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第十八 謎の機械 ~記憶抹殺ボタン~
僕は今、一つのボタンと向き合っている。
毒々しいような真っ赤なボタン。
これを押したら、僕の記憶は抹殺される、らしい。
ヒュウンと一瞬で、感じる間もなく。
僕はじっと思い返す。
恥ずかしい記憶、こそばゆい記憶、みっともない記憶。
どうせ無くなったっていいものだ。
これ以上失いたくないものなんて、
これっぽっちもないんだから。
僕はボタンに指をのせる。
あとはちょっぴり、力を入れるだけだった。
僕の記憶、さようなら――。
ふっと笑みが思わず漏れた。
やめた。
どんなに悪い記憶でも、それが今の僕をつくっているから。
記憶が無くなったら僕もう、僕じゃない誰かになっちまう。
カッカッカッカッ。
透き通った靴音を響かせて、僕はボタンから離れていった。




