第8話
ガツガツガツガツガツガツガツガツ……。
「ウマー!!」
僕は現在、テーブルのに運ばれて来た食事をウマウマと食べていた。
さすがはファンタジー、漫画肉をリアルで見ることが出来るなんてかなり感動した。今僕の夢が一つ叶った瞬間である。
「そんなに焦らなくても食事は逃げませんよ」
ルーミアはニコニコ笑顔で目の前の食事には手をつけず、僕の食べっぷりを観察していた。
……なんだか嬉しそうだねルーミア。
実はこの場には、僕とルーミアしか居ないときたもんだ。他の人達は、なんか恐縮しちゃって食事を作ったら出て行ってしまったのだ。
その時、なんかルーミアの目が鋭かった気がする。
あまり考えるのは僕のスタイルではないので、すぐさま思考停止させた。
今は目の前のコイツらを片付けなければ。
ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ……。
食べている間も、ずっとルーミアはニコニコ笑顔を崩さず、僕の食べっぷりを観察していた。
「ごっさんでした」
食べ終わると僕は席を立った。
「では、今から実に嫌ですが凄く嫌ですが当たり前のように嫌ですが、王の所に向かいます」
どんだけ嫌いなんだよ父親。
「ほう、貴様がわしの娘を俗共から救出したという自称『勇者』か……」
今現在、ルーミアに連れられて来たところに王様がいる。
ルーミアは僕から少し離れた所に移動した。
ついでにさっきの言葉は王様が言ったものである。
周りには王様を守る為、護衛騎士達がいっぱいいます。
騎士達はさっきから僕を睨んできては、ビシバシと殺気をこっちに向けて放っている。
そこまで警戒するなら王様に会わせるなよ……。
「いや、別に勇者じゃないし、そもそも自称すらしてない。勝手にそっちがそう呼んでるだけだろ」
少しいらついたので少し刺のある言い方をした。
例えば相手が、一国を治める王様だろうが態度が悪かったり、相手に不快感を与える言動するなら、僕は表情を隠さず嫌な顔をする。
「まぁ、いいだろう。して貴様は何故危険を省みず我が子ルーミアを俗共から助けた?」
それに対し僕は敬語でこう返した。
「理由なんてありませんよ、僕のただの自己満足。俗共に捕まっていたから助けた。理由なんてありませんよ。別に今すぐここから出ていけと言うなら、僕はすぐに出て行きますよ」
僕は少し目を閉じ深呼吸して言った。
「あの娘達を助けたかった。そんな理由ではいけませんか……王様?」
そう僕は王様に問いかけた。
そしてしばしの沈黙。
「クッ!ハッハッハッハッ!!!気に入ったぞ勇者!!我輩娘が気にかけてたからどんな男かと思って招いたが……。実に貴様は面白い」
王様の突然の笑いに僕と王様を除く人達は呆然となってしまっていた。
「橘辰子です……」
「なに……?」
「貴様とか勇者とか止めてください。こっちではタツシタチバナですが、タチバナと呼んでもらえると助かります」
「クックックッ……。いいだろう、特別にタチバナと呼んでやろう。わしの名はガリア・クレセン・S・トリプル。ガリア。ガリアと呼ぶがいいタチバナ」
「王様!!」
その中、騎士達の内の一人が王様の前までやってきた。
「騒々しい、なんだ騎士団長プラム」
その人は騎士団長でプラムという名前らしい。
「王様、俺とコイツを戦わせてください。実力もよく分からない身元不明の男が、王様の名前を呼ぶのに相応しいか、戦って実力を測ってからでも遅くないはずです。タチバナ殿はそれでいいな?」
プラムは僕の方を挑発的な視線で見てきた。
しかし、めんどくさがりの僕にはそんな高貴なプライドなど無く、断るという選択肢しか頭に出てこない。
「こと」
「良いですよ受けてたちます!」
断ります。
と言いたかったのに、ルーミアの言葉によって僕の言葉が遮られた。
「だから…」
「姫様ではなく、タチバナ殿に聞いたのだが……。まぁいいだろう、勝負だタチバナ殿!」
また、遮られた。
「だから…」
「頑張ってくださいタチバナ様!」
ルーミアのせいでまたまた、遮られた。
なんか言っても、また遮られそうだから戦うだけ戦って負けるか。
正直面倒臭いです。
「相手が気絶するか、降参したら終りだ。勝負は一本。本気で掛かって来いタチバナ殿!」
流石は騎士団長をしているだけあって隙が無い。
プラムはグレートソードを上段で構え、一撃必殺を狙うという戦術なのだろう。
しかし、真剣?
危ないと思うのは僕だけか?
そして、僕は手ぶら。何か渡してくれると思ったのだが……未だにその気配が無い。
まさか、手ぶらで戦えとでもいうのか!酷くない?鬼畜じゃない?人間としての優しを、この人達持ち合わせてないでしょ!
「では、開始だ!」
王様も乗り気の様で、笑っているのがもろ分かる。
「クレセント王国騎士団団長プラム参る!」
そう言うと、プラムはこちらに向かって走り出した。
肝心な僕はというと、現在手元に武器は無く手ぶらの状態だ。
あれか、此処は人に武器も与えず戦わせるのが当たり前なのか?
それとも己の肉体が最強の武器だとでもいうのですか。
ここはドラゴン○ールの世界じゃないんだぞ!
そんなことを考えている内に、プラムは僕の一歩手前の所まで迫っていた。
「《強化》」
周りには聞こえない程度に声の音量を下げ、自分の身体に強化魔法を掛けた。
初めての肉体系魔法を使っただけあって中々に新鮮な感覚だった。
「ハッ!!」
「これが伝説、真剣白刃取り!」
容赦ない一撃をぎりぎりの所で受け止め、グレートソードを素手で叩き折った。
「「「「なっ!!!」」」」」
プラムと周りの騎士達は、なにコイツ化け物、と言いたげな顔をしていた。
「これでもまだやりますか?」
少しチート者との実力差を思い知らせるため、僕は余裕だと相手に認識させたかった。
だが、しかし、剣が折れて戦えないと慢心していた僕がいけなかった。
「……《ファイヤーボール》!」
プラムの掌平に出来たファイヤーボールは、至近距離で構成され、そして撃たれた。
「《バリア》!」
間一髪の所でファイヤーボールを防ぎ、人外スピードでプラムの背後をとった。
「《気功》!」
少し自分の気を消費させ、拳に力を集中させて背骨辺りを少し小突いた。
「へぶらばし!!」
奇怪な叫びと共にプラムは柱の方へ吹き飛び、柱が陥没した。
「うそ~ん!」
流石は気功と褒めてやりたかったが、ここまで吹き飛ぶとは思ってなかったぞ。
あ、そういえば強化を掛けたまんまだったんだっけ?え、ヤバ、ミスった!
明らかな過剰強化に、僕自身もやり過ぎたと後悔し、その受けた相手に対し同情した。
「舐めるな!!」
血をダラダラと流しながらも果敢に突っ込んで来る姿は、まさに勇敢。
「《バーニング・ソード》!!」
プラムの手には、剣の様な形をした炎の塊が握られていた。
……熱くないのだろうか……。
僕はそんな事を考えていた。
「はっ!!」
プラムが切り掛かる。
しかし、それをギリギリの所で回避。
「舐めるなよォッ!!」
プラムはバーニング・ソードを一閃。さらなる追撃を続けた。
「サマーソルト!」
追撃の隙をついて、バーニング・ソードをサマーソルトにより高々と蹴り上げた。
「非殺傷モード……《第三闘特技》!」
気功入りの拳で殴る。一瞬だけディスファケンを出してすかさずに斬る。そして用意していた術式を至近距離で発動、僕の背後よりあらゆる武器が投擲される。
回避不能の弾幕が、あらゆる角度より射出される。
オーバキル当然の攻撃がプラムの身体をえぐる。
訳ではなく、非殺傷になっているので、外傷ダメージよりも精神ダメージの方が優先されている。
つまり、身体に傷は付かないが、精神力がげしげしと削られていることだろう。
まぁ、しかし、精神力を全部削るつもりはないわけで、半殺し程度にするつもりだ。
その光景に、王様もルーミアも騎士達も呆然と眺めているだけで、たいしてなにも言わない。
そもそも最初は負けるつもりだったのだが、戦っている内に自分の力を試したいという欲望に負け、圧倒的な力でプラムに勝負を挑んだ。
とりあえず、これ以上はプラムが可哀相なので弾幕を止めた。
「はぁ……はぁ……。何故俺にとどめを刺さなかった……」
意識が朦朧なのだろう、息キリキリの状態でよく喋れると感心した。
「いや、これ殺し合いじゃないし、相手の命奪う必要ないでしょ?」
さも当然のように僕は言った。
「フッ……。俺は殺す気でやったのだかな……。まさか遊ばれるとは思わなかったぞ……。流石は……」
プラムは最後まで、言い切る間もなく意識を失った。
「いやいや、僕は理想の為にただ力を貸してもらっているだけで、貴方の様な努力家ではありません。プラムは僕よりも遥かに優秀……。ほんと…比べ物にならないほどにね……」
気絶しているプラムに対してそう言った。
僕がプラムから離れると、僕達の戦いを見守っていた騎士達が気絶しているプラムを運んで行く光景が見れた。
パチパチパチパチ……。
乾いてる拍手の音がする方を見ると、王様が何故か凄い満面の笑みを浮かべていた。
……恐いです王様……。
そして、さっきまでぶっきょう面から一辺、ただ不気味にしか感じられない。
「クククッ……。強いなタチバナ……。まぁ、わしもこれで隠居出来るから良いんだがな」
引率?引率って王様って何から引率するんだよ。
と疑問に思うのだが、……まさかな……。
……さっきから嫌な予感しかしない……。
「これからわしの娘を頼むぞ『勇者』タチバナ」
瞬間僕の何かが壊れた気がした。
そして……。
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!勇者だけにはなりたくない!!!」
盛大に吠えた。
なにこの死亡フラグ……。