお前をあの人が見つけなかったら、死んでたかもしれないだろ。」
まともなことを言われて、純は黙った。
「ほら、早く。」
納得いかない。純が携帯電話を握らないでいると、敏郎が言った。
「じゃあ俺が代わりにお礼言う。友達助けてくれた人だ。」
美加が、惚れてまうやろーと叫びたい顔で敏郎を見ている。
「わかったよ。礼言って謝る。」
この馬鹿っプルをさっさと帰したい気持ちも手伝って、純は携帯電話に手をかけた。出なければいいと思ったのに、大上はわりと早く出た。
「オオカミさん、今日はありがとうございました。」
仕方なく言うと、吹き出す声がした。
「いいって。俺も不謹慎だった。」
ここで謝れるのが大人だ。純はちらっと美加と敏郎を見る。まだこっちを見ている。
「けど、俺の話に少しでも興味を持てたら、バイトしてくれないか? 」
大上の言葉に純は固まった。
「幽霊弾き飛ばす仕事か? 」
「いや。履歴書のデータ入力とか。まぁとかの方が時給いいけどな。」
純は相変わらず飄々とした人だと思った。
「わかった。」
好奇心がこみ上げて、純はつい言ってしまった。
「じゃあ明日の朝迎えに行くから、一泊分の荷物作って用意してろ。」
ぶつっと電話が切れた。純は我に返り、馬鹿っプルを振り返る。
「なに? その顔。」
「俺たちなんか悪いことしたか? 」
理不尽な怒りがこみ上げてくる。
「お前らもう帰れよ。」
純は力なくそう言った。




