53.皇太后の症状
……どういうことだろうか。
私はまたしても、新情報を突き付けられた。
(ティリエが死熱毒にかかって……? でも、症状は……)
背中に黒斑。ひどい苦痛。治療不可。
どれも死熱毒の特徴に良く合致している。
でも理解できないこともある。
本当に死熱毒なら、解毒は不可能なはず。
少なくとも原作主人公のミラが考え出すまで、死熱毒は絶対の死だった。
死に至るまで時間がかかるとはいえ、6年前なら助からない。
今、ここでティリエは生きているはずがない。
さらにメルトが治療薬を作った、ということは……。
(メルトは死熱毒を解毒できるの? だったら、どうして自分を助けないの?)
全然わからない。
いますぐ枕に頭を連打して考え込みたいくらいだ。
私のフリーズをティリエがフォローする。
「あら? 驚かせてしまったかしら、ごめんなさいね。でも外の人からは不思議に見えるでしょうから……私がどうしてメルトを評価しているのか。ちゃんと言っておいたほうがいいと思って」
「……そう、ですね。ティリエ様が大病を患っていると聞いて、驚きました。もう症状は残っていないのですよね?」
「もちろんよ。あれ以来、宮廷医の定期健診でも何もないわ。風邪ひとつ引かないんだから」
「なら良かったです。後遺症が残ってしまうこともありますし」
「錬金術師だけあって詳しいのね。はぁ、でも本当に後遺症もなく完治して良かったわ……。あの痛みだけは、もう二度とごめんよ」
ティリエが肩をすくめ、ティーカップを手に取って紅茶を啜る。
この話題はこれで終わり、とでも言うように。
でも疑問は全く解消されていない。
「ティリエ様に毒を盛った犯人は、捕まったのですよね」
「ええ、当然。先帝陛下がね。でも捕まったのはメイドと調合師だけ……しかもすぐ自害してしまったから、黒幕はわからない。まぁ、先帝陛下とメルト以外の誰かが犯人なのでしょうけれど」
表情を崩さず、しれっとティリエが答える。
自分が殺されかけた事件を語らせるとは私もひどいかもだけど、死熱毒はまだ終わっていない。
(……じゃあティリエとメルトを毒殺しようとした黒幕は一緒?)
そう考えると、考えてしまうと。
ひとりの男の顔が思い浮かぶ。
ティリエの羽振りの良さと派閥の結束は、今日見たばかりだ。
アズールが大権を握ってさえこうなのだから、過去には相当な脅威だったろう。
そしてそんなティリエが祭り上げようとしているのが、メルト。
多分、現状だとアズールに対抗できる唯一の皇族だ。
若くて才能があり、後ろ盾となる勢力も存在する。
あのアズールは……アズールなら、どうするだろうか。
(メルトを脅威にみて、抹殺しようとする……?)
私の顔を見たティリエが意味深に微笑む。
「あなたにもわかってきたようね。私たちの現状が」
「……仰る意味はわかります。この国に来てまだ間もない私には受け止められませんけれど」
「それでいいのよ。焦って動いてもいい結果にはならないわ。本気でやる時には、相応のやり方というものがあるんだから」
「…………」
壮絶な笑みを浮かべるティリエ。
とりあえず、今日の会合での話はここまでだった。
あとは何回も親しくして、具体的にどう動くか……ということなんだろうけれど。
最後に手作り石鹸を手渡すと、とても喜んでくれた。
「まぁ、これをあなたが? 箱越しでも魔力が伝わってくるわね」
「ご不要でなければ幸いです」
「質の良い化粧品は大歓迎よ。でも……贈り物にしてはきっちり作り過ぎている気がするわね。ここまでの品を作るのは大変だったでしょう?」
ティリエが真心を込めて聞いてくれる。
少なくとも嫌味なところは一切ない。
「手間はかかりましたが……。というより、そこまでわかりますので?」
「私も錬金術の端くれですからね。ふぅ、茶器を自作しようとして断念した程度の才能だったけれど。だから市販品との魔力の違いくらいは分かるわ」
「なんと……! そうでしたか」
そこで私はこれ幸いと石鹸の販売計画をアピールする。
彼女もどうやら乗り気なようで、一石二鳥の好都合だった。
ティリエとの関係がどうなるかは分からない……でも、繋がりは強く持っておいて、今は損のないはず。
裏切るにしても、未来がまた変わるにしても。
(……謎がまた増えてしまったけれど)
でもピースは揃いつつある。
この事件と帝国に潜むものは、一体なんなのだろう。
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