50.茶器鑑賞会
数日後。夏の暑い盛りに皇太后主催の茶器鑑賞会が執り行われた。
開催場所は皇太后の離宮だ。
私のお供は……キャサリンといったケットシー族やコボルト族の人ではない。
私の離宮では数少ないトール族だけをお供にした。
これはティリエの派閥へ乗り込むことを考慮したものだ。
正直なところ、キャサリンたちをこの場に連れていくのは気が引けた。
間違いなく気分の悪くなる差別的言動に直面するだろうし。
ならば連れていかないほうが賢明だ。
(……やっぱりトール族しかいないわね)
招かれた招待客も、その供もトール族だけ。
このリディアル帝国ではおよそ考えられないトール族の比率である。
皇太后ティリエの離宮は瀟洒で豪勢だ。
芝生が青々と茂り、生け垣は天使の形に刈り込まれていた。
肌を熱する陽気に向かい、色鮮やかなユリの花が咲き誇っている。
でも庭の広さや離宮の体積は、私の離宮のほうが上であると一見してわかる。
アズールが全力を持って私に用意した、というのは今更ながらに本当のようだった。
離宮の入り口ではティリエ自ら、来客を出迎えている。
私の姿を認めるや、ティリエが顔を綻ばせた。
「ようこそ、ソフィー。来てくれて嬉しいわ」
「こちらこそ。お招き頂いて光栄です」
「うふふ、来てくださるか不安だったけれども……陛下をどのように説得したのかしら?」
「特に何事もなく。私のするべきことは私が決めますので」
嘘は言っていない。
アズールも政治的に私を送り込んだほうが得であるとわかっていた。
ただ、気が進まないのと自分では行きたくないだけだ。
でも私の回答はティリエにとって、好ましいものであったらしい。
「あら、あの方に向かって勇気があるのね。そうよ、憚ることなんてないわ。あの人に対してだってね。さぁ、行きましょう」
ティリエ直々に私を先導し、離宮の大広間へと案内してくれる。
大広間には大勢の女性貴族とメイドがすでにいた。
広間にはテーブルが凹型に並べられ、種々の茶器が置かれている。
一番多いのは純白の陶器。次にあるのは茶色の陶器だった。
(まぁ、正直に言うと茶器の良さは全然わからないのよね)
多分、大広間に入ってすぐ置かれている純白のティーセット。
まるっとしたアレが一番高価な代物だと見当をつける。
「素晴らしいコレクションですね、皇太后様。どれもきらびやかで美しいですわ」
「あらあら、わかってくれる? どれも手に入れるのに苦労したのだから」
ちょっと褒めるだけでティリエのご機嫌は急上昇だった。
それからはティリエのほうから茶器の細々とした説明(自慢)が始まる。
やれこれは南方から取り寄せただの、東方の逸品だの。
リディアルではまだここまでの白は出せないだの、これから何が流行りそうだの。
生返事にならないようにだけ注意し、ティリエに喋らせることを目指す。
……どうやらそのほうがティリエも気分が良いようだし。
「まぁ、そうなのですか?」
「皇太后様はどうお考えなので?」
「リディアルの間ではどのように評価されているのでしょう?」
なかなかの対処っぷりだと思おう。
前世で身につけた対お局様用話術だ。
ふぅ……とりあえずボロは出ていないはず。
一通り、茶器を見て回ると1時間ほどが経っていた。
ティリエが広間の大時計を見上げる。
「そろそろ良い時間ね。ランチもご一緒にどうかしら?」
来た。
私にとってはむしろ、そっちが本題だ。
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