49.茶器鑑賞会への誘い
「何かあったのでしょうか?」
「……それは大丈夫なのかい」
アズールがミスリルの桶を指す。
これを気にしていたのか。それだけでもない雰囲気だったけれど。
「ええ、あとは定期的に魔力を送り込むだけなので、ここから離れなければ問題ありません」
「そうか……。錬金術にはイマイチ疎くてね」
それは仕方がない。人間なんでもは無理だ。
というより、錬金術だけは私のほうが出来ていたい……!
アズールがゆっくりと口を開く。
「例のあの人――皇太后から君へ招待状が届いた」
「えっ、私にですか? いえ、それをどうして陛下が……?」
「皇太后が出す手紙やらは監視してるからね」
しれっとアズールが言い放つ。
……なるほど。だから最初に皇太后は私の元に来たのか。
手紙だと、どうしてもアズールを通さなければいけないから。
「名目はちゃんとある。皇族の通信は外務省の預かりだ――俺がそうした」
「それは別に咎めておりませんし、そのほうが宜しいかと思いますが」
「……理解してくれて嬉しいよ」
言い訳がましいアズールにちょっとだけ笑みがこぼれる。
少しは気まずいと自覚があるのだろう。
「手紙はこれだ」
アズールが懐から出してきた手紙を受け取る。
銀箔に朱の墨入り。きちんとした紙を使っていた。
「拝見いたします」
中身もまた、代筆による公文書のようだった。
印も形式もきらびやかに整えている。
(ランデーリのあの王子様に比べたら、ずっと尊重してくれているわね……)
ティリエのことは特段、好きではないがこうした点は評価できる。
もしかしたら私の目線が低すぎるのかもしれないけれど。
手紙の中身は皇太后主催の茶器展覧会への参加要請だった。
「これは頻繁に行われている会なのですか?」
「皇太后の自慢も兼ねてね。彼女の派閥連中がわらわらと集まるだろう」
「そこに私を……意図はどこにあるのでしょうね」
「簡単さ。君を仲間に引き込もうとしている」
アズールがあっさりと言い放った。
「……私が引き込まれると思っておられるのでしょうかね」
「さぁね……。良くも悪くも、彼女はそこら辺に頓着しない」
確かに適当に相槌を打つだけで喜んでくれた気がする。
妙なところで能天気なのがティリエという女性なのかも……。
そんな彼女がアズールと対立するのは無謀ではあるけれど。
もしかしたら、そんなことも気にしていないだろう。
「で、ソフィー……どうする?」
「そうですねぇ、うーん」
ちょっとだけ腕を組んで、考える。
機会としては悪くない。
ティリエやメルトについて探りを入れるチャンスだ。
人が多い、ということであれば……下手なことはティリエもしないだろう。
「陛下のお許しがあれば、参加したく思いますが」
「勇気あるねぇ……」
「毒殺の危険があっても、大抵の毒ならば問題ありませんからね。解毒できます」
「君に危害を加える人間がいたら僕が八つ裂きにするよ」
「それは恐ろしい。でも、そうはならないと信じます」
ティリエに私への害意は感じられなかった。
適当に近づけば、何かぽろっと重要なことを漏らす可能性はありそうだ。
「私が探ったほうが陛下の為にもなるのでは?」
「……否定はしないよ。お勧めはしないけれど、君が――」
皮膜の魔力が満ちてきたので、反射的に手を桶へかざしてしまった。
そのまま沈黙に包まれる工房。
魔力の注入が終わってから、私が咳払いする。
「えーと……すみません、話の腰を折るつもりはなくて」
「いや、気にしないでくれ。君がいいなら構わない。本当に負担じゃないんだよね」
負担ではない。
むしろメルトのことも聞けるのなら、望むところだ。
それにちょうど、良い手土産も作ってるのだし。
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