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11話 ほんの少し、前に進んだ気がした

マルトとガルドは、薪を運び終えたあと、無言で帰路についていた。


少しだけ風が涼しくなっていた。


朝の空気が動きはじめ、葉の影がゆるやかに揺れている。


――オレ、出来ていたんだろうか。


そんな思いが、ふと胸をよぎる。


ちゃんと役に立てたのか、期待に応えられたのか。


言葉にならない引っかかりが、足どりの片隅にまとわりついていた。


ふたりの足音だけが、土の上に淡く刻まれていた。


マルトは視線を落としながら、口を開いた。


「……オレ、今日の作業、足を引っ張ってなかったですか?」


ガルドはすぐには答えなかった。


やがて、ぽつりと低い声が落ちる。


「考えすぎだ。……“できるかどうか”じゃなく、“どう動くか”を見てる」


マルトは、少し顔を上げる。


「お前は、力で押すタイプじゃない。だが、手先が器用で、理屈で動ける。……そういうやつは、潰れない」


その言葉が胸に落ちたとき、マルトの中で、過去の記憶がふっと揺れた。


――若い頃は、まだ「器用だな」とか「気が利くな」って言ってもらえた。


けれど、年を重ねるにつれ、それだけでは評価されなくなった。


体力も、要領の良さも、派手な結果も求められるようになって、

歯車が少しずつ、噛み合わなくなっていった。


それがいつの間にか“居づらさ”になって、

気づけば職場を転々とし、正社員を辞め、派遣へ――。


“潰れなかった”んじゃない。“潰れかけた”まま、なんとか生きてた。


だから、今の言葉は――


……優しかった。


思いがけず、沁みた。


「ありがとうございます。でも……まだ、自信がなくて」


ガルドは立ち止まり、家の方を顎で示した。


一呼吸、間を置いて言う。


「この後、ラナの仕事を手伝ってみろ」


「え?」


「薬草の仕分けとか、煮出しとか……お前の細かさが活きる。向いてるかもな」


マルトは戸惑いながらも、頷く。


「……でも、もしダメだったら――」


「そのときはまた俺のとこに戻れ。薪割りではなく、村の大工の仕事を手伝わせる。きっと大工の筋も悪くない。手順を覚えるのが早い」


静かな声だったが、迷いのない言い方だった。


マルトは、少しだけ笑う。


「……はい。ありがとうございます。ちゃんと、役に立ちたいです」


ガルドはそれ以上何も言わず、いつものように無言で先を歩き出す。


マルトもその背を追って、静かに歩を進めた。

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