第13話
「ただいま」
「お帰りなさいませマスター」
内心感動。
なんか良いよね、言った言葉が返ってくるのは。
「まだ、起きないの?」
少女の寝顔を覗き込んだ。
最初の頃よりも安らかな表情で安心した。
「脈は正常……。
呼吸も安定しているし、いずれ目を覚ますね。
目が覚めて、お腹空いたじゃ可哀相だから、いつ起きても良いように作っておかないと」
僕は亜空間から食材を取り出し、調理にかかった。
他人のために、僕が手料理を振る舞うなんて人生初かもしれない。
せめてゲテモノ料理に成らないように気をつけなければ。
なんか今嬉しいかもしれない。
<Side少女>
私は要らない子だ。
家族に見捨てられ、奴隷商人に買われた。
そして、そんな境遇は私だけじゃなかった。
皆が売られていくなか私は誰の目にも留まらず、まるで置物の様な扱いを受けていた。
これはある意味で幸せかもしれない。
売られる子の大多数は買われた者によって人として死ぬ。
そんなのに比べ、私は誰の目にも留まらず、ある意味綺麗なまま私で有りつづける事が出来た。
私の髪は血のような色をしており、瞳は真っ黒。
そして何より特徴的なのは、背中に刻まれたルーン文字。
これは私が産まれた頃から在ったもので、詳細はよく分かっていないらしい。
忌ま忌ましいルーン文字。
9才の誕生日の日にそれは起きた。
誕生日の在ったその次の日に、家族は私に該当する記憶だけ、すっぽりと無くなっていたのだ。
「貴女だれ?」
元母親に言われた。
「迷子かい?」
元父親に言われた。
家族に私は忘れ去られた。
私は泣いた。
涙が枯れるまで泣き続けた。
何故こうなってしまったんだと葛藤した。
きっとこれは、私の後ろに有るルーン文字が原因なんだと思った。
私はルーン文字を消すため、湖に入り、洗い取ろうとした。
爪で背中を引っ掻いても、やはり落ちない。
それもそうだ、これは私が産まれるのと同じ時に生まれたもので、私とは切っても切れない一心同体の存在なのだから。
そんな事は分かっている……分かっているけど……!
気がつくと、日は暮れ夜になっていた。
「帰ろう……。
……ってどこに私は帰るんだろう……」
家に帰ろうにも足取りが重い。
家に帰ろうにも私を受け入れてくれるかが心配だ。
けど私は信じたかった、家族の絆というものを。
決して私は歩き出した。
夜の森は不気味だ。
なんの準備もせず、夜に森の奥深くに入り込むと帰ってこれなくなると、よく母親と父親が言っていた。
私はその言い付けを守っていた。
今日までは……。
ほのかな死臭に、焦げ臭いなにかの臭いが鼻につく。
着くと町は燃えていた。
ただ一人の生存者を残して。
私はこの光景に絶望した。
「うぅ~……、お母さん、お父さん……。
なんで私を忘れて死んじゃうの……。
一人は嫌だ……一人は嫌だよ~!」
私は泣き叫んだ。
町を覆い尽くしていた火は消え、月の光が私に差し込む。
これは私は本当に『捨てられた』んだ。
お母さんに……
お父さんに……
フラフラした足取りで、燃え尽きてしまった村に向かった。
向かう途中、私の後頭部になにか鈍器で殴られたような強い衝撃が走る。
そして私は意識を失った。
だが私が最後に薄笑いしたローブのおじさんを見た気がする。
それから起こる事は全部記憶になかった。
それは何故か……。
それは私がその出来事を全て拒絶していたからだと思う。
受け入れてしまえば、私が私ではなくなるから。
だから、私は忘れる。
でも、今回は特別に忘れる事なく記憶に刻み付けた。
私は誰かの腕の中に抱えられて、空を飛ぶような浮遊感を感じる。
久しぶりに人の暖かさを感じる事が出来た。
いつもみたいな不快な気分じゃなく、本当に気持ち良かった。
あまりの気持ち良さに私はまた眠りについてしまった。
「ここは何処?」
目を覚ます。
知らない天井に心地良いベッドの感触。
「ここは地下666階のワンルームでこざいます」
声のする方を向くと色白い青年が立っていた。
ご丁寧に場所も教えてくれた。
しかし、地下666階ってなんだろう?
新しく出来たダンジョンかなにかだろうか?
「貴方が私を助けてくれたの?」
「あ、いえ、私ではありませんよ」
「じゃあ誰が……?」
「出来たよ……ハッ!!」
黒髪の人が皿を両手で運んで、私を見て驚いていた。
「起きたんだ!良かったね!」
「貴方が私を助けてくれた人なの?」
「お、YES!
あ、お腹空いたでしょ?
これ美味しくないかもしれないけど、栄養はしっかり有るから食べてみて」
私は空腹のためすぐさま飛びついた。
「美味しい……」
「フッフッ……。空腹は最高の調味料ってね。
どんな物でも空腹の時に食べれば、美味しく感じるからね。
例え僕みたいなヘボが作っても美味しく感じる……」
「そんな事ない!!」
「え……?そんなに死ぬほどまずかった?空腹でもまずかった?
ちょっと首吊ってくる……」
「違う!!そういい意味じゃなくて、もっと自分に自信を持っ欲しいんだよ!」
「ありがとう……。なんか照れるな///
けど、残念だ……。
君の精神の方は安定したみたいだし、僕のケアは要らないね……。
お金は渡すから安心してくれていいよ。無銭で放り出すなんて事しないから」
そう言って笑顔になる黒髪さん。
しかし、その笑顔が今では憎らしかった。
「私はここにいちゃいけないんですか……?」
声が震える。
瞳には涙が溜まり、今にも溢れ出そうだ。
「え?」
黒髪さんは驚いた顔をした。
迷惑だろうか……。
それでも私は……。
私は此処に居たい。
せめて恩返しはしたい、とそう思う。
「お願いします私を此処に置いて下さい!」
私は頭を下げた。
「あ、あぁ……。
とりあえず頭上げて。年下に敬語を使われるのは少し違和感あるかな~。まぁいいや。
僕の名前は橘辰子。橘って呼んでね。
そう呼んでくれるなら、仕事は有るけど此処に置いておくよ」
「はい!タチバナさん!」
「元気が良いね。
そこに居るのはセバスチャンっていって、執事だよ」
「セバスチャンでございます」
「とりあえず今日は疲れたでしょ?
今日は休んで明日話しをしよう。
後……この頃最近の子供の服装が分からなかったから、大量に買ってきたけど良い?」
「!!ありがとう!」
今気がついたけど、私の服装は絹服一枚。
殆ど裸同然であった。
「後はそこのセバスチャンにでも聞いて。
僕はちょっとダンジョンの調整に行ってくるから」
そう言って行ってしまった。
感謝してもしきれない、私にまた灯を入れてくれた人。
私は貴方の為に頑張っていこうと思います。
そういえば、まだ私の名前教えていなかった。
そして私の新たな生活が幕を開ける。




