59.私の意味
「信じられないよ。あの人がそんなふうに考えるだなんてね」
「……あなたも命をかけているのではないですか。誰に理解されなくても」
私の言葉にメルトが目を細める。
「僕とアズールが同じだって……そう言いたいのかい?」
「ある意味では、そうです」
実際、接してみてわかった。
世間で言われるほどアズールは謎めいてないし、メルトは気難しくもない。
ただ、不器用なところがあるのだ。
アズールは物事を組み立て、進めるということについては天才的。
でも身内には不信感を持っている。
メルトは魔法薬について、比類ない才能と努力に裏付けされた実力を持つ。
でも優しすぎて……迷って、大人にいいようにされている。
前世を思い出していた私なら、きっと橋渡しになれるはずだ。
「……君は大人だね」
「かもしれません。そこそこ苦労はしてきたので」
メルトはふぅと息を吐いた。
彼はこれまで見た中で一番疲れていた。
やがて目元を和らげ、メルトが言う。
「君の推測のうち、いい線を行っているのもある。そう――この背中の死熱毒は僕自身が調合したものだ」
「……やはり」
「でも君の言う通りだ。きちんと死ねるか、どうなるかはわからない……きっと僕は死ねるんだろうけれど」
どうしてメルトが死を選んだのか。
それは言ってくれない。きっと、それは私が伺いしれないものなのだろう。
「……陛下には私から伝えますね」
「あの人に知られるのは、やっぱり格好悪いなぁ……」
メルトがやや困ったことをする。
でもその顔はやっと年齢相応に見えた。
こうして帝都から離宮へと私は戻った。
何が解決したのか、とても難しい。
「でもいい方向にいったと信じたいな……」
結局……裏で手を引いていたのは誰だったのだろう。
アズールなら目星をつけているかもだけど。
翌日、私は無理を言ってアズールと会う時間を作った。
乗り込んだのは離宮近くにあった、アズールの執務室だ。
宮殿のいくつかもの執務室を分散させているのは、アズールらしい。
簡素でいくつかの鍵付き棚しかない部屋で、私はアズールと向き合った。
「話したいことがあります」
「珍しいね、君から押しかけるなんて」
「メルト殿下について、色々とありまして」
私の言葉に腰掛けるアズールがわずかに目を細めた。
「ふぅん……彼のことか」
「端的に言いますと、あともう少しで殿下は死んでしまわれます」
「――は?」
アズールがぎょっと目を見開いた。
私は初めて、彼が心から驚く顔を見たかもしれない。
「一体、どういうことだ」
「これには私の推測が含まれますが――」
「構わない」
アズールははっきりとそう言った。
良かった。
私の見込みは、間違ってはいない。
アズールはやっぱりメルトのことを想っていた。
私はなるべく、誰も悪くならないように推測を述べた。
アズールから口を出されることはなかったけれど……怒りを感じる。
それは私に向けてではなく、他の誰かへだった。
途中、何度かキャサリンが状況を窺いにきて――でもアズールは私との話し合いを優先した。
他のすべての予定をキャンセルして。
話し終わった後、アズールは疲れた顔をしていた。
そこはメルトとよく似ていたと思う。
「……なるほどね」
「証拠はありません。そこだけは申し訳なく思います」
「いいよ。符合することもある。それに証拠は重要じゃない。メルトが死にかけている、ということのほうが重要だ」
「はい。でも治療の手立てはあります」
私の言葉にアズールは頷いた。
「それが本当なら、何の問題もない」
「ただ――死熱毒は難病です。陛下の御力が必要かと」
「ああ、何でも協力しよう」
……死熱毒は特殊な毒だ。
解毒方法も原作の主人公がやっと見つけ出したもの。
今、私に再現できるか……これは賭けだった。
でもやるしかない。
これが私が前世を思い出した、真の意味なのだから。
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