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異世界より戻りし男の苦悩~むこうでは手練れの傭兵でした~  作者: クワ
第四章

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魔力の痕跡を探して……

 手始めにギザのピラミッド群を回る。

「ここにもあるね。魔力の反応」

 スフィンクスから漂っている。

 サニアの言葉をかわ切りに魔力を感じる場所の写真を撮り続ける。

「どうやら内部には反応はないみたい」

 クフ王の物やカフラー王の物もそうだった。

「きっとさ、昔は入れなかったんだよ」

 サニアちょいとばかり利口そうな面持ちで披露する。

「案外そうかもな」


 王家の谷は薄いながらもそこら中から魔力の反応がある。

神聖文字ヒエログリフに反応がある」

 信長はその絵を写真にスマートフォンで撮ってゆく。

「この反応じゃないな」

 石倉はブツクサ小言をいいながら写真を撮っていた。


「昔の王様は自分のお墓をお金とって公開されているのをどう思っているのかな?」

「死んでんだ。考えられねえんじゃないのか」

 ソニアの何気ない疑問に信長は現実的な答えを返した。

「ま、そうだよね」

「でもな、エジプトの王(ファラオ)たちは死後の復活の時を信じて自身をミイラにしたんだぞ」

「そうなの……そう考えると微妙かも」

 そこへ石倉が微笑みながら生まれ変わりの話をするとソニアは寂しそうな表情を見せる。

「だが、無料にするとバックパッカーが宿代わりにしたり、地元住民でも心無い奴らが絵を剥がして売ったりするかもしれないぜ」

「まあ、それはあるな。修繕の維持費もタダではないだろうし」

 石倉は聞いているのかいないのか分からないような返事を信長に返して、出口に向けて歩き出した。


 王墓の前には強い反応が存在していた。

「これだな」

 石倉は写真に収める。

「前にサニア君の言った通り身分的に出入りができなかったんだろうな」

 石倉の同意にサニアは満足げに胸を張りグルグルと飛び回った。


 日を跨ぎルクソールまで足を延ばす。


 葬祭殿


 ここの様々なレリーフからも魔力の反応を感じ取れた。

「やはり、アイツは神官だったんだな。ここが一番反応が多い」

「アイツ?」

 サニアが石倉の顔を覗き込み尋ねた。

「フッ、何でもないさ」

 石倉はそう言って視線を逸らした。

「写真を撮るか」

 石倉は二人にかまうことなく孤独に写真を撮影していた。


 テーベやカルナック神殿、イシス神殿など巡ったが、石倉にとって欲しい魔力反応は見つからなかったようだ。


 アブシンベル神殿


 滞在残り数日となったところで訪れた。


「ここには絶対あるはずだ。アイツなら覚えているはず」

 石倉は小さくそして力強く呟く。

 ラムセス像の脇を潜り抜け神殿の奥に入る。

「もしかして光が入る日でないといけないのか? いやそうだとしても若干は魔力の痕跡が残っているはず」

「そうすると、まさか……アスワンハイダムの下なのか?」

 石倉が絶望に近い表情を浮かべる。

「ダムの下?」

「ああ、信長君、アブシンベル神殿はダムに沈むからと移動しているんだ」

「うわ、どうしたら」

 サニアが頭を抱えるも、何か気付いたらしく顔を上げた。

「石倉さん、神殿が元の位置にある時の写真ってないのかな? ほら、昔の図鑑とか、観光案内とか、歴史紹介の本とかそうい……」

「それだ! サニア君、君はいいことを言った」

 石倉は興奮して大声で叫んだ。

 その声にびっくりして周りの観光客の視線が集まる。

「ちょっと石倉さん。サニアの事、まわりの人たちには見えないんですよ。それにアンタ、今、中年のおっさんなんですよ……そんな大声で騒ぐと……」

 信長の言葉に石倉は我に返り頭を掻く。


「じゃあ、信長君、後は頼んだ」

 そう言ってそそくさと日本への転移を行い行ってしまった。

「ほんっとに我がままだな! 俺はパスポートの事もあるから飛行機で帰るしかないのか」

 信長の頭の中には帰りの印がない国際キセルというワードが頭を横切った。


 カイロから成田まで特に問題なく帰っては来れた。飛行機の中ではサニアが見えないのをいいことに探索と称してそこらじゅうを飛び回っていた。


 ダムに沈む神殿を移動したのは一九六四年、それ以前の資料で魔力を感じ取れる物。

 石倉たちは近場の図書館を虱潰しに当たっていた。

「えーっと巻末の発行年月日は……一九九二年――ダメだ」

「なあ、石倉さん、そこまでしてやらないとダメなものなのか?」

 さすがの信長も毎日のエジプト図鑑巡りにウンザリしていた。そもそもこういう作業は得意ではなかった。


「ああ、嫌なら手伝わなくていい。これは――私の問題だから」

 視線と本から離さずに呟く。

「なんかこの様子だと図書館には古い物が無いんじゃねぇのか」

「確かに一冊も見当たらないな」

 石倉は本棚に目を向け打開策の思案を始めた。


 東京都千代田区神田神保町


「かつて私が大学に在籍していた頃は本を扱っている店の数はこんなものではなかったのだが……」

 石倉は遠い目でそう呟く。視線の先は遥か昔――石倉自身が二十歳のころを映し出しているのだろう。

 デジタル化の波によりかなりの数の書店がセピア色の額縁の中に追いやられ、かつてある小説家の先生が日露戦争を書くためにトラック一台分の書籍を買いあさった――その威容は失われて久しかった。

 駅から明治大学を右に見て坂を下りてゆくと楽器屋が見えて来る。

「昔はここに至る前にも本屋があった物だが」

 信号を渡り古本屋街に着くと石倉が「ここからは二手に分かれよう。私は三省堂裏手のすずらん通りを探す、君とサニア君は靖国通り沿いの書店を当たってくれないか。 何かあったらお互い電話しよう」と言うとさっさと歩いて行ってしまった。


「相変わらず自分勝手ね」

 サニアは不快な感情を隠さずに不満を口にする。

(サニアの気持ちは確かにわかる。俺もそう思う。ただ……)

 信長は石倉の背中を見る。

(今までとは違う。自分の失われた身体を見つけた時の反応とも違う。これまで見せたことの無い、そう……)


 サニアと信長は一軒一軒入ってはエジプト関係の書籍を探す。

「これは……写真が無いな」

「こっちは、発行が一九七八年……かぁ」


 何件庇を潜ったか覚えてない。ただ時刻のみが過ぎ去り、日が傾き始めるころ、その店に入っていった。

 そのころにはサニアも信長もどちらが言うまでもなく左右に別れ探すようになっていた。

「……」

 信長が上から順に視線を下げて確認している時だった。


「ノブ!」

 サニアの興奮した声に振り返った。

 その指し示す小さな指の先には床に平積みの書籍群がある。

 信長が導かれるようにその前に歩み寄ると、膝を曲げ書籍の表題を確認する。

「エジプトの歴史」

 信長は古ぼけた本を手に取るとぺらぺらとめくり出す。

 書籍は学術書というよりは高校生くらいを対象にした歴史入門的な書籍で、厚さはそこまでではないのだが、説明と共に写真や絵がふんだんに使われており、特にPP加工されたつるつるの紙のために写真の細かい部分を確認しやすかった。


(発行年月日、一九六一年!)

 信長は珍しく興奮しているのが自分でもわかった。

(アブシンベル、アブシンベルっと)

 滑る感覚を指先に感じながらめくってゆくと神殿の写真が載っている。

 ラムセス像が四体ある入り口の写真、そして……。

(やっと見つけた!)

 アブシンベル神殿、年二回の太陽光が差し込んでいるフルカラー写真。


 書籍をそのまま手に収め、会計を済ますと店を出た。

「石倉さん、とうとう見つけたぜ」

 信長が電話をすると、石倉はすぐに信長の元へ駆けつける。

 彼自身もしっかりと探していたのは、手元に三冊ほどの書籍を持ち合わせていた事からも分かった。


 その書物を持ち帰り、机の上に並べた。

 石倉が買ってきた三冊は学術書で、写真が荒く魔力反応が出ているか判別が難しかった。

 信長が買ってきた歴史の書物。

「出てるぞ! 魔力反応が――わずかながらも出ているぞ」

 石倉はそのページ、神殿の太陽光の注いでいる――そのページを写真に収め、本をゆっくりと閉じた。

「フフッ、そういえば、あの時も似たようなことあったな」

 石倉は泣いていた。涙を拭くことなしに流し続けていた。


 石倉は涙声のまま、写真に収められた――各地を巡り収集した魔法映像群の再現を始める。

 それらの映像が徐々に目覚め、彩色が千年以上ぶりに乗せられると、信長の小さな家がミニシアターを思わせるように変わっていった。

 映像を再生すると、聞いたことも無いような楽器が軽快な音楽を奏でる。その音楽に合わせ一人の中年の男が、ダイジェストなのだろうか――話したり、食べたりしている映像が流れた。

「あれ、この音楽? どこかで聞いたことがあるような……」

 信長が不思議そうな顔をしていると、隣の石倉が小さく呟いた。

「今まで気づかなくて済まないホトルス、約束を守っていたんだな」

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