⑥そう言えば聖女は
――――俺は魔王子として、間違ったことはしていない。むしろ当然の責務である。
「これは不当な要求ですわ!」
「どこがだ聖女!」
俺はエイト、姉さんと共に不法滞在聖女と向き合っていた。
「いいか、聖女。お前があとこの魔王城にいていいのは今夜までだ」
「そうね。これは魔王さまからの退去命令でもあるの」
「く……っ」
聖女が悔しげに姉さんのおっぱいを睨む。おいこら、姉さんのおっぱいにケンカうるなら魔王城の姉さんのおっぱいを守る会の全会員が相手になるぞ。
「今日中に魔王城に就職か帰国を選ばなければ強制的に魔王城ならびに魔王国から追い出す!あとは自力で帰ることだな!」
「正気ですか!?私は聖女です!戦闘能力なんてありません!道中は魔物もいるのに……勇者さまがいなければ……」
ちらり。
「いや、さすがに俺も不法滞在はちょっとどうかと」
「勇者さまぁっ!勇者さまは聖女の味方であるはず……」
この女、あくまでも勇者にこだわる気か。ジョブハラだぞジョブハラ。エイトの気持ちも考えてやれ。生粋の日本人であるエイトにとってブラック企業王国シャワー三食プロテインセット生活がどんなに苦しかっただろうか。
「バカヤロウ!!聖女だからなんだ!不法滞在は不法滞在!甘えんじゃねええぇっ!」
「ヒイイィッ悪魔ぁっ!」
……いいえ、魔族ですけど。
――――その夜。
俺はハルきゅんを連れてバリのロイヤルスイート級ベッドに横になる。
今夜のうちに聖女が出ていくことを信じて。
「さぁ、ハルきゅん。サギリおにーたんと一緒におねんねしましょうねぇ」
「おねんねでち!」
「ああんっ!かわいい大好きっ」
ハルきゅんをぎゅ~~っ!
「……!ハルきゅんもサギリおにーたんがだいしゅきでち!」
ぎゃっふんっ!両想いいぃっ!
「ハルきゅんはずっとずっとひとりだったでち……誰もハルきゅんを選んでくれなかったでち。だからりっこうほしてもきっと誰も選んでくれない……ずっとずっと引き込もっていたでち」
「……ハルきゅん」
「けど、サギリおにーたんが選んでくれたでち!ハルきゅんは加工もできないし武器にもなれないのに、サギリおにーたんは使ってくれたでち!」
「うん、もちろんっ!これからも俺の相棒だぜ!」
それにマーカーでお名前も書けたし、ハルきゅんのためにとっておきもこしらえたのだ!
「……!うれちいでち……!サギリおにーたんにぎゅーちてもらって、よしよししてもらいながらおねんねするの、だいしゅきでち!」
「ああんっ、俺も大好き~~っ!ほら、よしよ~し」
「ひゅぅぅん……うと……うと……おにーたん……でち……すぴぃ……」
ぎゃんかわあぁぁぁっ!!ああ俺、あと2時間くらい寝れなさそうでも毎日快眠なのはハルきゅんがかわいいからだよなあ!?
お布団の中でハルきゅんをぎゅっと抱き締めながら、俺も夢の中へ……。
――――その時、部屋の中で気配が動く。
「死ねェ……魔王の息子」
ドスの効いた声とともに振り下ろされるその凶器。俺はカッと目を見開いた。




