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異世界より戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~  作者: クワ
第四章

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石倉の過去~古代エジプト人ホトルスとの出会い~

 今から二十年ほど前。

 石倉がかつて現代日本に戻ろうとあがいていたある旅の途中。


「ここの峠を越えれば天に連なる遺跡まで……」

 ガラガラガラ

「うわっーーーー」

 ドボーン

 石倉は足を踏み外し下まで滑り落ちた。下には川が流れており、そのおかげでローブがずぶ濡れになりながらもどうにか一命をとりとめた。


「下が川で助かったか」

 岩肌なら間違いなく衝撃で今より酷いことになっていただろう。

 足に力をこめ立ち上がろうとした。

「クッ」

 どうやら足を挫いたようで激痛が走る。


「おい、大丈夫か?」

 通りすがりの変わった衣装の男が石倉の落下に気付き、落ちた先に寄ってきた。

 男は十代後半から二十代前半くらいの若者で細いながらも筋肉質、褐色の肌を持っており、頭には獣の皮が付いた帽子を被り白というには薄汚れた服に、同じく白い帯を無造作に巻きつけていた。

「大丈夫か?」

「足を挫いたみたいだ」

「そうか、見せてみろ」

 男は紫に変色した石倉の足に手を当てると呪文を唱え始める。

「俺は故郷で神官をやっていたからこういうことが出来るんだ」


「私は石倉って言うんだが君は何て言うんだ?」

「あ、俺か? ホトルスって呼んでくれ」

 ホトルスと名乗った男は、魔法で石倉を治療して挫いた足を元に戻した。

「凄いな、助かったよ」

 回復呪文の効果は石倉のそれより数段階上の威力があった。

 

 どうにか歩けるまでに回復した足を使い立ち上がる。

「これからどこに行くんだい? 峠の先だったら一緒に行くかい」

 ホトルスの言葉に石倉は喜び「俺も峠を越えようとして足を滑らせたんだ、同行してくれると助かる」と伝えた。

「よし、一緒に行こう」



 数日旅をしたある道すがら



「魔物だ」

 ホトルスがヤリを構える。

「任せてくれ、あの程度――」

 石倉が炎の魔法を唱えると魔物の集団を焼き尽くし、外れにいた二体ほどが地面に転げ火を消そうとしている以外一瞬で焼死した。

「な、なんという……」

 ホトルスは絶句し石倉を振り返った。

「あの二体は交戦する気は無いだろうから捨ておこう」

 石倉がそう話すとホトルスも同意し二人連れだって歩き出した。


「イシクラ、お前は何のために旅をしているのだ? お前ほどの能力があればどこかの国の賢者なり諸侯なりになれるはずだ」

 ホトルスの言葉に石倉はかぶりを振る。

「私の知っている言葉に『飛鳥尽ひちょうつきて良弓蔵りょうきゅうかくれ、狡兎死こうとしして走狗煮そうくにらる』という言葉がある。また『人は艱難かんなんをともに出来ても、富貴ふうきを共にはできない』という言葉もある」

「イシクラ、それはいったいどういう意味なのだ?」

 興味深げにホトルスは問うてきた。

「最初の言葉は、空飛ぶ鳥がいなくなったら弓矢はしまわれて、ずる賢い兎を取りつくしたら速く走る犬は煮られてしまうという意味だ。要は国を発展させるために重要視した家臣でも必要なくなると始末されるというたとえ話だ」

「次の言葉は人間は困難な事は一緒に対処できても、それが終わり利益を分配する段階になると揉めるという話だな」


「ほう」

 ホトルスは感嘆し声をあげた。

「イシクラは始末されることを恐れているんだな」

「まあ、そうだな、歴史上天下を取った後、能力のある功臣が讒言ざんげんなどを受けて王や皇帝などから始末される話は古今東西関わらず非常に多い」

「寂しい話だな」

「そういうものだ、人の欲には際限がないのと同時に恐怖心にも際限がない。人を蹴落とし不幸にしても己が出世したい、物理的に豊かになりたい、権力を得たいというのは欲だ。また得た地位や財産、権力が奪われるかも知れないと考えるのは恐怖心だ。それは人間が生きている以上大なり小なり持っている物で決して無くならない」

 石倉は言葉を吐き出すと遠くに視線を投げる。

(人とは利口すぎると生きにくくなるものだな)

 ホトルスは密かに石倉を憐れんだ。

「私の性格はクセが強く人と強調できるものではないようだ。お互い不幸になる位なら自由に生きた方がいい」

(この言い方から見て、恐らく何かしらもめ事に巻き込まれたのだろうな)

 争わずに身を引く決断をしている事から根は優しい男なのかもしれないとも思った。


 それからまた数日後


「ところでイシクラはなぜこの先に進むのだ? 峠の先には大きな町は無いが……」

 ホトルスが質問を投げる。

(地の果てに高位な魔法使いが何の用なのかと思ったのだろうな)

 石倉は納得しつつ本意を話すのを躊躇した。恐らくこの世界と違う世界から来て、元の世界に帰りたいと言っても狂人扱いされるだけだろう。


「何故、それが聞きたいのだ?」

「それは……」

 石倉の返しにホトルスの言葉が詰まる。ホトルスの目が左右に泳ぎ言葉を発しようかと迷っている姿がありありと写る。

「なあ、ホトルス、ここの世界以外の世界ってあるって言うとお前は信じるか?」

 そんなホトルスに対し石倉は疑問形で牽制球を投げた。

 それを受けたホトルスは石倉を真っすぐに見つめて口を開く。

「そのために峠を越えた先にある天に連なる遺跡に行くのだ。色々試してみた――でもダメだった――そんな時に読んだ古い書物――またダメかもしれない――藁をもつかむ思いで向かうのだ。可能性がある限り」

 そう言って力強く視線を前方に向ける。

「ホトルス、私もそうだ」

「やはり、そうか」

 仲間を見つけて余程嬉しかったのだろう、ホトルスの顔が緩んだ。


 それからしばらく歩いて


「イシクラ、足を見せてくれ」

 二人歩き疲れて岩に腰かけている時に、不意にホトルスが言う。

「疲れてないか?」

 ホトルスはフッと笑い石倉の足を確認すると回復魔法をかけた。

「やはり歩きずくめだったせいで回復は遅れているな。でももう大丈夫だろう」

 石倉はホトルスには話してないが実は自分でも回復呪文を使っており、紫の痣はすでに無く触っても痛さを感じないほどにはなっていたのだが、念のためにかけたのだろうか? それとも石倉には見えない気付かないダメージが残っていたのだろうか。

 ホトルスは石に座りなおし、他愛のない話に明け暮れた。


 その日の夜


「イシクラ、私が読んだ本には抜けなのかそれとも複数の本に分けて書かれているのか真相はわからないが、不明な部分があったのだ。もしそちらが何で知ったのか分からないが知った時の情報が欲しい」

 荒野の茶色い大地に薪を置き、火を起こしている石倉に向かいに座るホトルスは話しかけてきた。周囲には人影どころか生き物の気配すらなく時間が止まったかのような静けさに包まれ、辛うじて地平線に半分吸い込まれた太陽が伸ばした影が時の刻みを教えてくれていた。

「ああ、火が安定するまで待っていてくれ。終わったら出す」

「イシクラ、ありがとう」

 魔法で点火し、その種火を育て終わると火をホトルスに任せ、傍らにあるカバンを引き寄せ中身を出した。

 複写魔法で写し取った分厚い紙の束を渡す。

「それは返さなくていい。私の頭の中に入っている。よかったらホトルスの持っている書物も見せて欲しい」

「残念ながら本は借り受けただけで持ち合わせてはいないのだが……」

 申し訳なさそうに話すと、紙の束を手渡された。

「すまない、しばらく借りるぞ」

 その言葉を最後にお互い渡された紙に目を這わせ、夕食を取るのも忘れ、時の流れるままに読みふけっていた。

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