12話 細かい仕事、向いてるかも
家の前に戻ると、マルトはそっと額の汗をぬぐった。
まだ日差しは高く、作業着の背中にじんわりと汗がにじんでいる。
何往復も薪を運び終えたあとの身体は、思った以上に重かった。
けれど、どこか心地よい疲れだった。
「ありがとうございました。明日もお手伝いします」
そう口にすると、すぐ横でガルドが短く答えた。
「昼からは、ラナの仕事を手伝え。お前、細かい作業のほうが向いてる」
マルトは一瞬だけ驚いたが、すぐに気を引き締め直す。
――ラナさんの仕事も、ちゃんと頑張らないとな。
「……はい。やってみます」
マルトは、少し安心したような表情で明るく頷いた。
マルトは家の裏手にある作業小屋に足を運んだ。
木と石でできた平屋の一角。窓が開け放たれており、かすかに薬草の香りが風に乗って漂ってくる。
「いらっしゃい。……来てくれて、うれしいわ」
中からラナの声がした。リナやガルドとは違い、どこかやわらかい。
マルトは一礼して中に入る。
棚には木の器や袋が整然と並び、作業台の上には乾燥済みの薬草や小鍋、計量皿、刻み用の小刀がきちんと揃っていた。
「……すごい。まるで調剤室みたいですね」
「町の薬屋で働いてたからね。あっちはもっとにぎやかだったけど」
ラナは手を止めずに、淡く笑った。
「まずは、この薬草の仕分けをお願いできる? 乾いてるものだけを、種類ごとに分けて並べてほしいの」
木の盆の上には、何種類もの葉や茎が混ざっていた。
色も手触りも微妙に違う。ぱっと見ただけでは区別が難しい。
マルトは目を凝らしながら、ひとつひとつ丁寧に仕分けていく。
(これ、地味にむずかしいな……)
けれど、気を抜くと間違えそうな作業だからこそ、妙な集中力が生まれる。
何枚か仕分けを終えたところで、ラナがちらと手元を覗き込む。
「丁寧ね。……ちゃんと見分けられてる」
「……なんとなくですけど。葉の縁の形とか、筋の入り方で違うなって」
「それで十分よ。こういうの、慣れてない人ほど力任せにやっちゃうから」
そう言って、今度は煮出し用の道具を出してきた。
「次は、これを煮出して。焦らず火加減を見て、色が変わったら火を止めてね。香りが立ち始めたら合図になるわ」
マルトは、うなずきながら鍋を受け取った。
火加減、色、香り――曖昧な感覚が求められる作業に、一瞬だけ緊張する。
でも、不思議と落ち着いていた。
ラナはちらと視線を上げ、わずかに口元をほころばせた。
「……本当に、助かるわ」
そのひと言に、マルトの胸がほんの少しあたたかくなった。
(薪より、こっちのほうが……合ってるかもしれない)




