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具現化したのは遥か昔の化け猫様?

 仕事もそうそうに借りた本を自宅に置くため駅まで戻ってきた。

 カバンには数冊分の重量がかかっており、持ち歩くのも一苦労だ。

「とりあえず百均に寄るか」

 店内は女性芸人グループとボーカロイドの録音が交互にかかっている。

 猫の置物を探すも見つけることは叶わず、店を出る。

「家から近い別の百均へ行くか」

 電車に飛び乗り家の近くの駅で降りると、改札を抜け店に入った。

「何だか、賽銭箱とか鳥居とかいろいろあるな、それとウェットティッシュだ」

 それらを一通り購入し、帰路に着いたところ何かを忘れているような気になった。

(何を忘れているんだろう)

 しばらく自宅方向に足を進めていたが、ハッと思い出し立ち止まった。

「猫の置物買ってねぇや」

 再び駅の方へ戻る途中にリサイクルショップがあるのが目に留まる。

「こんな店あったっけ?」

 数秒考えるも「とりあえず入っとけ」と思い店にお邪魔した。

 何か適当なものあるかなと周囲を見回すと、棚に白い猫の置物があるのが目に入った。

「お、いい感じだな」

 ちょっぴり古風な可愛らしい陶器の置物を手に取るとレジへ向かう。

「ありがとうございました」

 猫の置物が入った袋をぶら下げ家まで帰った。

「おかえり、どうしたの?」

 サニアが不思議そうな声色で聞いて来た。

「図書館で猫の神様なのか化け猫なのかに会って頼まれごとをされた」

「頼まれごと?」

「そう、胡散臭そうな声を出すなって、本当なんだから」

「えー信じられないじゃん」

 サニアの言う事もわかる、自分でも信じられない。

 ガサガサ

「何買ってきたの?」

「色々だな」

 ウェットティッシュを取り出すと棚の上を拭いて、百均で買ってきた鳥居と賽銭箱、石灯籠などを置くと、安いとはいえかなり見栄えが良くなり小さな境内のような様相となった。

「ふぅーん、この国の物はよくわかんないや」

 興味を失ったサニアは隣の部屋のテーブルまで飛んで行き再びタブレットに目を落とす。

「さてっと」

 猫の置物を取り出すと、ウェットティッシュを数枚抜き取り丁寧に汚れを取ってゆく。

「うわっ真っ黒だ」

 ウェットティッシュはすぐに汚れで色が変わり、二枚三枚と変えては拭いてゆく。

「足りないか」

 再びウェットティッシュを数枚抜き取ると、置物を掃除する。

「これくらいでいいかな」

 二度三度繰り返し、汚れが付かなくなったところでタオルを取り出しウェットティッシュの水分を拭きとる。

「よし、これで大丈夫」

 カバンから借りてきた本を取り出しパラパラとページをめくる。

「どこに入れたっけな」

 しばらくめくると符が挟まったページを探り当て、ページより符を取り出す。

「これでいいのか?」

 棚の上に符を置いて、その上に猫の置物を乗せるも何も変化が見られない。

「まあ、そんなもんだよな」

 ひと段落着くと、仕事途中だったことを急に思い出して、カバンを掴むと再び出かける準備を整えた。

「サニア、また会社行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 パリパリとせんべいを食べている音が聞こえる。

 信長はその一つをひょいと掴み、口に放り込んだ。

「あっ勝手に食べないでよ」

 サニアの苦情を聞き流しながら靴を素早く履いて玄関を出ると、まだまだ日が陰るには早い時間ながらランドセルの子供たちを見かけるほどには時が進んでいた。

「急いで会社に戻らないとな」

 相変わらず会社で嫌味を吐かれつつ仕事を終えるころには、どっぷりと日は落ちて街灯のLEDが眩しく辺りを照らしていた。

「今日は疲れたから飯でも買っていくか」

 他の帰宅客と一緒に駅前のスーパーに流れ込むと、弁当コーナーへ向かう。

 そこは相変わらず値引き後の弁当争奪戦となっており、今買うかそれとももう一段階安くなるまで待つか、でも他の客に買われては元も子もないという葛藤に悩まされている老若男女が溢れていた。

 しかし信長はその群れに臆することなく幕の内弁当と焼肉弁当をカゴに入れる。

「チェッ」

 恨めしそうな視線を振り払いレジへ向かった。

(ついでに菓子も買っていくか。 昼間のせんべいの事もあるし)

 お菓子コーナーで数点カゴに放り込むと買い物を済ませて家路を急いだ。

「たたいま」

 バタン・バタン

 何か部屋の中が騒がしい。

(賊か?)

 音を立てずに靴を脱ぎ、買い物袋とカバンを降ろすと、忍び足でリビングまで進む。

「‼」

 怯え切ったサニアが信長に気が付くと、声にならない声を上げて一目散に飛んできた。

(マズいな、敵にこちらの事がバレたかも)

 人差し指を立てて『シー』と声に出さないポーズを取った後、一人奥まで歩み始める。

 コトコト

 何かが揺れる音がする。

(大した人数では無いな、こちらの賊など物の数ではない)

 ワンドに手を伸ばし音もなく引き抜くと壁に背を付け辺りを伺う。

 部屋のつくりは玄関からすぐ台所兼リビングになっており、左手の部屋が寝室となっている。

 音はどうやら寝室の奥から聞こえてくる。

(せーの行くぞ)

 タイミングを見計らって飛び出るも、部屋の奥には誰もおらず肩透かしに終わった。

(いや、押し入れがある)

 押し入れの横に体を置き、引手にゆっくりと手を伸ばして指を三本程引掛けると、そのまま勢いよく引く。

 シャーーーー

 開け放たれた押し入れに体を捻らせてワンドをおっ立てながら正面に躍り出る。

(何もいない)

 カタカタ

 拍子抜けした信長の横で何かが音を立て動いた。

「‼‼」

 とっさに音の元へ顔を向けると、昼間に置いた猫の置物周辺で音が出ているようだった。

「まさか!」

 警戒しながら歩み寄ると、猫の置物へ手を伸ばす。

「ありがとニャ」

 頭の中に直接話してきたのかそれとも置物が言葉を発したのか、昼間の化け猫の声が聞こえてきた。

 声に驚きとっさに手を引っ込めると数歩後ずさりして壁に背を付け様子を伺った。

「ねえぇぇ~あの猫の像の所、何か気配がしないぃぃ」

 いつのまにかサニアは隣におり、怯えた手で猫の置物を指さす。

 信長の手には、サニアの震えが伝わってきて、ゆっくりと背中を撫でて落ち着かせようと務めた。

「うーーー」

 二人ビクリと声の先に目を動かすと、部屋の隅には白猫が体を気持ちよさそうに伸ばしていた。

「やっぱり尾っぽが二本ある」

 昼間のヤツだろうか、尻尾を二本ふにゅふにゅと動かしながら二人を見上げてきた。

「やっと出れたニャン」

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