交わる者達(1)
青年は、青い空を睨んでいた。その顔は険しい。
彼が佇むのは、砂の大地。砂の丘を前にしながら、彼は立ち止まっていた。
しばらくの静寂。しかし、彼の心は怒りしかなかった。
彼は、やがて歩を進めていった。
――激しい怒りを抱えながら、彼の日々は過ぎていく。
その怒りのきっかけも、分からないまま。
そこは、森の中。細い川が流れる、川原の側。
佇むのは、薄い色素で短めの髪をした、背の高い娘。頭巾のついた、丈のある白い外套を羽織っていた。
その近くで大きな石に座っている娘も、お揃いの外套を身に纏っていた。
「柚葉。そっちはどうだった?」
佇む娘の名を呼びながら、もう1人の娘が問いかける。けれど、柚葉と名を呼ばれた娘は瞼を閉じたまま、表情を変えない。おまけに無言だ。
「答えないと分かんないよ」
そう追加で口にする娘の名は、香花と云う。黒く長さのある髪を、1つに結っているのが特徴的だ。
香花の言葉に、柚葉は瞼を上げると、口を開いた。
「答えるほどのことはないってだけ」
そう淡々と言う柚葉。
香花と柚葉の2人は、長い付き合いだった。なので、柚葉が淡々としているのにも香花は慣れていた。
だが、だからといって、柚葉の薄い反応に思うところがないわけではなく、香花はいつも通りに自分も反応を返すのだが。
「いつも言ってるけど、意思疎通して」
そう柚葉に言った直後――香花はバッと柚葉のいる方向に顔を向ける。柚葉も、香花の見つめる遠くに視線を向けていた。
「柚葉も感じたなら行くよ!」
2人が感じたのは、一瞬現れた魔力と、気配の乱れ。
香花はそう口に来ると、駆け出した――
鼻を劈くようだ。
それは、生き物の灼ける臭い。
異様な光景だった。
燃え盛る炎と、その中から助けを求めて手を伸ばす人の姿。
それを目の前にしながら顔に影を落とすのは、黒髪の青年。その口は笑みを描いて、不気味だ。
それを目の前にした香花は、硬直する。記憶から呼び起こされるのは、幼い自身が叫ぶあの瞬間。無力さに打ちのめされながら、やめてー!!! と泣き叫ぶしかできなかった、遠い過去。
――水魔法『波流れ』――
それは、水に関連する魔導。
突如として、大きな水の波が現れて、香花を除いたその場を飲み込む。青年諸共、炎を飲み込んだ。
――!?――
香花は、その波を見てハッと我に返る。
「何してるんだわ!! 魔法かけろ!!」
響いた柚葉の声に、香花はようやく動けるようになる。香花は、大いなる治癒の魔導を発動する。
――治癒魔法『神の御業』――!!!
鎮火した炎の中の、灼け焦げた2人は時が戻ったかのように――元の姿へと戻った――




