交わる者達(2)
◇◇◇
――憎い――
――嗚呼、ムカつく――
それは、とてつもない負の感情。途方もない激情だ。
存在したのは、全てに対する憎しみと憤怒。きっかけは、分からない。その激情が存在する理由。それは青年にも分からない。
それでも、その激情は、常に内側で燃え続ける。鎮火することも、小さくなることもなく。ただ、激しさのままに、行動原理へと変わっていった。
その才能は、青年を残虐な行為へと突き進ませた。
その魔導の才能さえなければ、青年はただの人間だったのだから。そうであれば、青年の行動を、大人の男であれば止めることができただろう。
けれど、現実は非情だ。その魔導の力は、青年の行動を助長させた。残虐な行為を可能にした。
そして、青年は怒りを撒き散らした。慈悲などなく、怒りの対象となってしまった『生物』に暴行を加えた。
その行為は、対象を死へと追い込んだこともあるだろう。それでも、誰も青年を止められなかった。
魔導の力を前にして――人々は無力だった。
綺麗な顔の女だと思った――
大きな波に飲まれて、流されて。その波の勢いに魔導の力で逆らい、青年は飛び上がった。
着地して、その対象を認識した――
興奮が一気に冷めた。青年は、目を奪われていた。その場で――立ち尽くした。
青年はその場から動けない。激情は鎮まっていて、青年は動揺した。
奥底で燃え続けた怒りの波は――彼女を映して緩やかなモノへ。
何が起きたのか、その自身の状況を理解できなかった。
青年は信じられない。そこにあった激しい怒りが、鎮静化する経験なんてしたことがなかった。初めて受けた、衝撃だった。
◇◇◇
香花は拍子抜けする。柚葉の魔導から抜け出した青年が何をするか、警戒していたからだ。
青年は、何もしてこず。その場に立ち尽くして、柚葉をその目に映していた。
香花は、青年の視線の先にいた柚葉に視線を向ける。柚葉は倒れた男女の側に行き、彼らの脈を確認していた。
『捕まえんじゃないわけ』
念話の魔導で、脳内に柚葉の声が響く。
『まずは、対話かな』
香花はそう念話で返して、青年に向き直った。そして、口を開く。
「ここらへんで悪さをしてるのは、キミで間違いない?」
そう話しかければ、青年は香花を睨みつける。
「うーん、暴れないなら問題はないけど――それでも、あたしはキミを連行しないといけないかな」
香花がそう口にした直後――青年が、魔導を発動する。それは、炎の魔導だった。
それは、勢いよく香花に向かっていく――
その後、一瞬で消える。
――!!?――
青年は、目を見開いた。そして、再び魔導を使おうとしたのだが、魔導は発動しない。
青年の眉間のシワが深くなり、そこで初めて言葉を放った。




