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異世界より戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~  作者: クワ
第四章

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天に連なる遺跡

 遺跡には星が瞬く時刻に到着した。



 天に連なる遺跡と聞いて来たものの、屋根などは存在せず、どの様に切り出したか分からないような巨大な岩が中央の円を囲むように等間隔に十個ほど配置されており、その円形の中央には翼を広げる大きな鳥を見上げる小さな人間たちが描かれ、その横にパルテノン宮殿にでもありそうな柱が二本鎮座していた。

「調べるのは、明日になりそうだな」

「ああ、取りあえずこの絵は何を指し示しているのだろう?」

 二人は中央の絵を見下ろしてああだこうだと意見をぶつけた。

「私が元々いた国では、八咫烏やたがらすという道案内する三本足のカラスの神話があった」

「俺の国でもホルスさまという隼のお姿そのものだったり、杖を持ち隼の顔を持つお姿をなさったりする神がいる。太陽と月、そして王自身を現す神だ」

(コイツ……ホトルスは古代エジプト人か?)

 エジプトの神々はヒッタイトとの争いやアレキサンダーの侵攻など紆余曲折あり、アレクサンダーの死後独立した部下のプトレマイオスが建てた王朝の最後の女王クレオパトラの死後ローマに制圧され勢力が衰え、最終的にはキリスト教の伝播により忘れ去られた。


「そうなるとホトルスはキリスト教伝播の前――遅くても紀元四世紀の人間なのか?」

 石倉はそう考えると少しばかり感動に心動かされた。一五〇〇年の時を超えて共に旅をしている、それだけでも誰もしたことの無い体験ではないか。

 当然、未来から過去は見れるが、過去から未来は見れない。ホトルスは石倉の話した神話には心当たりがあろうはずが無く、自然言葉は流された。

「しばらく滞在することになるかもしれない。テントを張ろう」

「ああ、そうだな、イシクラの言う通りだ」

 円形にそそり立つ大きな切り出しの岩の一つをを利用し、そこに二本のロープを巻き付ける。巻きつけた二本のロープを引っ張り青銅製の釘に巻きつけ、左右の地面にその釘を打ち付ける。最後に布を二本のロープに掛けて地面に着いた生地の上から石を乗せ固定する。

「よし、出来た」

「ああ、完成だ」

 石倉とホトルスはお互いを見やって笑いあった。


 簡易テントで一晩を過ごすと、日が明けたのを受けて二人這い出てきた。

「困ったことにこの辺りは水源が無い。どこかに水はないものか?」

 直近に水を補給した水源は二日前に旅立った場所にあった。

「よし、石の上に登ってみよう」

 石倉は魔法を使いするすると石の上に上がる。

 そこから周囲を見渡すと、湖のような場所が見える。


「ここから西に湖がある」

「本当か?」

 石倉の言葉にホトルスが明るく反応した。

「きれいな水か分からないが、行ってみようか」

「ああ」

 二人して西に向けしばらく歩くと湖が見えてきた。

「水の神ヌンに感謝を捧げます」

 ホトルスは湖に向かい祈りを捧げた。


 湖は、広さは十平方メートルほど、深さは膝下ほどで透明度は悪くなく、一番深い場所の湖底が見える位だった。

「飲めるのか?」

「イシクラ、小魚が泳いでいる」

「おお、これなら安全そうだ」

 リトマス紙があればよかったのだがと思う石倉に対しホトルスはざっばざっばと水に入り魚を取り始めた。


「おい、イシクラ、手伝ってくれ」

「まったく、魚に毒があったらどうするのだ?」

 ため息をつく石倉に無邪気にホトルスは川魚に毒を持っているのはいるのかと質問してきた。

「ウナギやらギギやらいるぞ」

「聞かない名前だな、コイツらはどうかな?」


 そう言って草で編んだカゴで魚を追い込み、すくっていく。

「色といい姿といい毒を持っているようには見えないが……」

「ならば焼けば大丈夫なのでは?」

 そう言いながらホトルスは十匹ほど魚を取ると湖を上がってきた。


 石倉は空の革袋に水を目一杯入れ、元来た道を戻る。

 テントに置いてある小さな鍋に水を移し火を起こし温め始める。

「沸騰させるのか?」

「念のためな」

「魚も焼こう」

「好きにしろ。火は逃げない」

「あはは、まったくだ」

 ただ石倉にとって気になった点がある。

 前に誰か来たのなら何かしら生活跡があってもいいはずだが、それがまったく見当たらない。

(本当にここから転移が出来るのだろうか)

 二人の持ち寄った資料はここを天に連なる遺跡として指し示していた。


 食事を終えた二人が下調べを開始した時には日は傾き影が長く伸びていた。

 ホトルスは影をじっと凝視し、呟く。

「もしかして、太陽光の角度が関係あるのか?」

「アブシンベル神殿みたいにか?」

 何気なく言った石倉の言葉にホトルスは勢いよく振り返り、今までに見せたことがない程激しく反応した。

「知っているのか?」

 それはまるで子供が都会にはいないはずのカブトムシを見つけたようなそんな驚きの表情を隠す事無く現し、衝撃と感動を石倉に伝えていた。

「ああ、テレビで見たことがある」

 何気なく石倉が言った言葉にホトルスが反応した。

「テレビ? 何だそれは、一体何なのだ?」

 当然紀元前、後の境にテレビがあるわけなくホトルスが疑問を口にした。ホトルスにとって何かしら自分に関わる鍵かもしれないと追及に力が入る。


「テレビというのは映像を電波に乗せて送るシステムの受ける側の再生専用の装置の事だ。送り出しはテレビ局という国から認可された組織が立てた建物から出している」

「よくわからんが、魔法の映像保存みたいなものか」

「まあ、似てなくもない、が、あれはビデオデッキに近い」

 魔法の映像保存はごく短い距離しか飛ばせず、遠くまで届けたいときはそれを一旦録画し、その録画した紙なり石板なりを相手に物理的な形で届ける必要があった。

「ビデオデッキ? またよくわからない装置の名前が」

 ホトルスは混乱して頭を抱えた。


 無理もないと石倉は苦笑いし、魔法を使い頭の奥底に残っている記憶を映像として吸いだした。

「私の記憶を映像にして魔力で出すが、あくまで私が十歳前後の記憶だ、脳内で変な風に修正されているやもしれず欠損しているかもしれない事は承知して欲しい」

「ああ、わかった」

「では、出すぞ」

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