第八話 人心掌握のススメでございます。
次の日になると疲れこそ吹き飛んだが、例のエロ本の件でうなされる……あれがアイテムになるという事実に驚きは隠せないし、ルトロスに返すよう懇願しても『ダメです。』と頑なに渡してくれなかった……あの本は危険なのだ……メイド達の性癖もとい性格が改変されてしまううううううう。
「があああああああ!!」
朝一番に目を覚ましても脳裏に叡智本がよぎる……ルトロスが言うには本をヘイムス・ヴィティズのメンバーとカストディーア、そしてセンシアとルトロス本人にしか渡っていないそうだ。
ていうか、しれっとセンシアに渡してたのかよ……。
「おはようございます。ご主人様。」
ドアからセンシアが出てくる……。
昨日の夜にステータスのUIの出し方を覚えた……さて、センシアはどうかな……。
「何を凝視しているのです?」
なるほど……性格が『ムッツリアホ』お前ムッツリなのか……。元々は『アホ』であり、運の良さや精神力のステータスの伸びが良い。
「なるほど……私を想像妊娠させるおつもりですね?」
「アホだ……。」
もちろん、いい意味でだぞ。
ダイニングへ行きいつも通り食事を行おうとする……今日もあの同じメニューを口にするのか……。
シーコが皿を持ってきてくれると変化が見られた……謎肉はいい感じに火入れがされておりマンドラゴラは一口台にカットされている。
「これ、シーコが作ったの?」
「はい、如何ですか?」
彼女を凝視しUIを確認すると職業欄に信じられない項目がついていた……彼女の職業はメイド、鈍器使いだが……字が文字化けしいるが明らかに『料理人』と書かれていた……嘘だろ?問題はその職業欄の横にスロット開放レベルが書かれている……前にも話したが職業の併用は最大三つであり初期の職業、30レベルから二つ併用そして60から三つ併用可能なのだが……シーコのレベルは32であり三つ併用はできない……その料理人が記載されている項目は開放レベル60のところではなく枠にはみ出て記載されている……まるで『バグ』のように……。
とりあえず、食べ物にフォークを刺して食べると、味こそ変わらないが明らかに違いがあった。
「シーコ……偉いぞ……。」
「やったー!」
成長している?エロ本の件もそうだが、何が発端になるか分からない……今までのゲームのシステムはもう通用しないかも……ゲームのキャラクターではなく一人の人間として成長している……今回のようにシーコは良い料理を作る為に改善した……なので勝手に料理人の職業がシステムを無視して追加……って事か……今のシーコは料理を業務として思っているという事なのかも……?
「私、料理楽しくって!今後もいっぱい皆んなに奉仕します!」
「なるほど……。」
こういう事か……もし、クレアトラ街が復興しレシピ本があればプレゼントしてみよう……そうすればUIに変化が現れるかもしれない……。
どちらにせよ、彼女達の成長は僕にとって嬉しい事この上ない……今後も彼女達の変化に気づいてはUIを開いてプロフィールを確認しなくては……。
食事を終え自室に戻りいつもの旅人っぽい装備に着替える……あと、オウバンのおっさんは大丈夫だろうか……彼は下っ端……ボスがいる訳なので説得として彼は動いている……全員がこちら側に協力するなんて限らないもんな……。
「失礼します。」
「どうした、センシア。」
「オウバン様が殺されました。」
「はいはい……え?」
今、なんて言った?
「ん?オウバン様が殺されました。」
「ええええええええええ!!」
あっさりしすぎだろ!日常会話レベルで重大報告すんじゃねえええええ!!
オウバンの遺体はウガタ村に放置されていたようだ、回収しミトラスに蘇生してもらう。
「フィ……危うく死ぬとこだったぜ……。」
「いや!さっき死んでたんだよ!!」
どうやら、オウバンはボスのいるアジトを訪れ、レナード男爵との交渉の件を話したが……まぁ予想通り快諾してはくれなかった……。
「ああ……話が出来過ぎだとよ……ウチのボスは用心深いからな……。」
確かに……レナード男爵はこちらにつけばウガタ村を復興……そして盗賊団の今までの罪を水に流すのだ……だが、相手は強力なマルクレイブ卿。歯向かわず大人しく下に付いてるのが安牌という事だ。
「すまねぇな……にぃちゃん。俺の力じゃあどうしよもねぇ……。」
「ハルマ様……ここは私達が出向き交渉してみては?」
「ああ……良いけど、上手くいくかな?」
センシアめ適当言ってないだろうな……。
「私が居るではありませんか。」
「それ、自分で言うのか……。」
レナード男爵の話術なら可能性はあるかな……でも急に連れて戦いに巻き込まれるのもな……。
この事をレナード男爵に言うと、なんと同行すると言ってきた……なんでも自分のせいでオウバンを危険な目に合わせてしまったと反省してるらしい。
オウバン、エナ、男爵と僕、センシアで馬車に乗って駆けること数時間……ウガタ村から出立しアジトまでそう遠くない。
ボスのアジトはボロボロの廃砦……昔の戦で使われていた砦らしい。
「ボス!俺だ!オウバンだ!」
「てめええええ!!さっき殺しただろうがああああ!!」
砦の中から大声が響き渡る……殺した相手が数時間後に戻ってきてるのだからびっくりするよな……。
「んで、どうするの父さん。」
「交渉する他あるまい……クレアトラ街を立て直すには近くの村の存在がなくてな……。」
すると矢が飛んで来てレナード男爵の頭にヒット……即死した。
「あああああああ!!父さあああああああん!!」
「なるほど……確かに用心深いですね……。」
「お前は人の死を何とも思わんのかああああ!!」
センシア……やっぱお前周りとズレてるぞ……。
男爵に命の水を飲ませ蘇生させる……次に矢が来たらこっちも力尽くで対抗しよう。
「貴様ら!!何もんだ!!」
「山崎ファミリアでぇーす。」
センシア……お前、まだ擦ってんのか……。
「知るかああああああ!!なんだそのダッセーネーミング!!」
僕もそう思います……。
「ボス!!彼らは強い!!マルクレイブ卿の下なんてやめて!!降ろうぜ!!」
オウバンの説得……聞き入れてくれるか?
すると扉が開き中に案内されるように見える。
中に入れば周りは盗賊だらけ……こちらを警戒し武器を構えている。
「おい、オウバン……ダメだ……大人しくしてるのが身の為だ。」
砦の奥にはデカい椅子に座って踏ん反り返るのがボスのようだ。
「でもよ!このままじゃ、俺達もいつ首切られるか分からねぇぜ!近隣の村々もほぼぶんどっちまったし……収入だって利益は出てるけど絶対尽きる!」
「お前の言い分も分かる……そろそろ盗賊業も撤退だ……ここマルクレイブ卿の領地は財政難に苦しんでる……相変わらず金の亡者は私腹を肥やす……あんなに貯めて何してんだが……。」
「だったら!」
「良いか?ここの連中は一度死んだようなもんだ……払いきれない税を意図的に作ったマルクレイブ卿……俺たちは初めから奴に踊らされてんだ……それに……。」
ボスは奥の部屋に目をやると子供が数人いる……。
「時期も悪い……せめて、ガキどもが自立できるまでの財産を貯めて解散だ……不自由な思いをさせない事が俺達の最後の仕事で使命……ウガタ村はガキが自立して思い出した時に復興してもらうのが確実じゃねぇのか?」
「……。」
オウバンは黙ってしまった……まぁ賭けみたいなもんだし、仕方ないよな。
「良いか?ヤマザキファミリアだっけ……?あんたらもよそ様に首を突っ込まない事だ。奴らは強い……帝国との太いパイプもあるっていう噂だ……力が計り知れない以上、自分の力を過信するな。」
「ふむ、これでは如何かな?」
レナード男爵が話に入る。
「おいおい、ハルタ家に潜り込んだエセ貴族が……クレアトラ街の詐欺師の言葉に聞く耳はねぇ。」
さすが盗賊団のボスとだけあってレナード男爵を詐欺師だと分かっていた。
「はは……私が目的の為なら手段を選ばない詐欺師だとわかっておろう……『ダリアー』?」
盗賊団のボスってそんな名前なのか……。
「まぁな……。」
「この、ヤマザキファミリア……最高位魔法である転移魔法を使える。」
「何?!ハッタリも良いとこだ!そんな魔法この大陸じゃあ数える程度しかいねぇぞ!」
「いや、私……屋敷の2階から見たんだよね……ハルマ達が転移するとこ……。」
ああ……初めて男爵の屋敷に行った時の帰りか……。
「ほう……お前の娘が言うなら本当なのかもな……それで、何だってんだ?」
食い付いてきたな……さすが男爵……恐ろし恐ろし……。
「お主の目的は子供らの保護……危険に晒さず不自由ない暮らしをさせる事……違わぬか?」
「まぁ……そうだな。」
「どちらにせよ、今の財政状況では子供らが成人する前に領地崩壊が起きる……見たところまだ10代ではないな……お主の目標は潰えることになるぞ?」
「何が言いたい?」
「私が代わりに領主になりお主らの未来を保証しよう……んん?悪い話ではあるまい……?」
この男、野心家じゃねえかああああああ!!俺らを利用して領主になろうとしてやがる!!
まず、信じ込ませる手順として強力な信用材料である、転移魔法の話を持っていき引き込ませる……そして盗賊団ボスの弱みを握って今度は己の欲を提示しやがった!!こいつ意外とやばいぞ!!
「だから何なのだ?!」
「良いか?もし、マルクレイブ卿につけばお主の子供達は苦しい生活を送り地獄のような人生を送ろう……だが、私達に協力するれば……子供達の未来を保証し子々孫々、豊かな生活を送れる……そのためには一人でも多くの協力が必要……現在クレアトラ街は復興しつつある……未知の病をハルマ殿達が一瞬で治療したのだ……。如何かな?」
今度は子供をダシに使い始めたよ……こえええええ……。
「子供達……俺は……だが、そんな保証どこにある?!勝つ方法なんてないだろ!」
そうだ、頑張れ盗賊団のボス!詐欺師に負けるな!!
「良いのかな?お主達が使い物にならんと分かれば……マルクレイブ卿はお主の子供に手を付けるのではないか?子供は高く売れるからなぁ……男は盗賊か戦闘員として育て女は娼館にでも売られるのであるまいか……そう遠くない未来だぞ?」
「ああ……ああ……。」
ボスは絶望し始める……これが、プロの詐欺師か……。
と、とんでもねぇ……。
この後、盗賊団とは協力関係を結ぶ事に成功……僕は恐ろしいものを目にして少しの間放心状態だった……。尚、UIの状態異常にも放心状態のアイコンがついていたのは言うまでもない……。
「お主達のおかげで、マルクレイブ卿の排斥は近い……今度はガルバルド傭兵部隊かマルクレイブ近衛騎士団か……。」
廃砦を出るや否や早速次の目標の話をしてるよ……行動力エグいな。
「だが、このマルクレイブ卿の二大強兵……正面からじゃ絶対に勝ち目はねぇ……どうするか……。」
オウバンも同時に考える、武力以外の攻略も大事だよな……。
「マルクレイブ近衛騎士団にアリス・マネットって言う貴族で近衛騎士の団長……そして私の幼馴染でもある……。」
エナが淡々と話す……敵対相手に自分の知り合いがいるとはなー。
「昔、クレアトラ街でマリーダとアリスと三人で遊んでた位仲が良かったの……でも、私の家は弱小だし、何よりあっちはミータ家に長い事使える貴族でもあった……大人になるにつれて世間体とかあって……疎遠になって……」
生まれに縛られた生き方って奴か……大変ねー。
「良いかエナ……マネット家の屋敷に行くことはない……捕まって無理やりマルクレイブ卿の下へ連れて行かれるぞ?」
「でも、せっかくここまで来たの……あの子だってマルクレイブ卿がやばい奴だって分かってる……そもそも、あの子がマルクレイブ卿の崇拝者なんて信じられない……きっと何かある!」
「ふーん。」
「さぁ、行くわよ!ハルマ!」
「ふーん……は?」
話が長すぎて聞いてなかったが、どうやら僕はこれからマネット家の屋敷まで行くことになった。人の話は最後まで聞こう……。
第九話へ続く……。




