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4:待ち人来らず

メニューは話数によって、随時追加します。

ベランダで洗濯物を干しながら、何度も何度も右斜め前方を見る。


視線の先には三角屋根の白く大きな家。

その家はまだ、カーテンが閉められたままだ。


ふうーっと溜め息が出る。これがあと・・・いったい何日続くのだろう。


燦々と照る日差し、鳴き始めた蝉の大合唱。

青と白のストライプシャツに、ポニーテールの髪が嫌になるくらい纏わりつく。


「あっついなぁ・・。」


太ももまでスッキリと晒したミニのジーンズでも、やっぱりどうして死ぬほど暑い。


「あー何か、かき氷とか食べたいし。」


濃厚ミルクのアイスクリームとか、食べたいし?キンキンに冷えた麦茶をぐびっと飲みたいし?プールに思いっきり飛び込んだりとか、海でみんなとはしゃいだりとか・・・・それに、


「慎ちゃんに早く、会いたいし・・・・。」


そして恨みがましく、豪邸を睨む。

この所、洗濯物を干す時の私の習慣がこれだ。

我が家からご近所さんである「柏木家」のカーテン。それがいつになったら開けられるのか、その事ばかりを気にしている。


「カーテンが開く=柏木家の坊ちゃまのお帰り」なわけであり、

さらに言うなら。

「柏木家の坊ちゃまのお帰り=慎ちゃんのお帰り」なわけである。


「今年は早くなるって言ったじゃない。慎ちゃんの、嘘つき。」


小さな火種がパチパチと音をたて、私の心を苛々させていた。


さて・・・・・・・・私の住むこの街は、世間で言う所の避暑地である。裕福な方々の所有する別荘が連立している。普段はとっても静かなこの街も、夏ともなれば颯爽と高級車が通り抜け、麗しきご婦人方や目を引く素敵な男性が、街を闊歩する。その様子は本当に華やかだ。たまたまこの場所に、両親が土地と家を残してくれたから目にする事が出来た光景。天上人たちの華麗なる日常。そうしてひとしきり夏を満喫すれば、天上人たちは元の地へと帰っていく。


まるで月に戻るかぐや姫みたいに。残された私達は・・・・・・彼等の美しさに目を奪われて嘆くだけ。ああ、また必ずや帰って来ておくれ!そう悲しんだ竹取の翁の気持ちが、私にはよく分かる。いやいや・・・・・・冗談じゃなく、ほんとにね。


洗濯かごを掴み、ベランダから1階へと降りる。キッチンへと移動して慣れた手つきでエプロンを着ると、オーブンに顔を寄せた。オレンジ色の光の中、マドレーヌがぷくっとお腹を膨らませているのが見える。香りも悪くない。・・・・・うん、たぶん美味しいはずです。次に冷蔵庫を開け、仕込んでいたレモネードを味見した。


おおっ!これはおいしいっ!!


出来あがりにニンマリとほくそ笑んで、仁王立ち。やっぱり、私って天才だわ。・・・・・・誰も言ってくれないから、自分で言うしかないってのが悲しいけどね。


その時、ぽーんぽーんと仕掛け時計が鳴った。羽を動かすフクロウが、開店までちょうど2時間だと知らせる。さあ、今度は私の準備を始めなきゃ。頭の中で、残り時間のタイムスケジュールをちゃちゃっと組む。よしと気合を入れ直して、私はすぐさま動き始めた。この日、思いがけずに再会を果たすまで・・・・・・あと2時間と35分。


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