①トロピカルバナナ二世
――――サギリ・ダークメテオヌス・トロピカルバナナ二世。
それが今生でのトロピカルアイランド風の名前だ。
今生と聞いてピンと来た人も多いことだろう。そう、俺は転生者であった。つまり元地球人。日本人だがマダガスカルからの帰国子女と言う謎の経歴を持っていた。
「サーギリきゅんっ」
そして俺の名前をトロピカルバナナ方言で呼んでくるのはあからさまに魔王みたいな角を生やした黒髪ストレートロングの美人である。
「何だよ、親父」
「んもう親父なんて呼んじゃダ~メッ!パパきゅんだぞ~~」
キメぇよ、親父。
でも名前は超カッコいいんだが。何せシュヴァルツ・ダークメテオヌス・トロピカルバナナ一世だ。普通に考えて……俺の親父、あからさまな魔王である。
「ところでサギリきゅん。魔族はみな16歳になると金属の精霊と契約を交わし魔法武器を持つのだ」
俺の母さんは人間だから角はないが、親父の……魔族の血を引いている。
「分かった分かった」
魔族は魔法が得意なので属性精霊との契約はいらない。だから契約するのは武器を扱うための素材の精霊だ。
「アダマンタイト、ヒヒイロカネ、ミスリル、いろんな精霊が揃ってるからね!好きな精霊を選んでパパみたいな立派な魔剣を持とうね!」
「はいはい」
なお精霊を誰でも選べるのは魔王の息子だかららしい。普通は精霊から選んでもらうのだ。
南国特有の穏やかな気候とバリ島の高級ホテルのような回廊を歩いて行けば、そこに荘厳な扉が現れる。
ここは東南アジアの何か凄そうな遺跡風だな。
「どもー、これでもファミリーネームはダークメテオヌスの方!トロピカルバナナ二世は魔王子の称号サギリです」
これが精霊たちの間に入る際に必要な文言だ。ついでに親父はトロピカルバナナだけどじいちゃんの代まではマジカルバナナ。じいちゃんはその九十九世だった。
「よくぞ来た、魔王子よ」
まず偉そうに告げたのはアダマンタイトの精霊。この世界ではアダマンタイトは世界のスリートップ金属だ。
「ハァイ、魔王子くぅんっ、お姉さんにしない?」
スリートップのひとりミスリルの精霊。いやー……俺は年上のお姉さんは好きだが、好きなお姉さんのタイプはちょっと違うんだけどなぁ。
「ぼくはヒヒイロカネ!」
スリートップの最後のひとり、ヒヒイロカネの精霊。絶対こいつぶりっこだ。他にも多くの精霊たちが集まる中で気が付いた。
「へくち……っ、でちっ」
「え、子ども?」
そこには延べ棒のようなものを大事そうに抱く5歳児がいたのだ。精霊だから5歳ではないだろうが。
「君は何の精霊かな?」
「……オリハルコン、でち」
その瞬間精霊たちの笑いが響いてくる。いや、かわいいだろ、このしゃべり方!ああんいい年した大人どもが笑うから幼児が泣きそうじゃんかっ!
「よしよし、大丈夫だ」
幼児を抱き上げてよしよししてやる。
「オリハルコンだなんてかっこいいじゃん」
地球では伝説の金属だぞ?あれ……でもなら何でオリハルコンは世界のスリートップにいないんだ?
「オリハルコンは確かに硬いがろくに加工も出来ぬ不良品ではないか!」
とアダマンタイト。
「そうよぉっ、クソほどにも役に立たないんだからぁっ」
お前そろそろクソビッチって愛称つくぞミスリル。
「残念だけど魔王子さま、それは剣にはなりません」
ヒヒイロカネがまさかの真面目解説キャラだったの何なん?
「……でち」
うーわわわっ、オリハルコンが泣きそうだ!
「よ~~ちよちいいこいいこ~~!ひょっとしてオリハルコンって腕に持ってるやつ?」
「……そうでち」
オリハルコンが渡してくれた延べ棒を持ってみる。結構重さがある。多分魔族補正で持ててるが実際人が持てば結構な重さ。さらには超硬いとくれば。
「剣になんてする必要ないだろ?」
「……そうでち?」
「ああ。オリハルコンにはオリハルコンの使い道があるわけだ!そう……鈍器ダァ……」
オリハルコンを抱っこしたまま延べ棒を構えニヤリとほくそ笑む。
「手始めにお前らから試そうカァアァァッ!!?」
『ヒイイイィィ――――ッ』
異世界スリートップのアダマンタイトとミスリルが一番に逃げていき、他の金属精霊たちから拍手が巻き起こる。
「力を得ると傲慢になるものですよ。あれらにはいい薬になったのでは」
「……ヒヒイロカネ、お前は違うのか?」
「金ピカの刀身を持ちたい魔族はあんまいないですからね。ぼくは装飾品担当です」
そっか……お前は脇役担当で苦労したんだな。
「さあ~~て、オリハルコン……いやハルきゅ~~ん、サギリおにーたんと一緒に行きましょねぇ~~」
「一緒でち?オリハルコンを選んでくれるのでち?」
「もっちろ~~んっ!」
だって俺、ハルきゅんにもうメロンメロンなんだものっ!トロピカルバナナだけどねっ!
その日俺はオリハルコンの精霊ことハルきゅんと運命の出会いを果たしたのだった。




