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【12】双子の王子と王女



――――ルア王宮のお針子の作業場。今は自由時間だから早速刺繍を……と言ったところで。


『おねえさまぁー!』

かわいらしい声と共に作業場に顔を見せてくれたのはフェネック耳に蛇体を持つ双子の少女と少年だった。御歳10歳。男の子の方が双子の兄でフィン王子。女の子の方が双子の妹でシェン王女。


もう蛇体から2本脚に変化はできるものの、蛇体の方が便利なのか私の元には大体蛇体で来てくれる。


「フィンは今日も蛇体ピカピカ」

「シェンもだよ」

2人が自慢の蛇体を触らせてくれる。色は髪や耳と同じピンクブラウンで、子どもらしく触り心地はどこか柔らかい。


さらにはお膝の上に寝転がったと思えば、息ピッタリにまんまるい銀の瞳で見上げてくれる。


「お姉さまのお膝の上」

「ふかふか、きもちいの」

『お兄さまに内緒でふたりじめ~~』

そう言って幸せそうにすりすりしてくれる。

因みに先祖返りではないため、蛇体の姿でも頬に鱗はなくふにふにしている。今日もふにっとさせてもらえばこしょばくも嬉しそうに微笑んでくれる。


これにはメロメロにならない方が無理だ!作業場ではほかのお針子やりーシャまで和んでいるようだ。


「そうだ、フィンさま、シェンさま。この間お話しした腹巻きが完成したんですよ」

「……!」

「……!」

反応するタイミングも同じ。このシンクロ率がかわいさを2倍にしている。


「ほら。フィンさまの腹巻きには四つ葉の刺繍を、シェンさまの腹巻きには花の刺繍を入れてみました」

『わぁーっ!』

まさに歓喜の声。

腹に巻いて釦で留められるようになっているので、早速2人に巻いて上げる。


『お腹ほかほかー!冷えない!』

やっぱりかわいいなぁ。王妃さまに確認したら断然オッケーとお許しをいただいたのでこしらえてみたのだ。


微笑ましく2人を見守っていればふと、視線に気が付く。


「……アデン!?」

扉の影からジッとこちらを見る視線にハッとする。


「お兄さまだ」

「じゃーん、いいでしょ~~」

これ見よがしに腹巻きを自慢する双子にアデンがさらにずーんと俯く。


「俺は……もらってない」

ビクッ。

「その……ええと、殿方への贈り物としては大丈夫なのか……分からなくて」

「ハトゥナからの贈り物なら全部もらう」

何故か並々ならぬ執念を感じるのだが。やはり双子ちゃんへの対抗意識?


「それじゃぁアデンの分も作るわね」

「ああ……!」

途端にぱあぁっと顔を輝かせる姿に愛おしさを感じる。


「ほら、双子。お前たちも戻るぞ」

『わーん、お姉さまの御膝枕ふたりじめ~~』

「こら、ハトゥナのお膝枕は俺のだ」

『ええ~~』

兄妹喧嘩と言うものか。いや、そこまでじゃない。やはり年齢差がある分アデンの方が大人だし口調もやれやれと言った調子で楽しそうにも聞こえる。

双子を華麗に両腕で抱っこする。獣人は体力も力も人間以上よね。クマ獣人とかだとさらに怪力なのだと知った。


こうして、上機嫌で公務に戻るアデンや手をふりふりしてくれる双子ちゃんを見送りながら次はアレンの腹巻き……。


「胴回りってどのくらいなのかしら?」

「それならこちらに」

さすがはルア王宮のお針子。ササッとアデンの最新の採寸データを出してくれる。


「布は……これにしましょう」

肌ざわりのいい布を選び、早速刺繍を始める。腹巻きだから双子ちゃんと同じようにワンポイントがいいわよね。アデンのイメージだから……やっぱり蛇かしら。青い蛇のワンポイントを入れていく。その後は裏地にふわふわのあったか生地を付ければ完成。完成を待ち遠しく思いながら針を刺していく。


「ハトゥナちゃんっ」

その時呼ぶ声に驚く。


「お義母さま!?」

祖国の正妃なら絶対に来ないのだが、ここでは王妃さまも顔を出すようだ。かくいう私はここで刺繍までしているので多くは言えないが。


「アデンの腹巻き、作ってるんですって?」

「その……っ、すみません」

「責めてるわけじゃないのよ。ただねえ……双子がハトゥナちゃんに腹巻きを作ってもらったって自慢しに来てね、アデンも作ってもらってるんでしょう?」

「は、はい」

アデンにも作ること、お義母さまに無断で引き受けて大丈夫だったろうか?


「それを聞いたシュアロンも欲しいって言いだしちゃって」

「お義父さままで!?」

それは紛れもなく国王陛下の御名であった。


「だから私も……腹巻きに刺繍をするわよ!」

「は、はい!」

早速お針子たちから刺繍道具を借りるお義母さま。元は貴族令嬢だと言うし刺繍もお上手なのだろうか?


「えいっ」

ぷすっ。


お義母さまの指に針がぶっ刺さった。


「きゃあぁぁっ!?」

「す、すぐに治します!」

聖女の治療魔法で事なきを得たが。


「そう言えば王妃さまが刺繍されているところって……」

「どうなのかしら?」

リーシャやお針子たちが不安そうにお義母さまの侍女を見れば。


「見たことがないわね」

「ま……まさか王妃さま」


「子どもの頃に失敗して以来やってないのよ。指、全部刺しちゃってお母さまに禁じられてたんだけど」

まさかの指全部!?

「私も母になった身よ。そろそろいいかと思って……」

てへっと微笑むお義母さまはかわいらしいが周りの心労がもろに伝わってくる……!!


「その、一緒にやりましょ?簡単な蛇行紋でしたら」

いけるはずだ。私がお義母さまの手の位置を指示し、刺さらないように一緒に針を刺しながらどうにか……。


「できたぁ~~」

「やったわ!」

あとは裏地をリーシャがササッと付けてくれて、腹巻きが完成した。


「うふふっ。早速プレゼントしてくるわね!」

お義母さまがルンルン気分でお義父さまのもとに……と、ピタリと脚を止める。


「お義母さま?」

「私もハトゥナちゃんお手製の腹巻き、待ってるからっ!」

お義母さまの分もお作りしていいの!?それじゃぁアデンのを仕上げたらお義母さまの獣系の刺繍を習おうかな。


「早速図案を」

「見本があったはずよ」

お針子仲間もやる気まんまん。まずはアデンの分を仕上げちゃおう。


こうしてアデンの分を仕上げて……公務の終了には時間があるからお義母さまの分も。


「あれ、リーシャも作るの?」

「ええ。ツィーも寒いのは苦手なので」

そう言えばカメレオン獣人だったものね。リーシャたちの微笑ましい仲を想像しながらお義母さまの分も仕上げて届けにいく。


「わぁい!ありがとうっ!」

お義母さまがぎゅっと抱き付いてきてとっても温かくて優しい匂いがする。私も……お義母さまのようになれるだろうか?そんなことを感じながら、アデンの待つ寝室に戻った。


「結局俺が最後か」

ベッドの上でどよんとするアデン。まさかお義母さまにあげたことも掴んだの!?


「あ、因みに俺ももらったよ」

と、ツィーが告げてくる。服の下ではあるものの、そこにはリーシャからの腹巻きがありそうだ。


「俺が……最後」

さらに沈んじゃった!?


「最後のはとっておきなのよ」

「……とっておき」


「そう。アデンのためにこしらえたとっておきよ!」

お披露目したのはアデンの青い蛇のモチーフと鱗紋。


「俺をイメージしてくれたんだな」

「うん!」

早速アデンのお腹周りに巻いてあげれば、ふわりとした抱擁と共にばふんと背中に柔らかい感触が溢れる。


「アデン?」

すぐ上にアデンの顔がある。

「愛おしすぎて、どうしようか」

その……どうなるのだろう?

アデンの顔が近付き、ハッとして目を閉じれば首筋にすりすりとすり付けてくる。


「ん……くすぐったい」

「ふふっ」

「もう、アデンったら」


自然と漏れでる微笑にこの上ない幸せを享受する。

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