目指せ平穏
―――なぜ、私はここにいるのだろう…
何度繰り返したか分からない、疑問を心の中で自分に問う。
ここは王都にある、王立魔術学園。
その入学式の最中、ただ疑問を繰り返す。
本来ならば、ここにいるはずだったのは双子の兄である流斐。妹の斐名ではなかったはずなのだ。
斐名は一ヶ月前のことを思い出していた。
―――――
「「―――魔術学園?」」
声を揃えて、疑問を口にした双子に父は重々しく肯いた。
「どうして、俺がそこに通わなくちゃいけないわけ?」
流斐が不満を口にする。
まあ、その疑問はもっともだろう。なぜ、強制的に通わなくてはいけないのだろう。しかも、流斐だけ。
斐名も分からず、首をかしげた。
まあ、聞きなさいと父は話を続けた。
話を分かりやすくまとめると、
この国の建国に貢献した4人の若者がいた。
彼らはその後しばらく、国に仕えたが、やがて国中に散らばった。
ただその際、王が仕えるに値するならば、一族の一人を差し出そう―――。
そう、言い残したらしい。
その後、時代は移り、王太子が十五歳になると王立魔術学園に入学することが通例となると、四族も同じように、一族の若者を入学させ、王太子に仕えるか否かを見定めるようになった。
そして、今の王太子が今年、入学するのだそうだ。
「―――それで?」
流斐が嫌そうに続きを促す。
「まあ、その四族のひとつがうちなんだよね」
父は悪びれもなく、そんな事を口にする。
「まあ、約束事だ。行っておいで」
その笑みは有無を言わせなかった。
―――だが、あの流斐がすんなり、聞くはずがなかったのだ。
次の日の朝。
なかなか起きてこない流斐を不思議に思い、部屋のドアを開け、中の様子に呆然とした。
「―――っと、父さまー!!」
部屋の中はもぬけの殻だった。
ただ、ベットの上に書置きが一つ。
―――しばらく、旅に出る。
そう、紙に書いてあった。
その紙を拾い上げ、父は一言。
「しょうがない。王都行きは斐名、お前だな」
そう、のたまった。
「えぇ!?」
「まあ、一族の若者が行けばいいわけだし、残念ながらうちの一族で王太子と年が近いのは流斐と斐名だけなんだ。―――行きなさい」
その後、訳も分からないうちに、試験を受け、今日の入学式に至った。
―――――
入学式は何事もなく進んでいく。
斐名は溜息を付きながら、壇上を眺める。今は学園長の話らしい。
―――唯一の救いは王太子側は四族が誰か分からないってことかな。
しかも、四族同士も互いがそうだとは分からないらしい。
四族の名は秘匿とされている。四族すべての名を知るためにはその四族に仕えるに値すると認められなくてはならない。
だからこそ学園では偽名で通す。
ちなみに斐名は嘉月斐と名乗っている。
―――入ってしまったものはしょうがない…卒業まで大人しくしてよう。
見定める気はまったくない。
実際、我が一族は仕えたことは一度もないようだ。
今の王のときは父が来た。
やはり、父もめんどくさいという理由から見定めなかったらしい。
―――その気はないのに約束は果たすとはどういう訳なのだろう?
斐名がこんな目にあっているのは流斐のせい。
―――帰ってきたら覚えてなさい…
思惟に耽っていると、長かった入学式は終わったようだった。斐名も席を立ち、人の流れに乗り、会場を後にした。
―――願わくば、平穏な日常を。とりあえず、王太子には近づかない。
思いつきでできちゃった作品です。のんびり更新になるかなぁと思います。