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紙飛行機からの卒業

作者: 漆黒たづさ(暗黒)

 A4のチラシを縦に置いて、右下の角を左側まで折る。左下の角も右側まで折る。両端を内側に畳んで羽を作ると、随分と細長い紙飛行機の完成だ。こいつは思い切り飛ばすほど、速くまっすぐ飛ぶ。試しに10月のカレンダーに向かって飛ばしてみた。飛行機は赤く染まった富士山の中腹に音を立てて突き刺さり、背表紙を貫通してようやく停止した。無傷の機体を回収した僕はひとりぼっちの部屋で小躍りした。


 もっと速く飛ばしたくて、僕はパーソナルジムに通い出した。肩だけ鍛えればいいと思っていたけれど、体幹を強くすればその分動きが良くなるらしい。優しく健康的で美人なトレーナーは、いつも僕を励ましてくれる。僕は照れながら、必死にスクワットをして、ベンチプレスをして、ランニングをした。ジムを出るといつも、背筋を伸ばして大股でゆっくり歩いた。僕は少しだけ強くなった気がした。


 ジムでトレーニングを続けるうち、たまに喋る知り合いができた。その人は近くの会社に勤めていて、体型維持のために会社帰りに立ち寄るそうだ。体型維持をしているという人間によくみられるように、彼は話のネタに事欠かない多趣味な人物だった。僕は話題をほとんど持ち合わせていないので、いつも聞き役に徹した。彼は日々の業務や時事ネタを面白く喋った。僕は少しずつ笑うようになっていった。


 彼の勧めで、僕は彼の会社が主催するボランティア学習塾に参加して、理科を教えることになった。別に得意だったわけではないが、教科書を読めば全部書いてあるので、偉くなった気になって教えた。僕に憧れの目を向ける子ども達に、僕は少し息苦しさを覚えた。少しでもわかりやすく伝えられるように、模型を家で手作りするようになった。気づけば僕は、紙飛行機を飛ばさなくなっていた。


 それから僕は学校の先生になった。1年間必死で勉強して試験に合格し(大昔にとった資格がこんなところで役立つとは)、先月から担任を任せられた。履歴書に書くことはなにも無かった。それでもボランティアの経験と熱意が面接官の心を動かしたのかもしれない。僕はいま、子ども達に向かって紙飛行機の折り方を教える。子ども達の手にあるずいぶん細長い紙飛行機は、新しい風に乗って速くまっすぐ飛んでいく。僕はこうして紙飛行機から卒業した。

マジでこの折り方まじ最強だから!

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