忠実な召使
愛さないもので、ヒロインを離れに放って置くのはヒロインが逞しくないと危険だと思います。
私はご主人様のお言葉に従っただけです。
あの見窄らしい女が花嫁として来た時これは我が家に対する侮辱だと仰って居たではありませんか。
箒の様なボサボサの髪に日に焼けた荒れた肌、老婆の様な手の名家の令嬢とは程遠い女を相応しく無いと。
ご主人様はあの女を一瞥した後
「この者にふさわしい部屋に連れていくが良い」とのお言葉のままに離れの物置に連れて行きました。
あの女は何も言いませんでした。
ご主人様が「あの女には残飯でも食わせておけ」とおっしゃるので、残り物を与えました。
あの女は何も言いませんでした。
ご主人様が「あの女にはボロ布でも与えておけ」とおっしゃるので、使い古しの布を与えました。
あの女は何も言いませんでした。
ご主人様が「あの女には誰もつけなくて良い」とおっしゃるので、侍女をつけませんでした。
あの女は何も言いませんでした。
ご主人様が「あの女は宝石を好んでいたそうだから石ころでも与えておけ」とおっしゃるので、石を与えておきました。
あの女は何も言いませんでした。
ご主人様が「あの女は無能に違いない」とおっしゃるので、勉強も仕事も娯楽も何もさせませんでした。
あの女は何も言いませんでした。
ご主人様が「あの女は男遊びをして居たそうだから、適当な者を当てがえ」とおっしゃっるので、下男をあてがいました。
あの女は何も言いませんでした。
何を与えても何を言ってもあの女は何もしない何も言いませんでした。
私はご主人様のお言葉を実行するために居ます。あの女の処遇はご主人様のお望みに従った結果のものです。
今更あの女が王家の生き残りだと判明して、王城に連れて行くと離れに行ったら、死体となって居たなんて。
「あの女は野垂れ死ぬが良い」っていつもご主人様はおしゃっていらしたではありませんか?
ご主人様はあの女に罵詈雑言を浴びせて居たではありませんですか。
ご主人様は「私の言葉一句一句に絶対に正確に従え」とおしゃっていらしたではありませんか?
私の弟も妹もご主人様のお言葉に愚かにも逆らったから処分したではありませんか?
私はずうっとずうっとご主人様のお言葉に従って来ただけです。
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とある名家の主人が召使を殺害した件について
とある名家の主人が召使を殺害、虐待死した嫁を隠蔽しようとした件について、古参の召使を口論の末怒り狂って殺害。
本人曰く「花嫁を害したから処罰したまで」との事
しかし周囲は「主人は花嫁に不満があり自分には相応しく無いと、離れに閉じ込めて居た。食事も残飯、掃除も自分でさせて居た。」との事命じられた婚姻に不満があった様だ。
さらに「ゴミを送りつけて身につけろと言い、暴力こそ振るわなかったが、罵詈雑言を浴びせて居た」と屋敷全体で虐げて居たようだ。
この主人自身、身分を笠に着て無理難題を召使達に押し付けて居た模様、過去に死人も出た様だ。
今回殺害された召使は、長年支えて居るもので主人の無理難題に答えて来た者で、一句一句忠実に叶えて来たそうだ。
同僚からは「ご主人様の命令に従うのが生きがい、まるで意志のない人形」とまで言われて居た。
その彼女に花嫁の面倒を見させて居たのだから、花嫁の処遇は主人の意思そのものなんだろう。
その花嫁だが、彼女は前王の隠し子でありいままで孤児院に居たそうで、そこで貧しい生活を強いられた。みなりが見窄らしかったのはそのためだ。
彼女は前王の隠し子の可能性が出て来たため、名家へ花嫁として嫁がせたが、うまく伝わって居なかったのか、婚姻自体不満だったのか。
彼は身分の低い女性を当てがわれたと考え彼女を閉じ込め虐待した様だ。
なんにせよ王家の者を不当に虐げたのだ。家は取り潰し、彼は処刑されるだろう。
・・・ところで花嫁の遺体は損傷が酷く身元は、はめて居た指輪で判別したくらいだ。彼女のお相手として当てがわれた下男とやらも行方知れずで屋敷の者も知らないと言う。
召使は本当に忠実だったのだろうか?
疑問は残るがもう終わった事だ。