エピローグ 再び異世界へ
会社を辞めてから石倉とサニア、そしてシロワカみなで協力してゲートの開き方を突き止めることに成功した。
石倉は「なんだ、こんな簡単なことが抜けていただけで失敗したのか」と余裕をもって笑っていた。
旅立ちのゲートを開かせるのに月と太陽の関係から残り一週間と迫り、一日一日と過ぎて行く。
すでに部屋の解約、水道や電気、ガスなどの停止の手配は終わり、最後の日が来るのを待つのみとなっていた。
「これでこの国ともお別れね。思い出になることやっとかないと」
「そうだな、俺もなにかしようかなって――その前に荷物の整理だ!」
次の日
「信長君、サニア君、最後の魔法の講義だ」
「ふふ」
「そっか、明日だもんね」
ドン
石倉が机の上にホチキス止めの本を数冊置いた。
「これを持っていくといい。時間がある時にまとめたものだ」
「ありがとう」
「今までに渡したものも忘れるなよ」
「ああ、ちゃんと持っていく」
当日早朝
目の前からは、やわらかい波の音が聞こえてくる。
まだ空には名残惜しそうに星が瞬いて、まるで別れを惜しんでいるかのようであった。
太陽はまだ上っておらず、すこしばかり肌寒い。
「私にやらせてよ」
サニアが呪文を唱えるとゲートが出てきたのだがすぐに閉まってしまった。
「失敗かぁ」
落ち込むサニアに石倉が力強く語り掛けた。
「失敗、いいじゃないか! 犯罪でない限りチャレンジすることは大切だろ」
「ビルゲイツやスティーブ・ジョブズ、ザッカーバーグ、イーロンマスク……彼らの陰には彼らになり切れなかった人間がごまんといる」
「そのなり切れなかった、失敗した人間を笑うのかい?」
「ゲイツやジョブスがその失敗を見て軌道修正していたかもしれないんだぜ」
「慰めてくれてありがとう」
石倉はサニアの言葉に笑って返し自ら魔法を始動し始めながら言葉を繋ぐ。
「成功者は失敗者の夢、野心、思いを背中に受けて走り続けるもんさ」
虹色のゲートが二つ開くもまだ向こう側が見えない。
「月と太陽が交わる……明け方に日が昇り月が沈む前に時にトビラが開く」
「興奮してきた」
「ちょっとトイレ行ってくる」
「水の魔法ちゃんとしてね」
信長が戻って来ると石倉はおもむろに口を開いた。
「お前ら異世界へ行くのにそのままでいいのか?」
石倉の問いに信長は意味が分からず聞き返した。
「だってお前ら好きなんだろ、相手の事」
「あ、いや、そんなことは……」
「ちょ、ちょっとなにいってんのよ~」
「バレバレだにゃ」
いち早く上った太陽のように真っ赤になった二人を見て、石倉は笑いながら俺に任せとけと言うと長い長い詠唱を始めた。
「え、なにが起こったの?」
「サニア、大丈夫か!」
サニアの体に異変が起こったかと思うと、みるみるうちに体が大きくなり大人の女性ほどの背丈まで成長した。
「――サニア、お前」
「ノブ、大きくなったよ」
二人強く抱擁し唇を合わせた。
「これが俺のかけた最後の魔法になるのかな」
砂浜に静かに腰かける石倉に対し、信長とサニアは弾ける声で感謝を伝える。
「石倉さん、ありがとう」
「ありがとう」
「よかったな」
「ところで、石倉さんは私みたいな妖精を大きくする魔法を覚えたの?」
「色々あるんだよ……」
「色々?」
「そう色々……俺もあの時……いや何でもない」
地平線が暖かな色に染まり始めるとゲートが今まで以上に光り出した。
「さてと、そろそろお別れだ」
「君たちは左、俺は右。別々の道をあゆむとしよう」
微笑みながら石倉が振り返ると、信長とサニアは深く頭を下げた。
「石倉さん、今までありがとう最後の最後まで世話になった」
「フッ俺こそ色々気付いた点があった。お礼を言いたいのはこっちだ」
石倉はポツリと一言加えた。
「体も取り返せたしな」
サニアはシロワカに視線を合わせる。
「シロワカはどうする? どっちかと一緒に行く?」
その問いに首を振りシロワカは答えた。
「神棚を作って祭ってくれたらその世界にいけるにゃ。石倉にゃん、佐藤にゃん、サニアにゃん頼むにゃ」
「わかった、契約だしな」
「向こうでもちゃんと用意するよ」
「部屋のヤツ持ってきたから大丈夫」
「約束だにゃ」
三人シロワカに別れの挨拶をし、はち切れんばかりに手を振る。
「シロワカありがとう」
「また、会おう」
「達者でにゃ~」
信長とサニア、石倉とお互い見合わせて別れの挨拶をして手を振った。
「石倉さん、元気でね」
「アンタの教え忘れねぇよ」
「お前らも仲良く円満でな」
信長とサニアは顔を見合わせ赤面する。
「ハハ、さらば!」
石倉は右の光に吸い込まれていった。
「サニア、俺たちも行くか!」
「うん、ノブ、これからもよろしくね!」
左の光に二人が入ると、左右のゲートがゆっくりと消えていった。




