雪に残る足跡は2人分
私は窓から空を見上げていた。そこから出て行ってしまったユウへ想いを馳せながら。
ユウとの出会いは、悪魔になる彼の前だったら孤児院が最初だった。半魔の彼は母親に捨てられ孤児院でも汚い物を扱う様な扱いを受けていた。私はそれを当たり前と最初は考えていた。しかし、私が小学校に上がった際に孤児という理由でいじめを受けた際にその間違いに気づいた。いや、仲間が欲しかったのかもしれない。今となってはもう分からないが私は図々しく彼に友達になろうと近づいた。
彼はとても優しくそんな私を受け入れてくれた。それからは色々な話をした。孤児院を出た後の話、大切な物の話。
そこまで考えを巡らせると右の人差し指に痛みが走る。そこには何も無い、いや何も無くなってしまった。母親からもらった肩身の指輪。ダイヤを中心に金で作られた花で囲われている意匠を持つあの指輪は、ユウが行方不明になった日にいつの間にか失くしてしまった。当時は大慌てで探した。今となってはあれは天罰だったと考える。ユウが行方不明になった理由は私が彼に聞いた母親との思い出がきっかけだった。私は捨てられたのではなく両親がどっちも死に天涯孤独となってしまったために孤児院に入ったが、ユウは母親に捨てられた事をすっかり忘れた私が悪かったのだ。
そして、ユウを探すために悪魔を殺すエクソシストになった。半魔のユウを探すには早いが敵対関係だという事は小さかった私には考えが回らなかったがこの選択は合っていた。記憶を失い、面影を少ししか残してい無かったがユウに再び巡り会えたからだ。
ユウは完全な悪魔になってしまっていた。半魔が悪魔になるのは信じていた者からの裏切り。私が彼の存在を書き換えてしまったのだ。その事実が胸のうちを傷つける、勝手に傷つく。自分が理由なのに、自分が犯した過ちが発端なのに。なんと自己中なのだろう、もしかしたら悪魔にも勝るかもしれないと私は苦笑を浮かべる。
空から地面へと目線を下げる。そこには、一人分の足跡があった。先ほど出て行ったユウの足跡。ユウは時折ふらっと出ていては何かをしている。恋人でも居るのだろうか、こう思うと胸が締め付けられる捨てられないかと不安になる。
捨てるも何も私の方から彼について行っている上に彼が悪魔になった原因、ユウからしたら誰かもわからない赤の他人いつでも捨てても関係ない人間だというのに、やはり私は傲慢で強欲だ。だから、母と交わした誰かを守るという約束を守れなかったのだ、守れなかったからあの指輪は母の遺志は私から離れて行った。
「はぁ。」
ここまで思考が巡ってため息を吐く。私の悪い癖だ、悪い方向に思考が回るのは、思考を切り替えるために再び空へ視線を移す。空は茜色に染まっていた。
それを認識した私は慌てて立ち上がった。まだ、ご飯の用意どころか家事が何も終わってないからだ。お昼頃から随分考え込んでしまったらしい。
冷暗所を覗く、野菜と肉が少し残っていた。今日は野菜スープを作ろう。そう思い材料を取り出し台所へ向かう。魔石でつきられたつまみを回すと火が出るコンロへ水瓶から水を汲んで満たした鍋を置く。野菜を食べやすい大きさにカットして鍋に放り込んでいき、火を掛ける。隣でこれまた食べやすい大きさに切った肉を入れたフライパンをもう一口のコンロに乗せ軽く火を入れ始める。
ある程度火を入れると鍋に放り込み調味料で味を作り煮込み。野菜達がしんなりしてきた程度で味を見た、完璧に出来ている。器によそい、黒パンをカゴに盛り付けユウの帰りを待つ。
空に紫が入り始めてもユウは帰って来ないか私は途端に不安に襲われた。また捨てられたのかとまたユウを失うのかと徐々に息が浅くなる、今までユウは夕方までには帰ってきていた。これは現実なのか、自分の意識の所在を疑い始める。熱を失ったスープが夢でない事を伝えてくる。
意識が錯乱し始めてきた、先程までの悪い考えも相まってそうなったのだろう。自分の冷静な部分がそう判断する。
ガチャ
ドアが唐突に開く、そこへ目を向けるとユウがいた。私はユウへと駆け寄る。ユウは私を抱きしめてくれた。
「これを買って遅くなったんだ。」
ユウは私に小さな箱を向ける。それを開くと指輪が収まっていた。ダイヤを中心に金で作られた花で囲われている意匠を持つ指輪。あの日ユウと一緒に失ったあの指輪。ユウは片膝をつき私に指輪を向ける。
「もう君を知らないふりも止める。だから契約だ。」
指輪の箱を私に向かって近づける。
「君の全てを僕にくれ。そしたら君に幸せを贈る。」
なんという悪どい契約だろうか。断る理由を丁寧に潰された。
「なら、私からも契約よ。」
私は左手を彼に差し出す。
「貴方の全てを私に下さい。そしたら貴方に幸せを送るわ。」
ユウは差し出した手の人差し指に指輪を嵌める。
「もちろんさ、セレナ。俺のお姫様。」
ユウの姿が変わる、羽が腐りおち、角が抜け落ちた。悪魔のユウは今私が殺した、半魔のユウを私は今、祝福した。
「一生お願い、ユウ。私の王子様。」
一人分の足跡の隣にもう一人分足跡が生まれた。
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