57.真相、3
メルトからすぐに反応は返ってこなかった。
でもこれも私の想定内だ。
あっさり口を割るとは、思っていない。
「なぜそう思ったのか、根拠を言いましょうか」
「…………」
メルトは言葉が出ないようだった。
ただ、私をじっと睨んでいる。
『触れてくれるな』
痛いほどにメルトの意図が伝わってくるが、私は無視した。
あの館の日々を考えれば、どうということはない。
自分の部屋に火をつけた私は強い。
メルトの視線で考えを変えるわけもなかった。
「陛下があなたを信じているからです。毒を仕込めるのは、あなたぐらいでしょうね」
「……でも失敗しただろう? 未遂で終わった。あの人に隙はない」
「そもそも暗殺成功が目的ではなかったら?」
「矛盾してる。失敗を前提で毒殺を計画するなんて……僕は何のために身代わりになったっていうんだい?」
「でも、そのおかげであなたは皇族で有力な立場に立てた。元より陛下を暗殺するのが不可能という前提に立てば、これが最善なのだと思います」
これが私の推測だった。
アズールはとてつもなく警戒心が強い。
彼の目をかいくぐり、暗殺を成功させるのは不可能だ。
しかし、逆にそんな彼を救ったとすればどうだろう?
間違いなく一目置かれ、有利な立場になれる。
「……妄想もそこまでいくと大したもんだ。証拠はあるのかい?」
「ありません」
「はっ……ははは。馬鹿すぎて話にならないな」
「あえて言うなら、私がここにいるのが証拠です」
「意味がわからないよ」
メルトが首を鳴らした。
それは久し振りに見せた本音なのだろう。
「あの陛下が他国から女性を連れ帰ったと聞いて、ずいぶんらしくない……と思いませんでしたか?」
「……まぁ、ね。あの人はそういうのに興味がないと思ってた」
メルトの首がわずかに縦に揺れた。
そこは同意してくれるみたいだ。
まぁ、この国の誰に聞いても、そう返ってくるだろうけど。
「陛下もこの真相を予感していたのではないでしょうか……。でも彼には死熱毒や魔法薬の知識が足りない。それにお互いに陣営のことは知り尽くしている。動くに動けなかったはず」
「だから、君が……?」
「まぁ……真相は正直、どうでもいいんですよ」
私が言葉を切った。
正直、どこまで考えても真実なんてわからない。
「これが私の納得できそうな真実というだけで」
「正気かい?」
「ええ……私にとって重要なのは、その死熱毒を私なら治療できるということです」
「――ッ!!」
「その死熱毒をどうするつもりなのか、なんとなくわかります……。あなたは死ぬつもりなんですよね」
これは問いではなかった。
私は確信を込めている。
メルトから答えはなかった。
「それは陛下暗殺未遂の時の毒なのか、もっと別の日に接種したのかまではわかりませんが……でも、あなたは全ての疑惑を道連れに死ぬつもりです」
「……他にやりようなんて、ないだろう?」
メルトが疲れたかのように、椅子へと座った。
彼の本音がようやく表に出てきた。
「もううんざりなんだ。これで綺麗に終わらせられる」
「幕引きまで陛下に委ねるつもりですか」
私の一言にメルトが視線を落とす。
「当然だ。この国は彼のモノなんだから。彼の舞台なんだ。俺はいらない。アズールだって、きっとそう思ってる」
「――確かに陛下もそう思っているでしょうね」
今のアズールなら、そうだろう。
私を呼び寄せたのだって、そんなに目算のあっての話ではない。
でも私は知っている。
あの人は――アズールは後悔するのだ。
あなたを、メルトを失って……ずっと思い悩む。
手のひらが赤く染まったと記憶に刻まれる。
そんなことには、なって欲しくはなかった。
「でもそれは後悔しない、というわけじゃないですよ」
「……君に何がわかるんだい?」
「あなたを助ける機会があるのなら、きっとそうするってことです」
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!