③チョコフォンデュバナナ
――――シャワー文化の世界なのに何故魔王城に大浴場かあるかって?
それはもちろん転生者である俺が魔王父さんに提案した……だったら格好良かったのだが。5歳の頃にお風呂がないと3日三晩泣き続けたかららしい。
「ふぅ……しかしいい湯だ」
そのお陰の湯船である。
「はぁ……生き返るううぅっ」
エイトも満足げである。
「気持ちいいでちっ!」
「そうだねぇかわいいねぇハルきゅぅんっ!」
ハルたんは5歳児ほどなので俺のお膝に乗せてあげている。
「かわいいなぁ。俺も幼児にお膝の上に座ってもらってのんびりまったりしたい」
「うちのハルきゅんはあげませんよっ」
「ぼく、サギリおにーたんがいいでち」
「ぐふっ」
済まんな勇者エイト。わざとじゃない、俺は心行くまでハルきゅんを愛でたいのだ!
そういや俺が5歳の頃は誰のお膝に乗せるのか父さんと魔王四天王の3人のメンツが取り合いをしていたらしい。ふぐっ、姉さんは母さんと普通に女湯を使っていた。……悔しくなんてない。決して……ぐすっ。
「はぁ……それにしても魔王城は最高だな……。勇者の召喚国は鍛練も実戦も過酷で寝る暇なし。三食プロテインだったこともある」
「いや、三食プロテインてお前極細マッチョじゃん?」
「……筋肉つきにくい身体つきなんだ」
日本人にはありがちだな。
「もしよかったらこっちに就職する?ほら勇者が魔王城に転職するなんて今やテンプレじゃん」
「確かに!」
「それにうちは1日5~8時間労働。週5なら週休は完全2日制。残業代も出るしボーナスも出る!特別休暇だってとれるから福利厚生もバッチリだ!」
「よし乗ったぁっ!」
「よっしゃぁ決まりぃっ!」
よし、フローズンバナナは温泉で身体も温まり、チョコフォンデュバナナとなった。
さて、夕飯は料理長にチョコフォンデュバナナにしてもらおうかな。
「……私は納得してませんからね!?」
風呂場から出るなり聖女が突撃してきたが……お前も風呂入ってきたんだろ?バレバレだぞ。
――――こうして、勇者と聖女が魔王城に滞在するようになった。
「ようエイト、頑張ってるな」
「ああ!サギリ!」
魔王城で新たな汎用剣をもらったエイトは週5、8時間勤務の魔王軍門番の仕事をもらっていた。
「ここは最高だ。たまに残業はあれど残業代は出るし、三食食堂でちゃんとしたご飯が出る。カレーまである」
カレーは俺が6歳の時に1週間泣いて悲しんだから親父がインド風国家から仕入れてくれて魔王国に
馴染んだんだよな。
「給料も出るからそこら辺の民家から強奪せずに済む……っ、ぐすっ」
RPGお馴染みの勇者チート。やはり実際にやるとなると胸が痛むわけだ。
「まあお前が充実しているようなら良かった」
「もちろん!」
わっはっはと笑い合う同郷の俺らの間に今日もやって来たのは聖女である。
「わ、私はこんなこと認めてませんからね!?」
「なら君はそろそろ国に帰ったらどう?」
エイトの至極もっともな言葉である。
一応人道的な観点から聖女にも使用人向けの部屋を出しているが、魔王城にタダ滞在しているのも事実。
「わ、私は勇者さまを連れ帰るまで帰りませんっ!」
「いや勇者がどこで就職するかなんてエイトの自由だろ」
「そんなこと認められませんわっ!」
「何つーブラックな職場だ」
「何がブラックですか!我が国はとってもアットホームな職場を提供しているのですよ!」
「アットホームとか言い出した時点で社会性ゼロなんだよ!ちゃんとした職場気取るなら職場と家は分けやがれ!」
「ひうっ」
涙目の聖女だが、一応うちの国民の血税なんだぞ!聖女は泣き言を言いながら逃げていく。
そろそろ強制送還および滞在中の費用なんかを祖国に請求しようか……?




