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6:芽生えの疑問符

メニューは話数によって、随時追加します。

無言のまま立ち尽くしていたら、彼がゆっくりと近付いてきた。一歩一歩踏み込む足と同時に、私の脈も速くなっていく。あんなに会いたいって思ってたのに。なんだか今は、すごく・・・・・・・。


「久しぶり、ちー。」


声が降って来た。


あっという間に目の前に立たれて、愕然とする。何これ。何でこんなに伸びてるの。随分と背が伸びたとは思ったけど、私よりもおっきくなってるじゃない。嘘でしょ、ていうかほんとに、この人慎ちゃん?


「ねぇ、ちー。」


混乱する私とは正反対に、慎ちゃんは屈託なく笑う。その笑顔はさきほどの厳しい表情とは打って変わって、面影の残る優しいものだった。きゅっと上がった口角。澄んだ瞳。そして頬にえくぼ。ようやく自分の知る慎ちゃんに出会えた。その安心感に、心の中でぽっと灯りがともる。


けれどもそれを遮る様に、慎ちゃんがこちらに人差し指を向けた。


「ちー、この抱き付いてる人、だれ?」


指差す先には腕を私の背に回す熊男。そうだった!私は抱きつかれたままだった。今更ながらに気付いてしまい、嫌がる健斗に無理やり腕を伸ばし距離を取る。ちょっと、コラ、離れなさい!と健斗とのやり取りの数秒後。


「えーっと。この人はね、仲良しのお友達さんです!」


と、はっきり言い切った。説明不十分な気もしたけれど「この人すごく甘えん坊で、抱き付くのは習慣なのよ。」なんて事言っても、今の健斗の風体じゃ納得出来そうにも無いから言わなかった。だって可愛さの欠片も無いし。


「仲良し・・・ふうん、そう。」


慎ちゃんは呟き、私の横に居た健斗を見る。対する健斗と言えば・・・得意の人見知りを大々的に発揮しているのか、慎ちゃんが現れてからというもの、様子を窺ってるのか一言も口に出さない。挨拶もなし。ちょっとちょっと健斗さん、社会人としてそれはどうかと思うんですけど?


「それよりも慎ちゃん、えっと、その・・・元気だった?」

「元気だよ。むしろここにくる為に、充分体力付けてきたくらいに。」

「体力・・・え?ここにくる為に体力付けるの・・・?」

「うん。」


何だか、意味がよく分からないけど。だってここは避暑地だから、普通は身体を休める所なのに。


「だって、ちーと一緒に過ごすんだから。体力あった方が色々楽しめるでしょ?」


そう言って再び笑顔が広がる。しかもとびきり上等で、きらりんっと効果音が付きそうなほどの、眩しいくらい綺麗な笑顔を。たぶん女の子達がこれを目の前にしたら、きゃあって騒いでしまうよね。ていうか普段、確実に騒がれてるよね?だってこれって、いわゆるキラースマイルってやつでしょう?


「ちょっとちょっと慎ちゃん、あなたいつの間にそんなスキルを・・・・・。」


確かに、もちろん昔から可愛くて綺麗な男の子だったけれど、今の慎ちゃんは何ていうか・・・こう、テレビや雑誌のモデルさんみたいな感じだもん。何だかすごく、キラキラして見える。しかも何かオーラ出てますよね。何ですか、こう、男前だけが放つ素敵オーラみたいなもの?ここに居るのも信じられないというか、まるで違う世界の人って感じだよ・・・。


そこまで思って、はっと気付いた。


あ、そっか。そうだよ。そんなの当たり前じゃない。だって慎ちゃんは・・・天上人なんだもの。忘れてちゃいけなかった。私と慎ちゃんじゃ違うんだよ。いつまでも昔みたいに、一緒には居られないんだった。まだしばらくは、大丈夫だと思っていたけど・・。


「もうすっかり、大人になってしまったんだね。」


私の呟きで、慎ちゃんの表情が少しだけ翳ったのを、もちろん気付けるはずも無く。


「あの、取り合えず、2人とも中に入ろう?ね?」


気分を変えたくて店へと促そうとする私の手を、強く掴んだのは健斗だった。手首から手のひらへと移動して、最後に指をきゅっと握る。いつも健斗がする、さよならの挨拶だ。


「千紗、俺は帰る。」

「えぇ?もう帰っちゃうの?」


私は首を傾げて健斗を、そして慎ちゃんへ視線を移す。けれど目が合ったのも束の間で、慎ちゃんはすぐに私の左手へと視線をずらし、その目をすうっと細めた。


「ごめんね千紗、今日はちょっと出直す。また、遊びに来ても良いよね?」


「何言ってるの、当たり前じゃない。さっき言ったでしょう?健斗に会えて嬉しいって。」


「・・・・・・うん、ありがとう。大好きだよ、千紗。」


握り合った手をブンブンと上下に振られ微笑むと、そのまま健斗は帰って行った。健斗、何か変だった・・・・?ってか、健斗はいつも変だけど。私がぽかんとしたまま、どことなく元気の無い健斗の背中を見送っていると


「あのクマみたいな人、本当はちーとどういう関係?」


真後ろからいきなり声を掛けられ、ビクッと身体が竦む。恐る恐る振り向けば、腕組みした慎ちゃんがじいっと私を見下ろしている。あのう、何だかちょっと不機嫌に見えるのですが、どうしたのでしょうか。あ、もしかしてお腹すいたのでしょうか。


「ホントも何もお友達ですから。澤野、健斗っていうのよ。」


「サワノ。」


慎ちゃんはそう言ったきり、俯いた。


『大好きとかって・・・・けど、随分フランク・・・・・抱き付いたりするのも・・・ちーには・・・友情の証・・・まったく・・嫌になるくらい低い防御壁だな・・・・どうなってるんだ。全然話が違うじゃないか。』


何やら小声でぶつぶつ言ってるけど。

・・・・・あ、そうだ!


「いきなりで驚いちゃったけど、一体いつ着いたの?」


「ついさっきだよ。一番にちーに、会いたかったからさ。」


会いたかった


その待望の一言は、さっきまでの緊張やら何やらを吹っ飛ばしてくれた。


「私もだよ慎ちゃん!ずっと待ってたんだからね!?ずっとずっと会いたかったのよ、慎ちゃん!」


私は思いっきり彼に抱き付いて、背中をバンバンと叩き、頭を何度も撫で、ぎゅむぎゅむと身体を締めつける様に抱き、今日一番の抱擁を交わす。


「・・・・・・・・ちー。」


背に廻された手の感触は、昔よりもずっと固くて大きかった。肩に置かれた顎とぬくもりも、全然知らないものだ。それに、私を呼ぶ吐息交じりの声が耳に掛かって・・・・・爪先から頭までうずうずした。


身体を離して、見つめ合う。


「お帰りなさい、慎ちゃん。」

「ただいま、ちー。」


当たり前の様に彼から差し出された左手に、私はゆっくりと右手を結ばせた。本当はね、手を繋ぐ事に一瞬だけ、躊躇ってしまったんだ。可笑しいよね?自分からは抱き付くのに、差し出された手には戸惑うなんて。自分でも何故かは分からない。きっと、久しぶり過ぎて距離感が掴めなくなったのよね?なんて無理やり納得させて、大きくなった手を強く握った。




思いがけず多くの方々にご覧頂いている様で・・・嬉しく思っています。

申し訳ありませんが、7話目からはちびりちびりと更新致します。

新メニューが出来たかどうか・・・たまにご来店頂けると幸いです<(_ _)>


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