6話 ミナの家
森を抜けた先に広がっていたのは、静かで素朴な村だった。
門はなく、簡単な柵で囲われた村の中に、道の両側には石と木でできた家々が並んでいる。どの家も小ぢんまりとしていて、けれど丁寧に手入れされているのがわかる。屋根の上では猫が気だるげにあくびをし、遠くでは薪を割る音がコツン、コツンと響いていた。
「ここが、ミナの村だよ! ……ほら、あっちが広場で、あっちがお友達のユミのお家」
ミナが胸を張って言う。その声に、鶏がコケコッコーと鳴いて応じた。
「想像よりも、静かで温かい場所だな……」
マルトはぽつりとつぶやいた。
道すがら、畑の世話をしていた村人が顔を上げ、見知らぬ男の姿にちらりと視線を向けた。けれど、ミナが元気に「ただいま!」と声をかけると、村人たちは安心したように微笑みを返してくれた。
「マルトお兄ちゃん、こっちこっち!」
そうして案内されたのは、少し奥まった場所にある家だった。他の家と同じように、石と木でできていて、
「ただいまー!」
玄関の戸を開けると、すぐに家の中から女性の声が返ってきた。
「おかえり、ミナ――って……あら?」
姿を見せたのは、30代半ばほどの女性だった。肩までの髪を後ろでまとめ、シンプルな服装ながら、どこか落ち着いた雰囲気をまとっている。
「お母さん、この人はマルトお兄ちゃん! ミナ、森で魔物に会って転んじゃって……そしたら助けてくれたの!」
勢いよく説明するミナに、女性は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに穏やかな笑みに変わった。
「そう……助けてくださってありがとうございます。私はラナと申します。ミナの母です」
「いえ、たまたま通りがかっただけで……マルトといいます」
ラナは一礼したあと、じっとマルトを見つめた。優しい目をしているが、その奥には観察するような慎重な眼差しだった。
「失礼しました。どうぞ中へ。お怪我もあるようですし、座ってください」
「……ありがとうございます」
通された室内は整えられており、ほのかに薬草の香りが漂っていた。
「少し失礼しますね。」
マルトの肩をそっと確かめた。少し冷たい手だったが、不思議と安心感があった。
「少し腫れてますね……ミナ、水を汲んできてくれる?」
「うん!」
ミナが元気よく駆け出していくと、ラナは戸棚から布と薬を取り出し、マルトに向き直った。
「失礼ですが……このあたりの方ではないですよね」
「ええ、ちょっと遠くから来ました。道に迷って……」
「そうですか。何か事情があるのでしょうけれど、ミナを助けてくださったこと、本当に感謝しています。ですが、どうかご無理なさらないで。ここは静かな村ですから」
「わかっています。ありがとうございます」
その時、ミナが水を持って戻ってきた。
「おかあさん、お水くんできたよー!」
「ありがとう、ミナ」
「えへへ、まかせてってば!」
ミナが笑うと、ラナも少しだけ頬を緩めた。
その光景を見ながら、マルトは思った。
(……これが、“家族”の空気ってやつか。久しく感じてなかったな)
肩の力が、ほんの少しだけ抜けていた。