47.ルビーオーク
私は死熱毒について、無味無臭に近いと思っていた。
社交界で暗殺するのに刺激臭や辛味があったら不向きだ。
あるいは薄めて使うのなら、不利益はないのかもだけれど。
そして死熱毒が南方でよく使われる、という記述も初めて読んだ。
……確かに木を隠すなら森の中。
元から味の濃い料理に混ぜてしまえば、露見する可能性は少ない……。
(でもちょっと妙だな)
原作で死熱毒に侵された人々は、宵闇通りから少し離れたところにいたはず。
そこを訪れなかったのは、発症まもない人しか出てこなかったからだ。
つまり、今の原作より前の時間軸ではまだ死熱毒に侵された人はいない。
だから行っても意味はないだろうと思っていたけれど……。
(……念のため、調査するか)
頭の中のやることリストに付け加える。
で、文献を読み進めながら錬金術のことも頭に入れていく。
最初に作る物は決まっている
「やっぱりキャサリンへのお礼よね……!」
この離宮の工房で最初に作るべきは、身近な人へのお礼の品だろう。
書籍を執務室の目立たないところに隠した私は、工房へと向かう。
ピカピカの棚やテーブル、使い慣れた調合器具、それにたくさんの素材。
私のイメージ通りの工房が離宮に出来ていた。
「素晴らしいわ! これで思い切り錬金術ができるわね……!」
「ありがとうございますにゃ!」
床には取り寄せてもらった素材用の箱がいくつも置いてある。
頑丈そうな木箱をメイドに開けてもらうと、そこからは黒ずんだ樹皮と真紅の断面を持った木材が現れた。
枯れた木の匂いと良質の魔力がすぐに感じ取れる。
「ルビーオークですにゃ、これでお間違えありませんにゃ?」
「完璧よ。いいルビーオークね」
屈んでルビーオークを手に取る。
キラキラとした断面はぼんやりと私とキャサリンの顔が映るほどだ。
爪で弾くと硬質なカンという音が響く。
「これで石鹸を作ってみようかと思って。完成したら、皆にプレゼントするわね」
「石鹸ですにゃ……!?」
キャサリンが瞳を輝かせる。
毛並みがつやつやになる石鹸ならきっと喜んでもらえると思ったけど、当たりのようだ。まだこの世界では石鹸はそこそこ高いはずだし。
「皆にはお世話になっているしね」
「そんな……もったいないお言葉ですにゃ!」
メイドも私を尊敬の眼差しで見てくれる。
そこで私はすすっと皆さんの頭をなでなで。
隙あらば撫でる私。
「いいのよ、気にしないで。代わりといってはなんだけど、使ってみたら感想を色々と聞きたいの。いずれ売り出したいし」
「もちろん何でもご協力いたしますのにゃ!」
アズールから歳費は貰うけれど、それに頼り過ぎるのは良くない。
自分でも収入は確保しないとね。
というわけで自作石鹸を工房で作り始めるのだ。
まずは取り寄せてもらったルビーオークの薪を燃やして、灰にする。
このルビーオークは非常に硬くて、アルカリ質と魔力を豊富に含む。
焼却用の炉があるので、そこにルビーオークを放り込む。
もちろん、単なる薪と同じようにやっても高品質にはならない。
手をかざし、魔力を送り込む――燃えて逃げる魔力を抑えつけ、灰に閉じ込めるのだ。
これで普通にはない魔力を秘めた石鹸ができてくれる。
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