なぜ上級魔導士はそれ以下の魔導士に比べ詠唱が短いのか
今日も相も変わらず猛講義。
「……サニア、君も妖精なら少しは魔法を使用できるようになった方がいい」
「妖精はカンケ―ないでしょ、私は苦手なの」
石倉の言葉に強く反論したサニアは机を強く叩き部屋を出て行ってしまった。
「ふぅ」
疲れたため息をつくも、相手がいなくなってはどうしようもない。
「しばらく一人にしておいた方がいい。 アイツもすぐに理解するから」
「……そうだな」
石倉は信長の話を受け講義を再開する。
「炎の魔法はこう、今は大体千度くらいだ」
傘をかざすと、すぐに骨組みだけになりその骨組みも真っ赤に熱せられていかにも熱そうだ。
「なあ、なんで石倉さんはそんなに詠唱が短いんだい」
信長が以前から気になっていたことを質問としてぶつけた。
かつて信長が居た世界でも、高レベルの魔法を使用する者は信長が使うレベルの魔法を使用するときに詠唱時間が自分よりも短かったのだが、それを聞いてもはぐらかされ答えてもらえなかった事があった。
「ああ、そうだな……」
石倉はサニアが出て行った先の部屋を見た。
サニアはテレビを見ているようで、声が漏れ響いていた。
「あのテレビ番組に例えると……」
席を立ちテレビが見える位置まで移動する。
テレビには東京ローカル局が写っていた。
「あの竹子スペシャルという芸能人がいるだろう」
「ああ、写ってるね」
そこには中性的な性別を立ち位置とする恰幅のいい芸能人が写っていた。
「彼? 彼女? まあいい、君なら会いたいとしたらどの様な方法を使う?」
「そうだなぁ……直接訪ねても追い返されるだろうし……マネージャーとかに許可もらいに行くかなぁ」
「でも、マネージャーは得体のしれない君と竹子を会わせるかな」
「確かに……ならマネージャーの知り合いからマネージャーを紹介してもらう所からかな」
石倉はうんうんと頷くと笑みを浮かべ口を開いた。
「それが、答えだよ」
「?」
イマイチ理解の届かない信長に対して石倉は言葉で畳みかけてきた。
「わからないのかい? 強い魔法を唱えるには強い魔力を引き出すことが必要だろ? 当然上位の神や天使などの力を借りる必要がある」
「そこで先ほどの竹子の答えだ。 君の言った通りマネージャーの知り合い、マネージャーと順々に許可を得てゆく必要があるだろ」
「ああ」
「それで、詠唱が長くなる。 上位の存在に許可を得るために、下から順番に許可を得ていく必要があるからだな」
「あのとなりに座っている女性ならどうだい? 竹子に会えると思うかい」
再びテレビに目をやると株林というデイトレーダーの女性がイスをクルクルと回転させて座っていた。
「まあ、知り合いみたいだし、メール一本でいいんじゃ……今テレビで会ってるみたいだけど……」
「……ウオッホン、それはともかく……」
(誤魔化したな)
「一流の魔導士や賢者、僧侶などは上位の神などと直接繋がれるから下から許可を得てゆく必要が無い! それが詠唱の短い理由だ」
「おお、そうか」
信長は合点が行き深くうなずいた。
「あと、詠唱の下位の神などだが、ルートに決まりが無いが、仲が良い方が当然許可が得やすいので、その点でも以前言ったように神話や過去の事例などを覚える必要があることを付け加えておく」
「それは、先ほどの例によるとマネージャーではなくてもいいってことか?」
「ああそうだ、例えば竹子の家族、芸能人仲間、テレビなどのプロデューサー、学生時代の友達、ライター時代の知り合いなどいくらでもルートはある」
「よくわかった、助かったよ」
「そうだ、そこに書いた丸暗記が良くないっていうのも必要のない許可や省略できるが念の為につけ加えているコードなど無駄があるからだな」
「必要のない許可って何?」
「上位と知り合いなら下位の許可は必要ないだろ」
「まあ……そうだな」
「納得できたか?」
「あと、もう一点」
「ん、なんだ」
「依然聞いたバフ・デバフの事だが、短い発動時間でその分威力を上げるのはダメなのか?」
「ダメというか……」
しばらく石倉は天上に目をやり、考えがまとまると信長に視線を戻した。
「君が初めての敵、しかも一定の技量があると思われる剣士でも侍でも騎士でもいい、お互いに武器を構えた……想像してみてくれ」
「ああ」
石倉は信長が想像していると見定めると、言葉を続けた。
「当然、相手の手の内が分からない、すぐに踏み込んで攻撃を仕掛けるか」
「いや、仕掛けないな。 まずは牽制を繰り返し相手のクセなどを知ろうとする」
「そうだな、利き腕、武器の性質、得意な技、好きな間合い、戦士タイプでも気にする所はそれだけある、他に弓や銃、魔導士などいたとしたら隙を見つけるのも一苦労だ」
「ああ、間違いない」
「で、五分十分のバフなどこちらが踏み込んだ攻撃を仕掛ける前に切れるだろう。 その度に神や精霊などにお伺いを立ててばかりいると、何度も何度もいい加減にしろと力を貸してくれなくなるぞ」
「まあ、俺がその立場ならお願いを無視するだろうな」
「そうゆうことだ」
石倉はペットボトルの中身を飲み干すと、それを机に置いて、言葉を続けた。
「人間ですら違いがある。 当然ゴブリンやらドラゴンやら精霊、悪魔、天使みなそれぞれ性格も違うし、話し方、戦い方などもそれぞれ違う」
「当然だな」
「ならば、牽制の時間の事も考え今の君のような時間単位で使用するならともかく極端に短くしない方がいい、すぐ決着がつく位ならバフなどを使わなくても勝てるだろう」
「OKありがとう」
「あと言い忘れたが、魔法を使用している内に結構向こうもこっちを覚えてくれたりしていることがある」
「それは、具体的に数値などでわかるの?」
「そんなわけないだろう。 君だって自分の周りの人間関係数値で見れないだろ」
そう言って石倉は会話を打ち切った。
(感覚で理解しろってことか)
それからしばらくやりとりを続けていると、隣の部屋からサニアがふわふわとこちらに飛んできた。
「……」
テーブルの端に腰を下ろすと話をしている二人に申し訳なさげに視線を送った。
「サニアどうした」
信長の声掛けにサニアは気まずそうな笑みを浮かべて謝ってきた。
「君は彼、信長君のパートナーだろ?」
石倉の問いに頷く。
「君がサポート出来るとなると信長君の負担はそれだけ減る」
「……わかってる」
「なら、苦手でも出来る範囲で努力するのは悪いことではないと思うが……どうかな?」
「……わかった、やってみる」
「うん、それがいい」
なんだかんだで石倉に説得されサニアは魔法を練習することになった。
それから暫くは練習などをしてお開きとなった。