6.白い結婚
「なっ……!?」
あのアズールが求婚……しかも私に向かって!?
最初はせいぜい、彼に拾われて自由の身になればラッキーくらいだったのに。
なにがどうして、こんな私に求婚をするのだろう。
と、私の気持ちを見透かしたアズールが寂しげにする。
ずるい、その顔はずるい。
「信じられないのも無理ないよね。僕もこんな気持ちになるのは初めてだ」
「は、はぁ……」
「実は他国から色々と縁談が舞い込んで、参っててね。無下にするのも角が立つ。つまらない奴とは仮でも結婚なんてしたくない。君なら退屈もしないし――恋愛とかこりごりだろう?」
「それはまぁ、そうです。結婚には幻滅しました」
こくこくと頷く。
こんな仕打ちをされてまた恋愛しようだなんて。
そこまで私は恋愛脳じゃない。
しばらく恋愛は置いておきたい……って、それじゃこの結婚は?
もしかして――白い結婚というやつだろうか。
「僕も同じ気持ちだ。これは契約結婚と思ってくれていい。お互いに面倒はなし。子どもも作らない。対外的にいてくれればそれでいいから」
うっ、魅力的な提案のように聞こえる。
今の私には正直、何もない。
身分もなければ金もない。無限の自由な無限の無職だ。
それはあんまりよろしくない気がする。
とりあえず色々と聞いてみよう。
「……姑やその他の親族との同居は?」
「ひとりで離宮住まいの僕が、他人のことを言えないよね。別居でいいんじゃないか」
おおっ!
認めてくれた……!
じゃあ、お気楽な自由ライフを満喫できてしまう!
誰にも干渉されずに寝過ごせる!
「……仕事もセーブしてゴロゴロしたいのですが?」
「ああ、僕も臣民以外のためには働かないし」
アズールが周囲に目を向ける。
そこにはケットシー族の皆さんがふもふもしながら働いていた。
「君のポーションはケットシー族やらには効果が強いみたいだけど、量はそんなに必要ない」
「なんと! ケットシー族には私のポーションがよく効くんですか!」
それは初耳だった。
前世の記憶にもそういうことは書いてなかった、はず。
隠し設定かな?
でもケットシー族に私のポーションが効果的と聞かされたら、ちょっと頑張る気が出てきた。
深夜労働も徹夜もする気はないですけれど。
ふもふもなケットシー族のためなら働きますよ、そりゃ。
「君、やっぱり面白いね。リディアル帝国以外の人はケットシー族やコボルト族を差別するのが普通なのに」
そう、この世界では毛並みある一族(ケットシー族やコボルト族などの獣の特徴を持つ人々)は差別されている。
呪われているとか、憑依されているとか。
散々な言われようだ。
でも実際にはそんなことはない。
そうした差別や偏見と闘うのも小説の世界では重要なテーマだった。
もちろん私はそうした毛並みある一族を差別する気持ちはない。
「かもしれませんね。でも私は無根拠な思い込みとは無縁なので」
こうして話している間にもアラン=ウェズールは空を飛んでいる。
帆をはためかせ、自由に。
……ふと、旅がしたかったと思った。
前世でも今の人生でも忙しくて長旅をしたことがない。
飛行機に乗ったのも数える程度だ。
のんびり自由を満喫できるなら、この飛行船がぴったりかもしれない。
「……飛行船は使わせてもらえますか?」
「構わないよ。君も空が好きなのかい?」
「わかるほど空にいたことがないので。でも、いい風だと思います」
「ますます気に入った。ふふっ、もちろん使えばいいさ」
アズールは約束を守る人だ。白い結婚を望んでいる、というのは本当だろう。
縁談を断るのに都合がいい……っていうのも事実のはず。
大帝国の皇帝様がそれでいいのかって気はするけれど。
彼は他人の物差しで測れるような人じゃない。
「どうだい? 僕の妻になる気になってきたかな?」
今の私はかなり乗り気だった。
ふもふもな人に囲まれ、アズールと過ごして、世界を見てみる。
前世で過労死した私もこの世界では16歳。
この世界を楽しんでも罰は当たらないはずだ。
はっきりとアズールの瞳見つめながら、私は指先でそっとアズールの手を取った。
「はい――お互いのいい退屈しのぎになるために。よろしくお願いいたします」
「ああ、君に誓おう。これは楽しい催しになる。生涯をかけた劇だ」
今はまだ、これだけ。
でも彼の熱が指先から伝わってくる。
「で、まずひとつお願いしたいのですけれど」
「一体何かな?」
「私、徹夜明けでして……もう眠気が限界です。寝かせてください」
「……くくくっ、あはは! 特等の寝室があるよ。案内させよう」
「ありがとうございます!」
「ああ、ついでにこの飛行船には浴場もあるんだけど。使うかい?」
なんですと!?
それは……もちろん!
今、この人と妻になる契約をして、早速いいと思ってしまった。
これにて第1章、終了です!
お読みいただき、ありがとうございました!!
第2章はソフィーを売った実家編になります!
ぜひともご期待ください!
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