67.四人模様
こうして私の日常はちょっとだけ変わった。
ポーションを作りながら、新しい魔法薬などを試して……。
変わったのは、メルトと作業するようになったことだ。
離宮で作業したり、帝都で作業したりと。
「ここの調合は……うーん」
工房でメルトが頭を悩ませる。
彼が今、手がけようとしているのは魔法薬の量産だ。
最高級のポーションは属人性が強い。
これの製造工程をなんとか分解し、分業できるように……という試みである。
「ケットシー族の毛を入れてみます?」
「あれって浄化の力があるとかだっけ……うまくいくの?」
「毛は浄化だけじゃなくて、魔力も吸着するんじゃないですかね。でないと治療薬にならないような気がしますし」
これは推測だ。
原作でそこまで原理的な説明はなかった。
でも、間違ってはないと思う。
私が知らないだけで色々な仕組みがこの世界にはある。
それを解きほぐして、世界をより良く。
きっとそれが私の使命だ。
「……試してみるか。キャサリンたちに協力してもらわないとね」
「今日の午後、私が話してみるわ」
そして変化がもうひとつ。
工房の扉を開けてアズールとその文官がやってきた。
「やぁ、邪魔するよ」
「陛下……! 執務はよろしいので?」
「皇太后様やその周囲も動きがないからねぇ。今のうちにソフィーが進める案件を集中的にバックアップしようかなって」
最近、アズールがよく来てくれる気がする。
勘違いだろうか。
いや、全然嫌ということではないのだけれど。
目の保養にもいいし、彼は恩人だから。
「飛行船に魔法薬の調合所を組み合わせるのなんて、どうだろう? そうすれば原材料を集約せずにロスなく出来る気がするんだけど」
「おぉー……! それは面白そうな気がしますね!」
それは考えてもみなかった。
でも、錬金術師ごと動かすのは……悪くない。
それが出来れば物流もスムーズにいきそうだ。
「それをやるなら、錬金術師をもっと増やさないと。飛行船を活用するのは先の話だよ」
だが、メルトがアズールの案に食ってかかる。
それも一理あると私は思った。
確かにそこまでやるなら、高度な調合ができないといけない。
大々的に飛行船を使うのはもっと後だろう。
「はぁ……こういうのはね、とりあえず1隻から始めるもんだよ。それから考えればいい」
むむっ、アズールの言葉に私は頷きかける。
テストをまず小規模にやれば、そうか……悩ましい。
最近、アズールとメルトが顔を合わせるとこうだ。
でも仲が悪いということでは、多分ない。
お互いに建設的に意見をぶつけあえる……ということなのだ。
私がにこやかに話を聞きながら調合をしていると、メルトが呼びかけてくる。
「ねぇ、君はどっちが良いと思う?」
「あー……」
続けて楽しそうな顔をしながら、アズールが聞いてきた。
「僕の案でいいよね?」
「……調合に集中しててよく聞いていませんでした」
「「ええっ!?」」
私が正直に言うと、ふたりががくっとする。
なんだかそれが面白くて、私もつられて笑ってしまう。
工房の扉がノックされ、キャサリンがトレイに載った軽食、飲み物を持ってくる。
もう午後のいい時間になっていたのか。
最近の楽しみはこれだ。
キャサリンは日々、心を砕いてこうした用意をしてくれる。
「軽食をお持ちしましたのですにゃー!」
「えーと、今日は……フルーツハニートーストと?」
たっぷりのメロンが乗った甘そうなトースト。
あとの飲み物はポッドに入っているので、ぱっと見はわからない。
「陛下の選ばれたコーヒーですにゃ」
「ほうほう……」
メルトがなんだか唇を歪めている。何かあったのだろうか。
まぁ、コーヒーはあんまりにも苦くなければ私はいいけれど。
「休憩にしましょう、おふたりとも」
適度に休みながら、一生懸命やっていこう。
それが私の進むべき道だ。
これからも、私はこの世界で胸を張って生きてやるんだ。
ここまでで第一部完結になります!
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