第21話
「いえいえ、困っていませんし気になさらないでください」
相談に乗ってくれるというが、はっきりいって僕は女の人と二人っきりなんて状況は口から血が吐き出るほど苦手だ。
無理にでも断ろうとすると、何故か女の人は泣きそうな顔になった。
「すいません……私なんて屑ですよね……吐血するくらい触れるの嫌なんだもんね……調子に乗ってごめんなさい」
ヒソヒソ
周りからの視線が急に痛くなってきた。
え?悪い僕なのか?
「じゃ……」
すぐさまこの場から消え去りたかったので、駆け足で街の外に出ていった。
「あ、お土産買ってきてなかった……」
しかし、あの街に戻るほどの度胸は僕にはないのでほとぼりが冷めるまで行くきはない。
「ダンジョンに戻ろ……」
僕はフライで空に上がり、ダンジョン目指して進んでいった。もとい、帰っていった。
(セバスチャン聞こえる?)
(はい)
(僕がダンジョンから離れてる間になにか変化はあった?)
(はい。13人ほどの探索者がダンジョンに侵入してきまして、今50階にて足止めを食らっているみたいです)
(50階になにか足止めするような罠とかモンスターとかいたっけ?)
(いえ、なんかダンジョンの中に突然変異したスライムが生まれたみたいなようで、たぶんそれに苦戦してるんだと思います)
突然変異のスライムね……スライムが多少なりとも性質が変わっただけで、そんなに苦労するようなものなのか?
(うん分かったよ。ちょっと自分で調査するから、セバスチャンはリリアナの近くにいてあげてね)
(御意)
「《ワープ》」
50階に向けてワープした。
「ずいぶんスライムも倒されたみたいだな……」
周りを見渡すと、スライムの残骸であるゼリー状の物体が、そこらかしこにばらまかれてあった。
「スライムも数が揃わなければただのザコか……」
耳を澄ませば、遠くから爆発音やら剣撃音が聞こえてくる。
「じゃ、行きますか」
しばらく歩くと、ただっ広い所に出た。
「これが突然変異のスライムか……」
視界に入ったのは、戦士系5人魔法使い系5人僧侶系3人が次から次へ湧き出てくるスライムを即座に潰している。
あれ?シーフは?
まぁ、いいか……。
「苗木?」
中心に苗木らしきなにかが生えており、そこからスライムが湧き出ているようだ。
「調度いい! そこの人手助けして貰えませんか?」
僧侶らしい男の人がそう言った。
「了解」
僕は苗木のスライムにたいして跳躍。
「お前誰だよ!?」
「一時協力してくれる……」
「橘辰子。橘とでもよんでくれ。『ディスファケン』ランサーシリーズ」
手からいきなり槍が現れて、周りの人は驚いているが、そんなこと気にせず槍を苗木に突き立てた。
形は一度崩れるが、飛び散ったゲルがうごめき苗木に集まっていく。
更に苗木の体からはスライムが飛び出て僕に襲い掛かってくる。
パァン!!
襲い掛かってきたスライムを空いている手で殴ったら、弾け飛んだ。
キモッ!!
中々終わりそうにないので、てっとりばやい方法で……的確に核を打ち抜かせてもらう!!
「《ゲイ・ボルグ》!!」
核が破壊されてたらこれで終わり。核が『無かったら』無駄なことしたと思って諦めるよ。
うねウネ
あぁ~やっぱ『核』なかったか。このタイプのスライムって核ないもんね普通。
一度後ろに下がり槍を消した。
「聞きたいことあるが……何故己の武器を消した……」
歴戦の戦士臭のする中年オッサンが隣に並んで僕に話しかけた。
「僕の一番の武器は『体術』ですから!」
決して『格闘技』じゃないので勘違いしないでもらいたい。全体的な動きが得意なだけなんです。はい。
「……足手まといにはならないでくれよ……」
「もちろんです」
バチバチ……!!
なんか気分的に手元をスパーク!
カッコイイよね、これ!
魔力を手元に集中していくと、空間が軋むような音が聞こえてくる。
ピシっ!!
ひじょーにヤバイ気がします。
「普通にやろう普通に……」
手元にあった魔力を霧散させ、僕は真剣に考えはじめた。
苗木…苗木…苗木苗木苗木苗木苗木苗木苗木苗木苗木苗木…………。
寄生してる?
何に?
スライムが?
そもそもあれはスライムか?
スライムが突然変異したものだからスライムの筈だ。
何故一体からこんな数のスライムを生成出来る?
完全な体内供給じゃ限界がある……『他から』足りない分を引っ張ってきてると考えるのが妥当だよね……。
『寄生』ね……そもそもなにに寄生している?
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ
考えろ鬱だ鬱だ鬱だ鬱だ……。
自分で造っておいてなんだが……処理がめんどくさい。
他のメンツは真剣に命を懸けて戦っていますが、僕は別に命なんて懸けてない。
だって、これただの『処理』だしね。
それに、この方達も死にはしないからね……。
ん~、まさかこの『スクエア』に寄生してる?
このスライムは死ぬと地面や壁に『養分』を撒き散らす特性がある。
つまり、このスクエアに寄生しる。
スクエアから養分を回収→養分でスライムを生成→スライムはやられ、死ぬのと同時に地面や壁に養分を撒き散らす→以下ループ。
最悪のループパターンだった。
普通に戦ってたら一生終わんないね。
仕方ない……。
僕は地面に手をつき、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
「対象スクエア初期化開始」
すると、苗木からスライムの出現が止まり、萎れていきました。
「ふっ……全くなんだったのだ……」
仲間のうちの一人がそう言うと、前衛を務めていた戦士達はスライムの死骸からドロップ品を回収に行きました。
出るわ出るわ……。
彼らはゲル状のなにかをスルーして……。
『銅』 12個
『HP』ポーション 4個
を回収した。いったい何体スライム倒したのやら……。
「あれだけ倒したのにショボ……」
すみませんね。しょぼくて。
「ねぇ、この瓶に詰まった液体何かしら?」
女性の方がポーション片手に疑問を浮かべていました。
「スライムの中身じゃね」
「嫌なこと言わないでよ……誰かこれ飲んでみない?」
場が沈黙した。
「だって嫌じゃん。モンスターから何故か出てきた怪しい瓶だよ。誰かそんなもん飲むか!!」
背の小さい陽気な女の子が叫んだ。
「でも、苦労して手に入れた物だし……もったいないわよ? っということで誰か飲みなさい」
結局誰も飲みたがらなかった……グスン……。
「じゃあ、多数決で決めましょ」
皆頷き、多数決が始まった。
「じゃ、ユリウスがいいと思う人手を挙げて」
一人を除いて手を挙げた。
あ、僕は空気なので数には含まれていません。
「これは虐めか!!?」
「「「「まぁ諦めろ」」」」
「安心しなさいユリウス。こっちには毒、呪いが解呪出来るエキスパートの僧侶がいるから!」
「「「お任せください!」」」
そう言うとユリウスさんの自由を奪い、ポーションを飲ませ始めました。
「ガッ……! ガバガバッ!!」
無理矢理飲まされて気絶状態になり、泡を噴いて倒れてしまった。
ガバッ!!
「殺す気か!!」
「流石悪運だけが取り柄のユリウス殿だ」
ふほほほほっ、と笑ったのは魔法使いの内の一人の老人だった。
「あれ?さっきまでの疲れが抜けた……?」
「どうやら、あの瓶は体力回復をしてくれるみたいだの~」
「ん?」
ユリウスはある一部が活動していることに疑問を感じ、ズボンの中を覗いた。
「イ○ポが治ってる~~!!」
瞬間、女性陣による蹴りがユリウスに炸裂した。
「もう最低!!」
「セクハラです……」
「間違っても女性がいる時に言うセリフじゃないわね……」
「はははははっ!!
良かったなユリウス。不能が治って!」
「俺はこの時ほど神に感謝したことはない!!」
拳を天に突き上げたその姿は、なんだか輝いていたと思います。
「さて、僕は帰りますね」
そう言って去ろうとした僕の肩に、ユリウスさんの手が僕を止めた。
「お前がいたおかげで、俺のイン○が治った。ありがとうな……」
なんか嫌だな……なんだが僕がユリウスさんの○ンポを治すために来たみたいで嫌だ……。
「いえいえ、僕はなにもしてませんよ」
「でも、俺はタチバナに感謝したいんだ!」
ん~。そうだ!
「ならこれを受け取って貰えませんか?」
僕は倉庫に空間を繋ぎ、何もない空間からまがまがしい剣が姿を現した。
「これを使いこなしてください」
「なんだこの不吉なオーラを纏った剣は……」
「掴んでみてください」
そう僕が言うとユリウスさんは魔剣『マトリックス』の柄を掴んだ。
「なんだこれは……力が沸いてくる!」
「お礼というなら、その魔剣を使いこなしてください」
「あぁ、ありがとな!」
そして、僕はワープしてリリアナのところに帰っていった。
試作型の魔剣を扱う人がいてよかった。
あの魔剣は刃の部分に穴が空いていて、そこにとある宝石を埋め込むと……。
ほんと人生楽しくなってきたよ。