交わる者達(3)
◇◇◇
「なんだ。なんなんだ」
意味が解らない、という呟き。同時に、常に燃え続けていた自身の激情が落ち着いたことが、信じられなかった。
青年の眼に映るのは、黒髪の彼女ではない。倒れる男女の側に座る娘の方だ。その娘の顔を見ていると、感じたことのない感情が浮かぶ。
それは、悲しみ。怒り以外で初めて、青年の胸に生まれた感情だった。
――クソッ――!!!
――なんだ。なんなんだ――!!!
その感情の名前を――青年は知らない。ただ、混乱することしかできない。
「――――」
黒髪の彼女が発した言葉を認識する余裕なんて、青年にはない。
「クソが!!!」
そして、その叫び声と共に魔導の力を再度使おうとした。青年は――その現実を受け入れられない。魔導の力は、発動しない。
「……ッ」
ワケが解らないまま、青年は叫ぶ。
「なんなんだ!!! オマエらは!!!」
青年の中で、魔導の源である魔力が荒ぶる。それでも、魔導の力は現れない。
「――うるさい」
その声を認識したが最後――青年の意識は飛んだ。
◇◇◇
「柚葉」
香花が、柚葉の名を呼ぶ。その呼びかけに柚葉は答えない。
『問答無用で気絶させるの、どうかと思うよ』
念話を送ると、柚葉からの回答が返ってくる。
『あんな頭おかしいヤツ、相手してもムダ』
香花は、脳内に響く言葉を認識して、彼女らしい回答だと思った。同時に、容赦がなくて柚葉のことが心配にもなるのだが。
「柚葉、先にもどってて」
香花の考えを、その言葉だけで柚葉は理解する。そして、立ち上がると――次の瞬間には柚葉は消えていて。倒れた青年も、その場から消えていた。
「さて!」
残された香花は、男女の元へと近寄った。
「……あのなぁ」
紺碧の空のような髪色をした男は、そう声にして呆れた。
「何回言ったら分かるんだ? いい加減、オレの前に瞬間移動してくるのをやめろ」
そう口にして、男は自分の側に倒れている青年を見ると柚葉に問う。
「で、コイツが問題のヤツか?」
その言葉に、柚葉は答えない。そのまま、部屋の扉の方に歩くものだから、香花が言うだろうことを男に言われる。
「意思疎通。嬢ちゃんに言われてるだろ」
柚葉は反応しない。そして歩くのもやめない。
「とりあえず牢に入れておけば問題ないか?」
男は柚葉に諦めず言葉を投げた。
「コイツ、魔を使うんじゃないのか? ただ牢へ入れるだけで問題ないのか? それくらい、答えてからにしろ」
柚葉が立ち止まる。すると、男の真上から太めの紐が落ちてくる。
「っと!」
男が反応して、それを掴む。
『それでもつけとけば』
柚葉は念話を残すと、部屋から出て行った。




