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【11】蛇王子の嫉妬



――――嗅ぎ慣れた空気と少し違う、不思議な朝。そうだ、私はもうルア王国にいるんだ。


「ん……っ」

むくりと身体を起こそうとするが、上手く上がらない。その犯人は。


「……アデン?」

隣には気持ち良さそうにすやすやと眠るアデンの寝顔がある。寝る時はさすがに本性の方がいいようで蛇体なのだが……それが身体に巻き付いているのだ。


「その……」

さりさりと撫でればいつもの艶やかさ。私の方が先に起きればこっそり堪能している鱗の艶。今日もバッチリなさわり心地……はいいのだが。


――――思い出す話は、獣人は番と離れたがらない。仕事なら別だけども。プライベートでならじっくりと、濃密に。


「うーん……確かに隣で寝たけど……」

それはせっかく嫁いだのに18歳まで寝室が別々なんて耐えられないと言うアデンのかわいさに根負けしたからだ。

もちろん18歳まで変なことはなしにしてたのだが。


変……と言うか懐いている範疇だろうか。私もこっそりと鱗を堪能してるけど。


「まあ、蛇獣人って情熱的ですのね」

「……っ!」

こちらの侍女服に身を包んだアリーチェが感嘆の声を上げる。因みに私のこっそりとした趣味はアリーチェたち侍女たちとの秘密である。


「ごめんねぇ、ハトゥナちゃん。……蛇獣人あるあるだよ」

続いてアデンの側近であるツィーが顔を出す。公の場ではキッチリしてるが普段はフレンドリーなところは好感が持てる。


「冬だから半冬眠で起きるのも遅いんだけど……ここは仕方がない。起こすか」

「そんな……無理に起こしたら辛いのでは?」

「アデンが辛いと言うか……臣下たちが大変な目に遭うね」

「……はい?」

それは不味いのでは……。途端に近衛騎士や侍女たちが慌て出す。

「みんな……いいんだ。何故なら今日は……番のハトゥナちゃんがいる!」

「確かにそれは……」

「番ですし……」

周囲もドキドキしつつも頷く。


「あら、寝起きでも特徴的なのかしら」

アリーチェはけろっとしていたが……そう言うこと?


「ほーら、アデン。起きて。蛇体が巻き付いてハトゥナちゃんが起きられないよ。アーデーンー!」

ツィーがアデンの肩をゆっさゆっさと揺する。


「ん……うぅ……あ゛ぁ゛?」

最初はかわいいと思ったのも束の間、まさに蛇に睨まれたがごとく。


低血圧なのか朝が苦手なのか、今すぐ何か射殺しそうな目をしていた。


「ほーらアデン。ハトゥナちゃんが隣にいるんだから」

臣下たちが恐れおののく中、ツィーの言葉にアデンの視線が私に移る。


「ハトゥナ」

頬を赤らめ嬉しそうに微笑むと、周囲から何故か拍手があがる。


そして……。


「あと……5分」

アデンはそう言うと私を抱き寄せて……寝落ちた。


「……悪化したのでは?」

「いや、寝起きのアデンが平和だっただけで進歩している」

し……進歩だったの!?これっ!


そして15分後、ふあぁと欠伸をしながらアデンが身体を起こす。

「今日は……とても寝覚めがいい。ハトゥナのお陰かな」

さっきもよすごい眼光で寝ぼけていたのは覚えていないのだろうか。


「今日は夢の中でもハトゥナが目覚めの微笑みをくれたんだ」

それってさっきのことでは……?


「おはよう、ハトゥナ」

「お……おはようアデン」

やっぱり夢だと思ってるのかしら?ツィーとアリーチェ以外のみんながあーあと頭を抱えつつも今日は乗り越えられたと励まし合っている。


「うーん……お腹空いたな。今朝は何が食べたい?せっかくだ。リクエストするといい」

当の本人は気にもせずけろっとしてるけどね。

「うーん……そうね」

祖国ではパンが主食だけどこちらでは小麦と米。パンの前に小麦が来るのでパン以外にも麺がある。しかしながらアデンが二度寝している時に得た情報によると朝は粥や包みもので軽くすますのよね。


「小麦粉の包みものに興味があるわ」

「ああ……肉まんとか野菜まんか。どちらか選べるぞ」

「それじゃぁ……野菜かしらね」

「ではそれにしよう」

ソーレのパンも好きだがこちらの野菜まんもなかなか美味しいわね。


「今日のハトゥナは花嫁修行か」

「ええ。神殿でお祈りをしたあとは王妃さまに妃教育をつけてもらうの」

「そうか。もし寂しくなったらいつでも呼んでいい」

「さ……寂しくは」

「俺は寂しい。こんなに近くにいるのに、公務があるから側にいられない」

「今度公務向けのストールを刺繍するから」

こちらでは刺繍ストールも礼装として取り入れているのよね。私が以前送ったストールはプライベートで使ってくれている。


「王妃さまも応援してくれて、妃教育の合間にこっちのお針子たちに習うわ。リーシャにも会えるし」

「そうか……ハトゥナが好きなことをできるのもいいことだな」

「うん。ところで……アデンは好きなことはしてる?」

「俺か?執務の合間に身体を動かしている」

「いや趣味の話よ」

私は刺繍をさせてもらえるけど……。


「ならハトゥナ」

「うん?」

「趣味はハトゥナだ。番にとってはそれ以外にない」

大真面目な表情で言ってくる。


「そうなの?」

アリーチェと共に給仕をしてくれる侍女に問う。


「その……蛇獣人は獣人の中でもとりわけ愛情深いと言われておりますので」

まさかアデンならではの特別仕様趣味!?


「だからハトゥナ。昼ご飯も……」

「王妃さまに食事マナーを習う予定なんだけど」

「俺も同席しよう。問題ないだろう?」

アデンがツィーをにこりと見る。


「……王妃さまに却下されたら素直に引き下がってくださいね」

そう言うこともあるのだろうか……?ドキドキしつつも神殿でのお祈りを終えて王妃さまの元にやって来た。


「ようこそ、ハトゥナちゃん。今日からよろしくね」

にこりと微笑んだピンクブラウンの毛並みに金色の瞳の女性はフェネック系の獣人である。


「はい、よろしくお願いします。王妃さま」

そしてルア王国王妃ズイさまだ。

「あら、お義母さまでいいのよ」

「えと……お義母さま」

「かわいいっ!」

「その……かわっ」

ぎゅむっと抱き付いてきたお義母さまは何だかいい匂いがするような。


ハッとして気を取り直せば、早速ルア王国の基礎から入っていく。


「さすがね。基礎はしっかりと入っているから次は応用。ランチの時にやりましょうね」

「はい!」

そう言えば……アデンが来たいと言った件はどうなったのだろう?


「アデンも来るわよ」

「よろしいのですか?」

お義母さまが私の考えを見透かしたように教えてくれる。


「ふふっ。それが蛇獣人ってものよ。懐っこくて嫉妬深いんだから」

「何だか分かる気がします」

そうして昼、無事にアデンが来てくれたまではいいのだが。


「何で父上までいるんだ」

「当たり前だ。お前だけ番とランチだなどとずるい」

どうしてか同じ蛇獣人のお義父さままで来てしまったのは余談である。


※※※


午後は公務に戻るアデンたちを見送り私はお義母さまの講義を終えて先に部屋に戻ってきた。


「今日は楽しかったかも」

「昼は大にぎわいでしたわね」

「うん、アリーチェ」

せっかくだからとアデンの弟妹の双子ちゃんまで来てくれてもはや王族の会食のようになってしまったが。


「お腹も心も満たされたわね。そうだ……お腹と言えば」

「どうなさいましたの?」

「今って冬じゃない?もうすぐ2月よ。2月は1年で一番寒いんですって。腹巻き……欲しいわね」


「自分用に作るのならいいのではなくて?」

「やっぱり?」

「それから寒いのが苦手な獣人は子どもに腹巻きを作ってあげることもあるのですって」

さすがはアリーチェ。もうほかの侍女たちから情報を得ている。


「殿方は……」

思い浮かぶのは蛇獣人のアデン。寒いのが苦手で今も半冬眠で睡眠時間が長めなのだ。


「殿方による……と言うところですわね」

「うう……そうなのね」

アデンは喜んでくれるだろうか?


「でもまずは自分の分と……それから双子ちゃんへの腹巻きならお義母さまに許可を得れば……」

作ってみてもいいだろうか?多分今ならお義母さまにも会いにいけるはず。


早速アリーチェと共にお義母さまの元に向かおうとすればお針子の作業場の前でリーシャの姿を見る。


「リーシャ?」

そして話しているのは……ツィーだ。


「最近ますます寒くなってきたから、これ」

「サンキュ、あったかそうだ」

リーシャが手渡していたのはニットで編んだネックウォーマーである。


「???」

ええと……交流のある男性に支給品を渡している……?いやそれにしては親密そうだし。


その時2人がこちらに気が付いた。


「まあ、おふたりってそう言う……」

アリーチェの神分析に私もやはりかと確信する。


「その……ハトゥには落ち着いたら改めてと思っていたのだけど」

リーシャが照れたように微笑む。


「その、番なんだ」

ツィーがリーシャを抱き寄せる。

ええええぇっ!?


「以前ソーレに赴いた際、番がいることに気が付いたが、捜せなかった。でも、リーシャの方から来てくれたな」

「偶然……とは言いがたいほどの運命的な出会いだったわ」

さすがにお兄さまが分かっていたとは思えないのだが。まさか……ローウェン神官長さま……?いやいやどうやってと思いつつも何だかそんな気がしてしまうのは気のせいだろうか。


その後無事お義母さまから『是非作ってあげて』と快諾いただけたのだが……まさかリーシャとツィーが番だったとは。世の中広いようで出会うものは出会う。

それが神官長さまが導いたものでも、運命とは引き合うものなのだと改めて認識する。


――――私とアデンのように。


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