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異世界より戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~  作者: クワ
第四章

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現代への帰還~ホトルスとの別れ~

 翌日


「ホトルス、終わったぞ」

 ホトルスに収録の終わったパピルスを返すと、朝食を作るためにテントを出る。

 荒い大地に日が昇り始め、星々がオレンジの光により駆逐されていく。

「さてと、まずは火を点けないとな」

 そこらで拾ってきた枯れ葉と枯れ枝をまとめ火を点けたその時、ホトルスは奇声といっていい程の大きな歓声を上げテントから出てきた。


「どうしたんだ」

 訝し気に見る石倉に笑いながら話すホトルス。

「これを見ろ! 石が風化している。当たり前だ、時間と共に物は風化する」

 そこには、風化し頭から上が無くなっている石像が写っていた。

「ああ、そう言う事か!」

 ホトルスの言わんとしている事を理解した石倉も歓声を上げた。

「何でそんな単純なことに気付かなかったんだろう」

「問題は、どこが崩壊したかを探る事だな」

「ああ、でもよかった。希望が見えてきた」

 二人、天に向かって両手を上げ雄たけびをあげていた。


「計算上……柱の高さは、これは五十センチ、ここは十センチ、あそこは……」

 影の長さから逆算し高さを割り出す。

 近場に落ちている石を、石倉は魔法を使い砂で削り高さを合わせ、持ち上げ柱の上に乗せて行く。

 行く日も行く日も繰り返す。

「湖の魚も喰い尽くしてしまった」

「食料も心もとない、引き返すなら数日中に決断しないと飢え死にしてしまうな」

 そう言いつつ、一日一日と帰還を先延ばしにし天に連なる遺跡に留まった。


 それから数日たったある日


「イシクラ!」

「ああ、ホトルス」

「終わった」

 遺跡の柱群は不格好ながら元の高さを取り戻し、後は日が昇るのを待つだけになった。

 その柱越しに見える背景は、一面の荒野に満天の星空が地平線の奥まで広がり、星々がその瞬きを増して二人だけの遺跡に己の存在を主張しつづけている。

「……」

「……」

 二人は無言で天を仰いでいた。

 もし移転が成功した暁には――二人、もう二度と会うことは無いだろう。

 崖で落下したことで出会った偶然。

 ここまで苦難を共にした仲間、その別れ。


「もう寝ようか。明日は魔力や体力を大量に必要になるかもしれない」

「ああ、先に寝てくれ。俺はもう少しばかりこの星空を目に焼き付けたい」

「わかった。おやすみ、ホトルス」

「おやすみ、イシクラ」


 移転当日


 相変わらず、鳥一羽飛んでもいない辺境の大地。その大地に日が昇る。


「時間的には正午だ、支度をしよう」

「ああ、私は火を起こす。君はテントを片付けてくれ」

「わかった」

 いつもの場所で前に集めた枯れ葉や枯れ木に炎の魔法をかける。

 いつもと変わらず徐々に火が広まり、掛けてある鍋に入った水が沸騰し始める。

 二人分の皮袋に沸騰したお湯を火傷しないよう気を付け注ぐ。

「よし、次は固形食糧だ」

 はっきり言って旨いものではない。むしろマズい。

「ひょっとしたらこれも今日までかな」


「おっ出来たか」

 ホトルスが作業を止め鍋の前に座った。

「ほれっ」

 器によそった汁を渡し、自分の分も器に注ぎ込む。

 無言でそれをかき込むと、二人でテントの撤去を行った。

 これがあったせいで影の位置が変わるかもしれない。変数は排除した方がいい。


 ホトルスの前に少し冷えた皮袋を差し出す。

「先ほど沸かした時に先に取り置いておいた水だ。私の分はちゃんとあるから持っていけ。この先何があるか分からないしな」

 そう言って石倉は自分の分の皮袋をもう一方の手で持ち上げた。

「すまない、相変わらず気が利くな。そういう所を見習わないとな」

 そう言ってホトルスは笑った。


 それぞれの荷物を持ち、正午を待つ。

 時間が経つのが遅い。いや遅く感じるが正解だろう。

 もうそろそろ時間だ。

 天上に太陽が昇る。地球の感覚では真上から光が注ぐことで影が消えうせる。

「やはり、計算通りだ」

 書物に書かれている内容だと、なぜか光が伸びることになっている。現に伸びている。

 それぞれの影が少しずつずれてゆき、翼の広がる位置まで動くと、中央の柱の間に白い光の柱が降り立った。


「おい、イシクラ――消える前に」

「よし、ホトルス、急ぐぞ!」

「おう」


 二人は、光の柱が消えぬ内に飛び込もうと駆け出した。

「なあ、イシクラ」

 ホトルスが真っすぐ光の柱を視線に捉えたまま石倉に声をかける。

「もし、また違う世界に飛ばされたら――お互いを探し出しまた旅をしよう」

「そうならないことを祈らせてくれ」

 そうは言いつつ、石倉は失敗してもいいかなという思いが頭を掠めた。


 柱は狭く一人ずつしか通れそうにない。


「ホトルス、二人いっぺんには無理そうだ! 君が先に行ってくれ」

「イシクラ」

「なぁに、まだ時間はある。大丈夫だ!」

「わかった」

 ホトルスは光の柱にゆっくりと入ってゆく。


 ホトルスは柱に入った後、イシクラの方に振り返る。

「イシクラ、もし元の世界に戻れたら、俺は映像保存の魔法を各地に埋め込もうと思う」

「もしイシクラも元の世界に戻れたとしたら……それを探し出して欲しい。そして解読して欲しい」

「ああ、約束する」

「俺もやくそ……」

 声はあっという間に遠くへ放たれ、残存のみを耳に残した。


「さて、次は私の番だ」

 石倉は光の柱に体を入れ、ホトルスと同じように振り返った。

 ホトルスと歩んできた道なき道が見える。

 左右を見ると、二人で野営をした後が見える。

「さらばだホトルス!」

 石倉は光に包まれ、もの凄い速さで天に昇ってゆく。


「戻ってきたの……か?」

 そこは若いころからよく見た街並みだ。

 都会の濁った空気で星はあまり瞬いていない。

「今は?」

 店先に掛けてある時計から日付は飛ばされた日から見て一週間ほどたったあと、現在時刻は午前二時を指し示していた。

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